三十八話目
俺に抱き着きながら大まかにファミレが説明をして、ジェシカが細かいところの訂正や修正をするというような形で、俺が気を失ったあとの顛末を聞いた。
そりゃあジェシカ不機嫌にもなるよな。
「ジェシカ、俺が気を失ってからどれくらい経った?」
「まだそんなに時間が経ってる訳では無いわよ。今ちょうど日が暮れるくらいかしらね。」
「そうか、ありがとう。」
「別に良いわ。これくらい。…そうだチヒロ、私も聞きたいことがあるんだったわ。」
不機嫌そうな口調から一転、真面目な口調でこちらの顔をまっすぐ見ながら聞いてくる。
「ファミレも私も、無詠唱で魔法を発動することができたわ。…前にあなたが火の鳥を討伐した時も無詠唱で巨大なファイヤーボールを発動させてたわよね。」
一応無詠唱ということがバレないようにそれっぽく言ったはずなんだが……。
「火を以て火を制す…だったかしら?あんなのが詠唱だったら、街中の人が魔法使えるわよ。」
「いや、普通の魔法の詠唱でも使えなくはないだろ。」
そういや火の鳥討伐に参加してた魔法使い、結構ドジってた気がするけど緊張していただけだったんだよな?
「ともかく!チヒロ君…いや。貴方は、無詠唱で魔法を発動することができるのね?」
「……あぁ、そうだ。魔法は無詠唱で発動させている。」
「よくよく考えたら、記憶喪失の貴方が魔法の詠唱を覚えている筈無いものね。」
……言われるまで気付かなかったな…。
「えぇっ!?チヒロ君、魔法無詠唱で発動させてたの!?」
「ファミレも使ってたでしょうが、あのでっかいの。」
「……そうだったわね。……あれ?…うわっ!?私、なんでチヒロ君に抱き着いてるの?!」
「はぁ……ファミレも私も、こんな感じで無意識に魔法を発動させていたのよ。意識して魔法を発動させることがチヒロはできてるようだけど、何かコツのようなものはあるの?」
ジェシカが真剣に話している真横で、ファミレが顔を赤くしながら隠し、うーうー唸っている。
「ああ…初めてのハグが……。」
「ファミレ?あなたチヒロ君を助ける時にも抱きしめてたわよ?」
「わああああん!!!私もチヒロ君も無意識だったのー!?ああああ!私の初ハグがああ!!!」
「初めてのハグってそんなに大事!?」
いつの間にか仲良しになっている二人を置いて、冒険者ギルドに向かった。
ミレニカは俺の顔を見るなり、顔を赤くしてしまって子供たちと遊び始めていたのには、少し複雑な感情を抱いた気がした。
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ファミレが魔法の発動によって生成された巨大な水の塊が、夕日に照らされて橙色に光っているように見える。これは綺麗だ。
そんなことを思いながら、冒険者ギルドへと足を進めた。
火の鳥討伐の興奮は冷めやらぬようで、行きかう人々の話は大抵火の鳥出現と俺の救出劇の話だった。
そして冒険者ギルドに入ったと同時に、視界がスローモーションになった。
ここのギルドじゃ起きないと思ってたんだがなぁ…。
見渡せば、ドアに隠れていたのか俺の真横にナイフを持った子供が潜んでいた。かなりボロボロな服をきていて、靴が見当たらない。
おい誰か冒険者止めろよこいつを。何か分け与えてやれよ。
…俺の討伐依頼を知ったんだろうなぁ。事細かに容姿を乗せて依頼してあるから人違いだとも言い張れなくて困ったものだ。
あぁ…面倒くさいな。
スローになった世界の中で、ナイフを持った少年は無視して受付へと進む。
ある程度少年から離れるとスローではなくなった。
誰もが俺の居た場所に驚いていたが、俺は構わずこう言った。
「ルットーを呼んでくれ。」
受付は冷静に、目が笑っていない笑顔で、何事も無かったかのように応対してくれた。
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「やぁチヒロ君。この王都、セランディカ王国を助けてくれてありがとう。先に礼を言っておくよ。」
「それはどうも。まず、あの少年をどうにかしてくれないか?急に襲い掛かられたんだが。」
俺がギルドマスター室に行くのではなく、ルットーがこちらに来るという事だったので、ナイフを持った少年を障壁で囲んだ。囲まないとスローになって面倒極まりないからな。
少年は障壁から出ようと、両手で何回も必死に叩いている。
「…だからって障壁で囲まなくてもいいと思うんだけど……。」
「こうしてルットーと話している間に後ろから刺されろと。つまりはそういうことを言いたいわけだな?」
「分かった分かった。じゃあまずあれは冒険者登録を終わらせたうえで、チヒロへの攻撃はよす様に言っておくよ。」
「あー、デハミッシュ王国じゃあ俺の討伐依頼出されてるから、それを見たのかもしれないけどな。」
「そうか、お前の討伐依頼か。なら…はぁ!?討伐依頼!?待て!どうなったら一個人に対して討伐依頼が出されるんだ!?」
「そりゃあ討伐してほしい奴がいるんだろうさ。…世間話はこの辺にして、火の鳥のことについて話そう。」
「あ…ああ。」
かなりルットーが俺の討伐依頼を気にしたようだったが、気にせずに火の鳥の話をすすめた。
明日、俺とファミレとジェシカが、王城に召集されたようだった。
俺の目の前には、広大なサンゴ礁とその中心にある巨大な窪みがあり、目を奪われていた。
すると30メートル程離れた所で、海中から勢いよく何かが飛び出してきた。
空中に数メートル程舞い上がったところを見て、思わず言葉が出た。
「人魚だ…。」
上半身は人間で、下半身は魚の正真正銘の人魚。
男だが。
「何者だ!」
「思うに、あんたみたいなのがそうやって出てくるから人魚族は誘拐されるんだと思うぞ。俺達はここに来た海賊を捕まえるために来た。」
「信用できるか!」
「じゃあしないでくれ。」
俺は船で来たのではなく、個人で歩いてきたので容易に帰れる。
ので、引き返すことにした。
「すまん!悪かった!少しでいいから案内させてくれ!」
「あ?信用しないんじゃなかったのか?」
「今信用した!」
「はぁ……じゃあ案内を頼む。」
こうして、俺は水の中に入り深く潜り始めた。
「が…びきぼうびぼ。」
そう水中で喋ったのは、往復のことなど考えずに息を9割使って潜り終わった時だった。




