三十七話目
「ねぇ…‥シカ、悪かっ………機嫌直し……れない?」
「嫌。お……いわよ、……なの。私冒険……ンクAで結……躍してるは………に、なんで皆私のこ……うの?確……?私は……たわよ?冒険者ギルドの受付………たのは事実なのよ?」
どこかで聞いた声だな……。
…あれ?確か、火の鳥を障壁で縮ませてたはずだったけど …どうなったんだっけか…。
……そもそもここどこだ。なんかフワフワした感覚がある。
「その、皆には私から言っておくから…その、機嫌直してくれない?」
「余計機嫌悪くなるわよ?。あなたの口からそれを言うって。……というか、あなたの所のギルド職員って全員おかしくないかしら?」
「場所が辺境だからよ。おかしくもなんともないわ。」
この声…誰だったか…。
…あ、ファミレと………ジェシーか。
「…あ、ファミレと………ジェシーか。」
「ジェシーじゃなくてジェシカよ!」
あ…声に出てたか。しかし、さっきからジェシー…ジェシカ不機嫌そうだけど何があったんだ?
今度は疑問を口に出す間もなく、ファミレによって腹部に抱き着かれた。
「チヒロ君!やっと起きた!」
特に痛くも無いし役得なので、ファミレに抱き着かせたままにしておきながら、現状確認に努めた。
あー…ここってギルドとかでもなんでもなくて孤児院か。小さいけど子供たちの声が聞こえてくる。
あとでミレニカに礼言っておこう。
「もぉ!大変だったんだからね!いきなり王城の上で倒れたりするんだから!」
「……私も大変な目に遭ったわ。」
心なしか鼻声のファミレが叫び、溜息を吐きながらジェシカがそれに同意した。
テンションの差が激しい2人の説明を受けて、なんだか申し訳ないと思った。
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「チィィィイィヒィィィィロオオォォォオオオオォォォォくぅぅんんんん!!」
「いい加減に止まれええええええぇえええ!!!!」
宙を舞い危機迫る表情でそう叫ぶファミレとジェシカを、王城を警備する騎士たちは誰も妨害どころか声を掛けることすらできずに、呆然とただ眺めていた。
職務怠慢とも鍛錬不足とも民衆から批判されても仕方ないことなのだが、その場に居合わせた各領主が口を揃えて言った。
「あれは剣の鍛錬だけをしている騎士では対処できるものではない。」
地面に平行な角度で飛んでいたファミレは、急速に角度を垂直にする。
ファミレにギリギリのところでかろうじてついて行くジェシカは、不満を漏らさずにはいられなかった。
「ちょっとぉおおお!!ファミレェェ!!後で呼び出されても責任取れないんだけどぉぉ!?」
そんなジェシカの声は民衆の歓声にかき消され、ファミレに届くことは無い。
「間に合ってぇぇええええぇええぇぇえええええ!!!!!!!」
ファミレが叫んであげるその声は、ジェシカと打って変わって歓声を打ち消し、民衆の耳に届く。
何事かと声がした方向をみた民衆は、天に向かって進むファミレとギリギリついていくジェシカ、その先にいるチヒロのそれぞれに気付き、また違った歓声があがる。
「頑張れ―!」「あれ!?ジェシカさん抜かされてない!?」「なんで空飛べてるの!?」「今どこ落ちてるんだ?!」「というか王城飛んでいいの!?」「気張れええ!!!」「あんな鳥倒した位で気を失うって弱いんじゃねぇか!?」
等々、ファミレとジェシカを応援する声や、応援しながら疑問を抱く声、心無い言葉を挙げる声があがる。
その歓声を知ってか知らずかファミレとジェシカはグングンと高度を上げる。
「うわっ…こんな高いところまで…。」
ファミレを追っている間に、いつの間にか王城の最上階よりも高く飛んでいることに気付いたジェシカは、下を見て小さく呟いた。
ジェシカは、ファミレと自分自身がなんの詠唱もせずに魔法を発動できていることに、疑問と可能性を感じながら前に向き直った。
同時に、悲鳴を上げた。
「は!?」
ジェシカの眼前に、チヒロを抱き抱えたファミレが迫っていた。
「チヒロ君!チヒロ君!チヒロ君!チヒロ君!チヒロ君――」
「ちょっと待って!落ちる!落ちるからああああああああああああ!」
ファミレ、ジェシカ、チヒロは揃って落下した。
落下し始め、地面に衝突するまで30秒あるかないかの僅かな時間の中で、唯一正気を保っているジェシカが、根性と落ちたくないという強い意識によって魔法を発動した。
「話聞けやあああああああああああ!!!!!!」
その魔法は、落下速度を減速させるものだった。こうして地面への衝突の時間は、1分程に倍加する。
が、ファミレの無意識内にある強い想いによって、地面に巨大な水の塊が出現する。
その水の塊は、王城と同程度の大きさを誇りながら、形を崩すことなく存在していた。
水の塊によってファミレ、ジェシカ、チヒロは地面に衝突することなく生還を果たした。
水に入ったことによってファミレは正気に戻り、チヒロをお姫様抱っこの形で抱えながら水から出た。
ファミレとチヒロは賞賛の拍手を浴び、ジェシカは見向きもされなかった。




