二十九話目
今更だが、火の鳥の討伐依頼が、チヒロに出される経緯
セランディカ王国王都から、最も遠い貴族領、ノーメル領に隣接している広大な森。
その森は、レベル50以上の魔物がゴロゴロいる危険地帯で、「死の森」として国内では有名だった。
しかし別の国から来た冒険者ランクA五人で結成された冒険者パーティーは、当然その森のことを知らなかった。
それを知ったギルドは、何回か忠告をしたのだが、その忠告には耳も貸さずに森へと入って行った。
その冒険者達は、瀕死の状態でその森から帰ってきた。
この森を知らない冒険者は、大体瀕死で戻ってきているので、最初はギルドも放置した。
だが、その冒険者たちの装備は、金属の物は溶け、木製や布製のものはほとんど焼けていて、冒険者達の皮膚は焼け爛れていた。
ただ事ではない。
そう判断した冒険者ギルドは、手のひらを返して、そのパーティー全員から話を聞くことにした。
その冒険者達は、口をそろえてこう言った。
「あれを呼ぶとするなら、火の鳥だ。大きさは人ぐらいだった。」
それを聞いたギルドは、すぐに森への侵入を禁止した。
だが、人という生き物は、行くなと言われたら行きたくなる生き物である。
冒険者達はギルドの眼を欺いて、森の中へと入って行った。
その冒険者達は、総じて帰ってくることは無かった。
一週間後、森で火事が起きたという報告が、冒険者ギルドではなく、その地を治めるノーメル男爵へとされた。
ノーメル男爵は、迷うことなく冒険者ギルドへと、森の消化を依頼した。
自分の持つ兵士が、森で消火作業にあたれるわけがないと、理解しているからだ。
しかし、冒険者ギルドは、森への立ち入りを禁じている。
当然、冒険者ギルドの中で、意見は割れに割れた。
冒険者の安全を確保するべきというギルドマスター側と、領主の依頼なのだから冒険者にさせるべきという副ギルドマスター側に。
しかし、冒険者ギルドの葛藤など知らず、冒険者達は森の中へと入って行った。
その冒険者達は、森から帰って来てギルドに問い詰められた時、こう言ったことだろう。
「だって森が燃えているんだ。火を消そうとするのは当然だろう?」と。
まぁ、その冒険者達は森から帰ってくることは無かったので、そんな会話などは生まれなかったのだが。
火事が起きたと報告が入ったその日の翌日。
ノーメル領は、全て火の海に包まれていた。
領内にいた者は、9割方焼け死んでいて、建物は全て焼け落ちていた。
領内の端にいた村の者たちが、必死の思いでその火の手から逃げ、隣のシェルツ領へと逃げ込んだ。
だが隣の貴族領がまるまる焼けるという話など信じるはずもなく、一笑に付されるだけで終わった。
その日の夜、シェルツ領も全て焼けた。
焼け死んだ者たちが見た最後に見た光景は、空を優雅に飛ぶ、家ほどある大きさな翼を持った火の鳥だった。
間一髪、魔法によって領内から抜け出したシェルツ子爵は、早速隣の貴族領に逃げ込んで、火の鳥がいたことを説明した。
その火の鳥が、自分の領地を焼き尽くしたことも。
だがまぁやはり、信じてもらえる訳もない。
そうしてその領地も、夜には火の海となり、生き残った者はほぼいなかった。
火事の中で、人々は空を見上げ、目を疑った。
空には、領主の屋敷のような、巨大な翼を持った火の鳥がいた。
所変わって王都では、商人から流されたある噂が流れていた。
デハミッシュ王国の端のほうで、貴族領が大火で2つ3つ無くなった。
商人の噂は信用性が高く、国王周辺もかなりの割合で信用している。
だが、今回の噂に関しては議論を招くこととなった。
もし本当ならば、損害が大きすぎる。今すぐに調査すべきだ。
という国王派と、
貴族領がいくつか無くなっているとしたら、こちらに連絡がある筈だ。調査はしなくてもよい。
という王子派で意見が分かれていた。
半日ほど言い争った後、国王が権力を行使して、調査団を結成して、早急に調査させた。
王子は、国王の権力行使は不当だと騒ぎ、部屋に閉じこもった。
(王子が住んでいるのは王城であり、国王と同じ建物に住んでいるので、言ってしまえば反抗期の息子が自室に閉じこもっただけである。)
その調査団は、二日で帰ってきた。
その調査団の報告は、王城を震撼させた。
王城ほどの大きさの翼を持った、火そのものでできた鳥がこちらに向かっている。
空高くを飛んでいて、剣も弓も魔法も届かない。
近づけたとしても、高温で焼け死ぬ。
その報告は、もう手遅れといっているようなものだった。
国王が抱えている騎士団で、どうにかできるような規模のものではないのだ。
なにせ、騎士団にいるのは6割が剣。2割が弓で残りが魔法。
その騎士団の半数は実戦を経験をしたことなど無い新兵。
勝算は無い。0に等しい。
国王は冒険者ギルドに、国の危機として、火の鳥討伐を要請した。
冒険者ギルドに託された訳だが、国が無理だと判断した相手を討伐しろと、冒険者に言ったところでそれは、死にに行けというようなものだった。
冒険者ギルドは、万が一の可能性に賭け、冒険者ランクGにしてドラゴン十数匹を単独討伐し、冒険者ランクBまでの最速到達記録保持者である、チヒロに火の鳥討伐を依頼した。
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