二十五話目
目が覚めたので目を開けると、ファミレが俺の顔を覗き込んでいた。
当然が目が合う。
が、気まずい雰囲気が流れるだけなので、どいてもらうことにした。
「…ファミレ、どいてくれないか。」
「ふぇ?そ、そうね。…何か食べたいものある?」
ファミレは、俊敏な動きで俺から離れると、平静を装って俺にそんなことを聞いてきた。
平静を装っていると判断した理由は簡単で、ファミレの顔が赤いためだ。
…顔赤くするなら、覗き込まなければいいものを。
「腹に入ればなんでもいい。…まぁ、一応聞くが依頼は?」
「依頼は来てないわ。まぁ、とりあえずパンとスープ持ってくるわね。」
ファミレが、乱雑にドアを閉めて、俺が寝かされている部屋から出て行った。
全く動けない訳でもないので、少し辺りを見回した。
どうやらそこそこ清潔なベッドの上で、物置小屋を無理矢理片付けたような部屋だ。
…なんか子供の声が聞こえるんだが。
ここは冒険者ギルドじゃないのか?
そんな疑問に駆られていると、部屋の中に誰か入ってきた。
その方を見ると、シンプルな修道服を着た女性がいた。
修道女の割には、中々若く美人だ。子供受けがいいから、さっき子供の声がしたのだろうか。
「目が覚めたとお聞きしたので。私は、ここの孤児院のシスターをやっているミレニカです。」
「俺はヨシダ・チヒロだ。チヒロとでも呼んでくれればいい。…孤児院って言ったが、俺はなんでここにいるんだ?確かギルドで倒れたはずなんだが。」
「ジェシカという、この孤児院から出た女の子がここまで運んできてくれたんですよ。なんというか、かなり焦ってましたよ?ファミレさんが足を持って、ジェシカさんが腕を持って、ギルドからここまで走ってきたようですから。」
…この世界に担架というものは無いんだろうか。
というか、足と腕って…外れたらどうする気だったんだ?
「…あの…貴族様なんですか?」
「あー、ちょっと記憶喪失でな、なんにも思い出せてないんだ。分かるのは、自分はヨシダ・チヒロっていう名前で、そこそこ強いっていう事だけだ。それで、草原に一人で立っていた。だから、貴族でも何でもない。」
そして、沈黙が走る。
その沈黙を、ゴールへと導いたファミレ。
「チヒロくーん。パンとスープ持って来たわよー。」
ファミレは、お盆の上に大きめのボールに入ったスープとフランスパンを持ってきた。
「あー、早速頂こう。いただきまーす。」
そう言って、野菜ベースの優しい味のスープに、フランスパンを浸して食べていった。
俺のせいでフランスパンが3本無くなったのには、裏でミレニカが泣いたらしい。
ファミレからそう聞かされた。
何かしなきゃいけないんだろうけど、何をすればいいのか分からない。
そんな感じでダラダラと時間は過ぎて行った。
ある時、部屋の外からこんな声が聞こえてきた。
「おいシスターさん!借金はいつかえしてくれるんですかぁ!?」
「いつまでも借りっぱなしってのは、こっちもきついんだよぉ!」
「す、すいません。」
柄の悪い男の声と、申し訳なさそうにするミレニカの声が聞こえてきた。
…これでチャラにしてもらうか。
部屋の外に出ると、すぐそこで言い争っていた。
というか、もうミレニカは壁に押さえつけられていた。
もうこれ孤児院で起きていいことじゃないだろ。
「おいおい。そんなか弱い女に、男が二人がかりじゃないといけないのか?」
「あぁ?」
「なんだてめぇ!」
「そう怒んなって。ここがあんたらに借りてる借金ってのはいくらだ?」
「あぁ?」
「お前がそれを知ってどうするんだよ。」
「もしかしたら、払えるかもしれないぜ?」
俺は、アイテムボックスから王金貨を一枚取り出しながらそう言った。
「「なぁ!?」」
俺の持つ王金貨に、二人は目を奪われたようだ。
「な、なぁ…それって…。」
「ただの金貨じゃあ…ねぇんだよな?」
「あぁ。王金貨だ。ここの国じゃ、光金貨だっけか?」
「「ゴクリ…」」
「それじゃあ、取引をしないか?」
「「取引?」」
「あぁ。簡単だ。俺はこの王金貨を、あんたらに10枚やる。その代わりに、二度とこの孤児院に来るな。」
「「……。」」
男二人は、顔を数秒見合わせて、こちらに向かって営業スマイルでこう言った。
「「喜んで!」」
「次ここに来たら、お前らの後ろにいる奴らも含めて皆殺しだからな。そこんところ覚えておけよ。」
「「…あぁ。肝に銘じておく。」」
俺が、魔力を数百叩きつけながら二人に言ったのが効いたようで、二人の顔は若干青くなっていた。
「それじゃあ、10枚だ。」
そう言って、王金貨を男二人の足元に投げ落とした。
男二人は、王金貨を奪い合うように拾うと、即座に孤児院から出て行った。
ミレニカは、しばらく胸元を手で押さえたあとに、話しかけてきた。
「あの…ありがとうございました。…どうしてこんなことを?」
真正面から見つめられて話しかけられたので、「ミレニカを泣かせたから」とは言えず。
「ただの自己満足だ。気にしないでくれていい。」
なんて、恰好つけて後ろ向きながらそう言った。
「自己満足…ですか?」
「あぁ。この孤児院を救ったところで、他の孤児院が救われるわけじゃないだろ?俺が目の前の孤児院救ったことで、自己満足をしたいだけだ。……子供たちと遊んでもいいか?」
「…え?あ、はい。そのまままっすぐ進んだら、子供たちが遊んでいます。」
「そうか。分かった。」
俺は、そのまま歩き出した。
後ろから聞こえた、小さい「本当に…ありがとうございました」の声を、聞こえないふりをして。
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