#17 美羽
「こんばんは、野崎洋子」
ダイニングキッチンの食卓を挟んで、木村美羽は、野崎洋子と対面していた。
捉えられた当時は、黒髪はポニーテールだったと聞くが、今はおろしている。
「こんばんは」
怯えは無いが、自棄になっているワケでもないようだ。冷静なのが窺い知れる。
「あなた、何も話さないそうね。追求者の力を何処で手に入れたのかも、なんで手に入れようと思ったのかも」
洋子は押し黙り、視線を下にやった。美羽は、早期決着を計る。
「鳩間朱莉、知ってるでしょう? 貴女の友達」
ふと、視線がこちらを向く。やはり、朱莉の存在は、彼女にとって気がかりだったようだ。
「あの娘は、『蓮灘の記録』との交友関係があるわ。貴女が、追求者を庇うのは勝手だけど、それであの娘にまで危害が及んでもいいの?」
卑怯な手である事は、自覚があった。だがしかし、手段は選んでいられない。
そして、この訊き方にも、美羽なりの計算があった。
糸島は疑っていないようだが、美羽は、前から気になる存在がいたのだ。あえて、その人物とは、あまり接触はしなかったが、もしかすれば……。
「話します。私を、降棚練磨と引き合わせた人のことを」
ぽつり、と零すように見うが言った。
「なんですって?」
意外な言葉に、美羽はあっけに取られた。
「私が使った力は、『降棚の記録』を解析した結果なんです」
なるほど、と美羽は合点が言った。報告にあった見えない力もそうだが、『蓮灘の記録』を狙っていたのは、自分の『降棚の記録』の力も他社に譲り渡せたのだから、『蓮灘の記録』でも同じ事が出来るのでは無いかという、予測が立っていたからだろう。まるで根拠の無い空論でも無かったのだ。
「『降棚の記録』を利用したわけか。……ん? 待って。つまり人払いの方は、降棚ではなく、その追求者の方に教えてもらったって事?」
校舎内に施された人払い――それは『降棚の記録』によるものでは無いはずだ。
「はい。それは教えてもらったんです……」
引き合わせた追求者。その名は――
「角川祐輔という、追求者に」




