#18 薫
なぜ、彼女がここにいる?
降棚練磨を倒し、死なない程度の一撃を加えようとしたところで、その少女は姿を現した。
茶髪の、ウェーブが掛かったロングヘアーは腰まで伸ばしている。
白い四肢は細い。薫とは比べ物にならず、折れてしまいそうな印象がある。
黒縁の眼鏡を掛けている。その容姿だけなら、まるで文学を好む少女のようだ。だが……。
「アンタ、角川の……」
消えた。
何事かと思った。突然、目の前にいた少女の姿が、消え失せたのだ――土煙を残して。
ごきゅ、という鈍い音が、後ろから聞こえた。――振り向いた。
そこにいたのは、先程と変わらない少女――ただし、白い脚が、倒れた降棚練磨の脇腹に突き刺さっている――文字通り、筋肉を貫通して。
「お、お前……何してるんだ!」
薫の驚きの声に反応したのか、少女が、こちらに振り向く。ブレの無い、機械の様な仕草で。
「うぐぅ……」
練磨が呻く。少女が、刺さった脚を抜いたのだ。真っ赤な血が溢れだす。血に濡れたパンプスの爪先が、鮫の牙のように、ギラギラと凶悪に輝いている。
人形のような――いや、人形そのものの視線が、薫を射抜いた。それは、今まで対峙した者達とは、一線を画していた。
生きていない。弱者だとか、強者だとか、そういう次元じゃない。コレは、ただの現象でしかない。ロボットカメラがこちらを向くのと変わらない。
人のような形、人のような目玉。人のような肌。人のような顔――けれど、それは人形だ。
何かが――空を切る。
薫は動いたが、危機など察知していなくて、それは完全に脊髄反射だった。
飛び退いた薫は、自身の腹を見て、絶句した。脇腹を擦過した、少女の手刀の一閃が――薫の腹を、薄く、切り裂いている。
弾ける音――舞う土塊。そこに少女の姿は無い。月の逆光に、黒い人形の影がある。
大きく振り上げられている脚が、音速を超えて薫に向かって放たれ、そして――
To continue on to the Chapter 6 the episode 1.
これで第5章は終わりです。
来週からは、いよいよ最終章に入ります
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