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ハニーポット  作者: 指猿キササゲ
$2$ 気高き一人
33/113

#13 薫

 薫は、祐輔のマンションに来ていた。昨日と違い、朱莉がいない。遊びに来ているだけなのだから、毎日来るほうがおかしい。だが……更に今日は、一人足りない。

「あの……眼鏡は?」

 薫は、茶髪で眼鏡の少女の所在を問う。

「どこかに行ったよ。大方、どっかを散歩でもしてるんだろ」

 どうやら家主は、住民の活動を把握していないらしい。薫は少々呆れた。

「自分で作っておいて、おかしな言い分ね」

「自分で造ったからって、全てが自分の想定どおりとはいかないさ。……ああ、そうそう。例の男だけど……どうだった?」

「会えなかった」

 薫は堂々と嘘をついた。

 嘘に気付いたかと思ったが、祐輔は過剰な反応は見せない。代わりに、

「そうか。なら急いだ方がいい」

 真面目な態度で切り出した。なにごとかと薫は聞き耳を立てる。

「裁定委員がやられたそうだよ」

「……」

 追求者に呼びかけているとはいえ、やはり委員会も完全に他人任せとはいかないようだ。しかし正規の人員がやられたとなると、他の追求者がこの街に乗り込んでくるのも時間の問題か。

 そうなれば、この街は解創者と追求者によって、隠れた戦場と化す。その時には薫とて、他人事ではいられない。行きがけの駄賃に『蓮灘の記録』も狙われかねない状況になる。

「君、そんな暢気にしてていいの?」

 当然、もうそんなつもりはない。裁定委員会の実働部の第二団が来る前に、決着をつけてやる。

 ……が、薫とて、体育会系とはいえ脳筋ではない。無策で挑む気はなかった。

「……解創者なんでしょ、どんなヤツなの?」

「君にしては頭が回ったね。相手の解創が、どんなものか理解していればやりやすい。裁定委員会の話を聞くに、鈴切桐高の解創は……断絶、かな」

 あまりにも抽象的で、なにより分かりにくい単語を聞いて、薫はあからさまに不機嫌になる。

「そう怒らないでくれ。いいかい? 鈴切桐高の解創は、熱力学的なものはおろか、電磁波や音まで遮断する始末らしい。

 解創とは、願いを叶えるものであり、願いを昇華した形だ。その性質は、願いの内容に依存し、解創の力……この世に具現する願いの影響力は、願いの深度に比例する。鈴切桐高の断絶は、相手との距離をとりたいという意思の現れであり、全てを断絶する力は、彼の意志の強固さを示している。道具として使える願いを無理矢理に願い、解創にする裁定員とは、そもそも力に差が有り過ぎる。

 つまり、断絶を越して彼に触れることは不可能だ。策は無いってことだよ、薫くん」

 結局、大切なところは自分で考えるしかないんじゃないか。毒づきたくなるが、呆れて声も出なかった。

 だが、これは自分で考えるべきことでもある気がする。

 橋の上での運命的な出会いをし、興味を持って接触し、そして今からするのは先を見据えた自衛……紆余曲折を経ても、結局は対峙する結果だ。

 おかしなものだ、と薫は笑う。

「どうかしたのかい?」

「別に。なんでもないよ」

 薫は笑みを携えたまま、外へと出た。


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