表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハニーポット  作者: 指猿キササゲ
$2$ 気高き一人
PR
31/113

#11 桐高

 子供の頃から、自分と他人の間に、隔絶があるのは自覚していた。人と接するたびに、彼は自分と他人の違いを意識させられた。

 見解の相違、価値観の違い、言葉の食い違い、心の調子。

 話していても、接してみても、ありとあらゆるものが噛み合わず、誰の心も理解できない。いつしか彼は怖くなった。まるで影絵の劇を見ている気分だ。見えているのは影だけで、向こうが一体どうなっているのか分かりっこない。

 恐ろしかった。理解できないものが自分と同じ空間にいる――まるで、数多の亡霊が棲みつく街に踏み込んだかのようだった。

 向こう側に踏み込んだら、自分はどうなってしまうのか――考えるだけで頭が割れそうだった。

 ある時、気がついた。ならば最初から、触れなければいいのだと。

 人と自分の間に、距離を置いた。

 それからというもの、自分の周りで何が起ころうと、関係なかった。

 親が離婚しようとも、母が失踪しようとも。

 誰が、何をしようと対岸の火事。こっちの河岸には、自分一人しかいない。何も起こるはずはなかった。

 だけど、距離を置くのは難しいものだ。

 生きていくには働くしかなく、しかし働く場においてさえ、人は人との繋がりを求める。それがたとえ、どれだけ人から忌避されるような職であったとしてもだ。

 頼んでもないのに話しかけてくる人間には、テリトリーに踏み込まれる不快感を抱いた。

 優位に立ちたいらしく、なんでもかんでも語り腐る人間に、自分を意識されていると思うだけで、気分が悪くなった。

 隣にいる人間がこちらを見れば、睨みつけて拒絶したい衝動に駆られた。

 街を歩いているだけでさえ、人は社会の中で生きていた。もう人は、一人にはなれないのだ。

 ならばせめて、孤独を願おう。

 互いに互いに触れないように、当たらないように生きていこう。

 けれど、そんなのは自分の勝手な我侭である。世の中は桐高の願望など噛み砕くまでもなく、理不尽に無視していった。

 それでも、桐高は拒んだ。人が自分を知ろうとするという事は、いつか自分も相手を知ろうとするは筈で――そしてまた自分は、理解できない正体不明の影を意識して、怯えなければならないのだから。

 人に触れて欲しくない――方法は一つ。相手にも、桐高が抱いたのと同じ感覚を知ってもらえればいいのだ。

 この感覚を体験して欲しい。鈴切桐高という男を前にして、鈴切桐高がお前達に抱くこの感覚を味わってくれ。

 この黒くて不気味で、掴みどころのない、理解不能なモノを前にした感覚を。

 皮肉にも、桐高の孤独の渇望は、理解して欲しいという願望からくるものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ