#3 薫
冬の日の出は遅く、日差しは弱弱しい。特に理由も無く、朝も七時から登校した薫は、備品が無く、管理が面倒くさいという理由で鍵が掛かっていない選択教室に侵入すると、机を並べて簡易ベッドを作り、二度寝を敢行する事にした。
よっぽど暇でなければ、教員がこの時間帯にここに見回りに来る事はない。もし来るとすれば、それはストーブの灯油タンクを取りに来る可能性が上げられる。
冬場になると、エアコンの無いこの高校では、ストーブが必需品となる。一つの教室につき一つずつ備え付けられている、巨大で時代遅れな一品だが、性能はそこそこだ。休み時間になれば、教室後方は、場所取り合戦の様相を呈すほどだ。
そしてそれは、ホームルーム教室以外でも例外ではない。選択教室は授業での使用が多い為、選択教室を使用する教員は、自身が授業中に寒いのを堪える為に、選択教室まで赴きストーブの灯油タンクを回収、そして特別棟一階の北側にある灯油置き場まで、わざわざ灯油を注ぎに行くという重労働をこなす。
つまり薫は、ずっと寝ていられない。見られるのは構わないが、無断で選択教室に入っていれば、注意くらいは受ける。面倒ごとは嫌いだ。避けるに限る。
眠気が満ち始めている頭で、薫は考える――管理棟や渡り廊下の扉の鍵を開ける教頭を除けば、部活の顧問、副顧問以外は、朝八時以降にしか来る理由が無い。八時に来てから他教室に行って灯油を注いでも、十分あれば朝の職員会議に間に合うからだ。となると、小一時間は眠れる計算になる。
特に心配は要らなさそうだ。この分なら、ぐっすり寝てしまっても問題ないし、いざ近づけば、廊下に反響する足音で気付ける。廊下は一直線だが、教室の間には壁と一体化した柱もある。その影に隠れながら、そっと反対側へ逃げればいい。
これから小一時間、薫は一人だ。
寂しさは無い。むしろ、一人になれてせいせいする。人間は人の海の中で生活を送る生き物だ。けれど時には休息も必要だ。海に飲まれ、溺れた時には、自分の居場所を確かめる為にも、一度岸に上がったほうが良い。
笛のように小うるさい鳴き声が、窓の外から聞こえてくる。この喧しい声はヒヨドリのものだ。インコより一回り大きく、全身が灰色で、クチバシが少し長い、あの鳥だ。だいたい何匹かで動くものだから、鳴き声は四重奏となり、喧しさに拍車が掛かる。
鳥も人も、群れるのが好きらしい。まぁ、固まってた方が天敵に狙われにくいもんな――と考えていた頃には、既に薫の意識は眠りに落ちていた。




