118 事件、事件、また事件 その1
道中クシアを見つけて、捕まえた。
「あいつをどこに連れて行った?」
「彼女ですか?彼女は今村長の所に連れて行って、地下の牢獄にいると思います。今尋問中だと」
「俺をそこまで連れて行け」
「え?!」
「今から連れてけ、聞きたいことがある」
「でも僕、追い出されてしまって………」
「関係ない、連れて行け」
「わ、分かりました」
お前の事情なんて知ったこっちゃ無いと言う感じで言うと渋々言う事を聞いてくれた。
俺が連れて来られたのは門番の詰所の隣にある建物だった。
「ここですけど……」
「そうか、ありがとう」
俺はクシアを背後に建物に近づいて行った。
「ちょっと待ってください、止められ(バシ、ドン!!)……る訳ないですね、はい」
エルフに止められ文句を言われたが、俺はそんな事お構いなしに拳で黙らせて建物の中に入っていた。建物の中に入るとすぐに地下への階段を見つけて、すぐに降りた。クシアは地下の牢獄に居ると言っていたからだ。
「貴様、なんでここに?!」
鉄格子の前で村長と知らないエルフが二人いた、様子を見る限りその鉄格子の中で尋問が行なわれているようだ。
「その少女に聞きたいことがある」
「こいつは貴様に何か関係があるのか?」
村長はすごく嫌そうな顔をしながらこっちを見てきた。その嫌そうな顔には色々な思いが見て取れた、困惑、疑問、不安、怒り、苛立ち。
「関係は無い、だけどそいつに聞きたいことがある」
「そ、それなら私たちの尋問が終わってからに」
「お前らの都合何て知ったこっちゃ無い」
村長は何か言いたそうだけど堪えているようだった。まあ、いきなり来て好き勝手やってるんだ。こいつ(村長)も文句の一つでも言いたいのだろう。俺はそんな事は気にしないがな。
「わ、分かった、だが手早く終わらせてくれ」
「それとここから席を外せ」
この言葉で村長も我慢に限界が来たようだ。
「貴様、こちらが下手に出ていれば良い気になりおって!!」
「下手?良い気?何言ってんの?」
俺は村長に詰め寄った。
「村長忘れているようだが、俺はその気になればこの村を消せるんだぞ」
俺はそこで言葉を切って、思いっきり口の端を釣り上げた。
「それくらい出来るんだ。俺がここからあんたらを追い出すのは造作も無いことだ。だが心優しい俺はわざわざ席を外すように言ってるんだ。さて、どちらが下手に出ていて、良い気になってるんだろうな?」
俺の言葉で顔色を悪くする村長は顎でその場にいたエルフ全員に外に出るように促した。村長以外のエルフは俺とは初対面だから、俺の事を知らないので露骨に俺の事を睨み付けて来る。全員が出て行くと牢屋の中は俺と少女しかいなくなった。
ふう~やっと出て行ってくれたか、これで質問が出来る。
俺はさっきまで尋問していたエルフの席に腰を下ろした。牢屋の中には粗末な椅子が二脚と机が一つだ。片方には俺が座り、もう片方は少女が座っている。少女は片膝を立てて額を自分の膝に当てて座っている。この恰好を見る限り、エルフの尋問官は厳しく尋問した訳では無いみたいだ。そして椅子と同じくらい粗末な木の机がある。
椅子に腰を下ろした俺は足を粗末な机の上に置いた。
「お前に聞きたいことがある」
少女は俺の言葉にピクリとも反応せず、寝ているみたいだったが膝で隠れていない方の目がしっかりと開けられていてその瞳は俺を見つめていた。その瞳から感情を伺う事は出来なかった。俺はもう一度少女に問いかけた。
「お前に聞きたいことがある、マリア」
今度は名前も一緒に呼んだ。それと同時に彼女の瞳が驚愕の色を見せて顔を上げた。
「……どうしてマリアの名前を?」
その声は俺のあの激しい戦闘を行った奴とは思えないほど、子供らしい可愛い声だった。
「知りたければ、俺の質問に答えろ」
少しの沈黙そして首を縦に振った。了承したと言う事だろう。
「質問だ、お前は転生者か?」
そして運命の質問。
「テン、セイシャ?何ですかそれは?マリアはそのテンセイシャでは無いです」
何だ違うのか。じゃあなんでこいつは吸血なんてスキルを。
「今度はマリアの質問に答えて、なんでマリアの名前を知ってるの?」
マリアはさっきとは違い饒舌になる。
「俺は他人のステータスを見る事が出来る、それが理由だ」
「それだけ?」
「それだけだ」
たぶん少女は名前を知ってる理由はもっと特殊な事情だと考えていたのだろう。
「もう一つ質問がある、お前は吸血鬼なのか?」
俺の質問でマリアの雰囲気が変わる、カミソリみたいな感じだ。小さいけど鋭い刃を持っている、そんな感じだ。
「どうしてそう思ったんですか?」
マリアの目は鋭く光る、さっきの戦いで俺の首を狙っていた時みたいだ。いやそれ以上に鋭い目だ。正直少し怖い。たぶん自分がいくら力が強くてもこう言った恐怖は感じるだろう。
「ステータスを見たとき吸血と言うステータスを見たからだ」
「…そうですか」
「でお前は吸血鬼なのか?」
「言いたくないです」
そう言うとマリアはさっきと同じように膝を抱えて、さっきと同じように膝に自分の額を当てる。
「そうか」
転生者じゃないと分かったことで俺は興味が失せてしまった。吸血鬼については深くは追及しなかった。俺の勘では吸血鬼では無いと感じた。
「それじゃあな」
俺は牢屋から外に出て行った。
「お、おい」
建物から出ると村長に呼び止められた。
「何だ?」
俺が気怠そうに答えると村長は怒鳴り散らしそうになるが、それは堪えて笑顔で接してくる。そこまでして知りたいことでもあるのだろうか……。
「少女は一体何が目的でここにいるのか知らないか?」
んなことはしらねーよ。自分で聞けよ全く。
「知らん、それに興味も無い」
「君は何を聞いたんだ?」
「名前だ」
「名前、だと?」
村長は素っ頓狂な声を上げる。
「質問はそれだけか?俺は行くぞ」
村長が呆けている間に俺は早々とそこから去って行った。これ以上は関わりたいとは思わない。
村長視点
「あの若造が!!」
「村長!!何ですかあの銀髪は!!」
私を慕うエルフの一人が私と同じくらい怒りながら聞いて来る。
「あいつは冬前に厄介な奴が来たと言っただろう、そいつだ」
「それは猫の姿だったのでは?」
「ひ孫の話じゃ人の姿になれる」
私は全く持って気に入らないのだ、あの猫が!!しかもあいつ自身は知らないようだが、この村の女には人気が結構あるのだ、あの容姿だモテない方がおかしい。ひ孫のアルマは特にあいつに好意を向けている。確かにあいつはアルマとその友人を助けて、さらに母親まで救ってくれたのだ。鶏の件の事もあって決して悪人では無いことは知っている。だがあの高飛車な態度などが勘に触るのだ。だがそれくらいの事だったら受け入れるぐらいの度量があるぐらいの年は取っているつもりだ。実際はたぶん最初に取ってしまった態度のせいだろう。最初の態度から変えることが出来ないのは自分の頑固さもあるだろう。それは周りの視線もあるだろう。途中から態度を変えたら、『あの猫が怖いから』とか『ゴマを擦っている』などと言われるかもしれないからだ。こう言った理由から私が態度を頑なにしてしまう理由だろう。
そんな風に私が考えてた時、村一帯を覆っていた魔力が消し飛んだ。
私の周りにいるエルフたちも気づく。これは村を覆っていた、幻を見せる魔法が消し飛んだのだ。
「村長、大変です!!」
一人の門番をしているエルフがこちらに小走りに近づき、耳打ちをする。
「30名ほどの人間が門の前に!!」
「なんだと!?」
突然の魔法の消滅、そして人間の襲来。私は最悪の事態を想定した。
転生者フラグ建てて置きながら、へし折ってみました。早々転生者出しても色々削がれるので、この少女の正体はまた次の話で。




