114 ダイエット
さて冬が終わりを告げました。そして同時にほのぼの回も終わりです。
感懐のパートは戦闘回になって行きます。楽しみにしていてください。
「ついに外に出ることが出来るのか………」
俺が閉めっぱなしの窓を見て感慨深げにいると
「ほら退いて、窓開けられないでしょう」
そんな俺を抱き上げてエリカは退けると窓を一気に開けた。何だろこのどうしようもない気持ちは……
「す~は~。ん~気持ちい。やっぱり外の空気は美味しい」
エリカは肺いっぱいに空気を吸い込むとそう言って次々と窓を開けて行った。確かに閉めっぱなしで空気は濁っていた。
窓から外を見るとすっかり雪は溶けていて、影も形も無くなっていた。いや、痕跡だけは残っている。地面は雪が溶けた事で出る水で地面が濡れていた。
「もうすでに春真っ盛りだな」
外に出ようと思ったが俺は踏みとどまり人化をして人の姿になった。猫のまま地面に降りたら足が泥で汚れてしまうからだ。俺は人の姿になるとアイテムボックスから服と靴を出して身に着けた、これで体は汚れないだろう。
バシャ!!
そんな音と共に久しぶりの外に降り立った。
取り敢えずこんな所で運動はしたくない……森の方に行くかな。
足に力を入れて、思いっきり森の方に跳んで行った。飛んでいる間森の地面を見ていると、まともな地面はエルフの結界外に見られた。正直あまりエルフの結界から出たくは無かったのだが、仕方が無いので、出ることにした。
「ここなら大丈夫だろう」
「あれ?アルビオンさん?」
背後から聞き覚えのある声がしたので、振り返るとそこににいたのはクシア・クルジス、エリカの恋人だ。
「クシアか……」
「はい、お久しぶりです」
クシアは背中に剣を背負って、立っていた。
「珍しいなエルフが剣を背負っていると言うのは、どうしたんだ?」
「これですか?エリカさんを守るためですよ。剣でも戦えるように思って」
「そうか」
「アルビオンさんは何でここに?」
「それは……」
素直にダイエットしに来たと言うのは結構かっこ悪いよな。なんて誤魔化そう……
「もしかしてアルビオンさんも修行ですか?」
これは乗っておくかな、ダイエットも修行みたいなものだし、うん。
「まあ、そうだな」
「それじゃ、僕の修行に付き合ってもらえませんか?」
「ああ、別に構わない」
たぶんそこまでこいつの相手をするのは大変では無いだろう。俺は修行相手になることを了承すると、クシアは嬉しそうに笑うと背中に背負っていた剣を正面に構えた。それを見てアイテムボックスからミスリルの籠手を出して、自分の腕に装備した。
「準備は万端ですね、精霊魔法はどうします?」
「俺は魔法関係は使わないでおいてやる、お前は精霊魔法を使って構わないぞ」
「分かりました、行きますよ!!」
クシアは最後の言葉を言い終わると同時に地面を蹴って、剣を両手で握って右下から斜めに斬り上げるが、十分俺が余裕を持って避けられる速さだった。俺はバックステップで避けた。俺が昔戦ったビイルよりはるかに遅かった。
「精霊魔法を使え。そんなもんじゃいつまで経ったって当てられないぜ」
「分かりました。行きますよ」
まあ、精霊魔法を使おうと当たらないと思うがな。
「土柱!!」
俺はその途端全力で避けることになった。スキルの本能で避けたが、危険察知には引っかからない所を見ると、クシアの剣で俺が傷付く事は無いようだ。今の速さで次の攻撃が来るならば備えなければならない。俺はその場から移動しながら背後を見るとそこには……。
さっきの勢いのまま地面を滑って体が土まみれになったクシアがいた。
痛そう~。思いっきり地面を滑ったな。
「痛たたた。すいません慣れて無くて」
パン、パンと体に付いた土を払う。クシアが何をしたかは分かっていた。土柱を自分の足元に出現させて、土柱が伸びる勢いに乗って飛んできたことは分かっている。だがその勢いが異常なのだ。精霊魔法の詠唱を短縮して発動させ、かなりの勢いで土柱を飛び出させた。
「じゃあ、行きますよ」
と同時にさっきと同じようにクシアが跳んできた。さっきとは違い、今度は心構えをしてたので、しっかりと目でしっかり確認できた。俺はクシアの剣を右手で剣の腹を撫でるように逸らしたことで、クシアの体が目の前をさっきと同じような勢いで飛んで行ったが、さっきとは違い地面に体を擦る前に地面から土柱を出して、足を曲げて勢いを殺すとすぐに反転して攻撃して来た。今度はそれをしゃがんでかわす。そんな事をいくらか続けた。
時間がどれくらい経ったか分からないが、三十分も経っていないだろう。
まずいな……
俺がクシアの剣技を跳んで避けると、俺の額からも汗が跳んだ。
体力がもう……なんでこんなに早く。運動不足と言っても……そうか、人化したからか!!人の状態だと体力消耗が早いんだった。
クシアの高速移動剣技は俺に体を休ませる時間を与えず、常に体を動かさせた。段々と動作一つ一つが遅くなっていくのが分かる。腕一つ動かすのすでにきつくなり剣を避けることに集中していた。
いつ足がもつれてもおかしくは無いな。
そしてそんな状態でいつまでも避け続ける訳も無く、俺は足をもつれさせてこけた。それを好機と見たかクシアが斬り込んできた。勢いのある攻撃だ。
当たってたまるか!!
クシアの剣が俺に触れそうになった時、俺は両手を地面に付けて思いっきり地面を叩いて体を宙に飛ばした。俺の体は地面から一メートル半ほど離れた。これだけ離れたら、さっきまで地面に倒れていた俺に向かって勢いよく跳んで行った。クシアの攻撃はもちろん俺の下を進んで行き、クシアは最初と同じように地面に体を転がすことになった。
「ゴホゴホ、こけた演技に騙されちゃいました。すごいですね、すっかり騙されちゃいましたよ」
クシアは汗を掻いていたので、顔にまでしっかりと砂埃が張り付いていて、それを服の袖を拭っていた。
いや別に演技じゃ無いんだけど……まあ、良いか。
「一回休憩しよう」
「はい」
良かった~ここで休憩入れないで続けてたら、今度は間違いなく一撃入れられるよ。俺は内心冷や汗ものだった。




