110 最近は床が冷たい
「おやつとしても行けそうね」
「美味しいです」
「甘いですね」
「これなら材料さえあれば簡単に作れるから、作ってみましょうか」
中々の好評だった。俺でも納得できる味だ。初めてにしはうまく作れたんじゃないだろう。
「好評のようで良かったよ」
俺はお稲荷さんを口に放り込むようにして、次々と口に入れて行った。山のように作ったんでこれくらいの勢いで食べても全然減る様子が無い。これだけの量を作ってたのは正解だったな。
「アグ、アグ、アグ。ゴックン」
俺は口に入ってたお稲荷さんを一気に飲み込んだ。
「あ~あ、うまい」
そのころ、エルフ村の結界より少し離れた森、この森はこの村ほど雪は酷く降り積もってはいない。森の中にある洞穴があった。その洞窟の中には熊が冬眠をしている。熊が目を覚ます、食事を取るためだ。熊は冬眠をするが、冬の間ずっと寝ている訳では無い。時々食事をするために目を覚ますのだ。
熊が目を覚ましてその飢えを満たそうとした時、この洞窟に何者かが侵入したことに熊は気づく。熊が振り返ると少女と呼べる人間と思われる非力な者が一人背後に立っていた。武装も無くていくら冬眠していて体が本調子じゃ無くても自分が殺されることは無いだろう。経験でそれを理解すると唸り声をあげて立ち上がった。ここに入った者を排除するために。
グサッ!!
目の前にいた少女が消え、熊のの首元に短剣が刺さっていた。少女はいつの間にか熊の背中から抱き着くようにして、短剣の柄を持って熊の首にさらに深く刺さるように後ろに体重を掛ける。熊は少女を剥がそうと暴れるが、背後には手が届かず次第に動きが鈍くなり、そして前のめりに倒れた。
少女は熊が絶命したことを確認すると短剣の柄から手を放し、そのまま熊に食らいつき、何かを吐き出す熊の皮だ。とても人とは思えない咬噛力だ。少女はそこか熊の肉に食らいついて、口の中を血と肉で満たして、呟いた。
「美味しい」
その言葉も咀嚼音でかき消され、洞窟内は咀嚼音で満ちた。
食事が終わると、全員がすぐに食器を洗って自分の部屋に行ってしまった。エルフの冬の生活は基本的に家の中で過ごす事になるのだが、食事や用事のある時以外は自分の部屋で籠っているのだ。部屋の中では精霊魔法の修行や勉強や読書などだが、まあ人それぞれだな。
ちなみにエリカとリリアナは学校の主題の山を片付けていた。
「なんでこんなに宿題が多いのよ、まったく!!」
我慢の限界がきたのか、リリアナが椅子に寄りかかって体を思いっきり伸ばす。
「休みが長いからでしょう。あ~休憩しよう」
この二人を見ていると宿題が無いと言う事の素晴らしさが実感できるな。学校の宿題やテストに追われていた日常を懐かしく思う。戻りたいとは思わないが……。
「頑張れ~」
「他人事だと思って」
「他人事だもん。あ、それとベット借りるぞ。最近は床が冷たくて寝れたもんじゃない」
冬になったからだろうか、床から冷たい冷気が流れ込んでくるのだ。歩いている時はそこまで気にならないのだが、体を床に付けると寒くて仕方が無い。
「別に良いけど」
「じゃあ、お休み」
俺は特にすることが無かったのでさっさと寝入ってしまった。




