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第9話 街には行けない

街らしき場所へ近づくのは簡単だった。


入るのは無理だった。


遠くから見ても分かる。


高い壁。


門。


人間。


明かり。


そして、俺と同じような魔物が運ばれていく。


ただし生きていない。


荷車に積まれた死体。


素材として扱われているらしい。


《今入ったら、俺もあれか》


自分の身体を見る。


どう考えても説明がつかない。


話せない。


名前もない。


人間のふり以前の問題だ。


近くの林に潜み、門を観察する。


人が行き交う。


何度も声が聞こえる。


意味はまだ分からない。


前世の日本語とは違う。


だが繰り返される音は覚えられる。


門番が通行人へ毎回似た言葉を言う。


返事も似ている。


《言語も解析できないか?》


身体構造とは違う。


でも規則はあるはずだ。


俺は数時間、ひたすら聞いた。


その間、食事も睡眠も必要ない。


人間だった頃なら無理な観察だ。


日が傾く。


門の近くで一人の子供が転んだ。


膝から血が出る。


俺の目は、反射的に傷口へ向いた。


皮膚。

血管。

筋肉。


《人間の身体って、どうなってるんだ》


興味が湧く。


同時に、自分が普通ではないことを実感した。


泣いている子供を見て最初に思ったのが、心配ではなく構造だった。


前世の自分なら、どうだった?


分からない。


転生してから、何かが確実に変わっている。


その夜、俺は街へ入らず森へ戻った。


今はまだ早い。


ただし目標は決まった。


いつか、あの門を普通に通る。


そのために人型が必要だ。







森へ戻った俺は、自分の身体を調べ直した。


表示された進化条件。あれから何度か要素を満たしているはずだ。

意識を向ける。


【進化条件を確認】

【自立魔力源:達成】

【自立移動器官:達成】

【複数感覚器官:達成】

【外部生体構造解析:達成】

【自己設計器官:達成】


【第一進化が可能です】


来た。


【候補A:走行魔導獣型】

【候補B:多肢解析体型】

【候補C:寄生増殖体型】

【候補D:擬似生体核型】


Aは脚と噴射を強化する高速戦闘型。Bは感覚器官と解析能力を伸ばす多機能型。Cは他生物へ侵入し、その身体を利用する方向。Dは自分の魔核と器官生成を強化する、自立生命体としての基礎型。


全部魅力的だ。

特にC。人間へ寄生すれば、人型問題を一気に解決できる可能性がある。


だが、違う。


借り物の人型が欲しいわけじゃない。


《自分で作りたい》


Aの速さも惜しい。Bも未知を知るなら最適だ。

それでも今、一番欲しいのは土台。もっと器官を増やす身体。もっと能力を合成できる余白。


俺はDを選ぼうとして、止まった。


今進化していいのか?

まだ試していないことがある。

進化前にできる限界を知りたい。


俺は選択を保留した。


そして、地下空洞へ戻る。

あの八脚生物。負けた相手。


進化する前のこの身体で、もう一度戦う。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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