第10話 再戦
八脚生物は同じ空洞にいた。
俺を見るなり、前肢を持ち上げた。
覚えているのかもしれない。
今回は逃げない。
俺の身体は前回とは違う。
光感知。
魔力感知。
強化脚。
噴射。
三連装高圧魔力砲。
そして、相手の攻撃を一度見ている。
八脚生物が地面へ腹をつける。
衝撃波の前兆。
俺は地面から跳んだ。
直後、足元が爆ぜる。
前回食らった攻撃。
今度は避けた。
空中で噴射。
相手の背中へ回る。
砲撃。
一発。
殻に亀裂。
二発目。
同じ場所へ。
亀裂が広がる。
相手が振り向く。
鋏が来る。
左前脚を切断された。
構わない。
右側の噴射管を最大出力。
身体を回転させる。
残った砲管を亀裂へ突き刺す。
ゼロ距離。
発射。
殻が内側から割れた。
相手が暴れる。
俺は吹き飛ばされる。
脚が二本折れる。
【構造損失:36%】
それでも、まだ動ける。
八脚生物も致命傷ではない。
割れた殻の内側から、新しい器官が見えた。
薄い膜。
衝撃波を作る器官。
《それが欲しかった》
俺は自分から傷口へ飛び込んだ。
相手の体内。
前世なら狂っていると思う。
今は最高に面白い。
枝を伸ばす。
解析。
膜が震え、魔力と物理振動を重ねている。
その瞬間、体内から衝撃波を受けた。
俺の身体が半分ほど千切れる。
【構造損失:61%】
危険。
それでも接触を続ける。
【衝撃変換構造の解析率が規定値を超過】
取れた。
俺は残った噴射管を使い、相手の体内から脱出した。
直後、八脚生物が倒れる。
俺も動けない。
勝った。
ただし、ほとんど身体を失った。
【特性候補:振動増幅/衝撃耐性/衝撃放出】
俺は『振動増幅』を選んだ。
攻撃のためだけじゃない。
反響探知にも使える。
古い感覚能力が、また強くなる。
そして。
【第一進化条件:完全達成】
もう、進化を先延ばしにする理由はなかった。
◇
身体の六割を失っている。脚は一本。砲管は全壊。魔力嚢も一つ潰れた。
それでも中央の暫定魔核は無事だった。
俺は八脚生物の死体の横で、進化先を再表示する。
【候補A:走行魔導獣型】
【候補B:多肢解析体型】
【候補C:寄生増殖体型】
【候補D:擬似生体核型】
《D》
迷いはない。
【『擬似生体核型』への進化を開始します】
身体が崩れた。
自分という形が一度、全部ほどけていく。
残った枝、脚、感覚器官、魔力嚢が中央の魔核へ吸い寄せられる。
その時、妙な感覚があった。
今まで全身へ薄く広がっていた『考えている自分』が、初めて中央へ引かれていく。
消えるわけではない。枝の一本一本へ散っていた意識の処理が、核の周囲で同期し直されている。
《……頭じゃない。でも、中心ができる》
魔核自体も変形した。
宿主から奪った欠片を包んでいただけの構造が、自分自身の器官として作り替えられる。
外殻。魔力生成を補助する層。そこから太い幹が四方向へ伸びる。
今までの身体は枝が絡まっただけだった。
今度は違う。中心があり、そこから目的ごとに器官が生える。
脚を四本。背面へ二つの魔力嚢。前方に砲管。光感知器官を二つ。魔力感知器官を中央へ。振動感知は四脚へ分散。後方に小型噴射口。
【進化完了】
【種別:擬似生体核】
【自己器官設計効率上昇】
【構造保持容量上昇】
【内部魔力循環形成】
【器官再配置機能を獲得】
俺は立ち上がった。
人間の膝下程度。四本脚の中央に滑らかな黒い胴体。必要な時だけ管や器官を展開できる。
《これが俺か》
もう、ただの魔導脈ではない。独立した生命体だ。
前脚へ砲管を通して魔力弾。岩が割れる。今度は後脚へ噴射器官を移して跳ぶ。
身体の構造そのものを用途に応じて変えられる。
《いい》
これなら、今まで集めた能力をもっと組み替えられる。
人型への道も見えた気がした。
まだ遠い。手もない。声もない。人間社会へ入れば即座に魔物扱いだ。
それでも一歩目は終わった。
地下空洞を出る。夜の森。
遠くに街の光。反対方向には濃い魔力の森。
そして北側を、今まで感じたことのない巨大な魔力反応が一瞬だけ横切った。
強い。今の俺なら簡単に死ぬ。
《何だ、あれ》
一歩だけそちらへ向け、止まる。
《いや、今行ったら死ぬな》
好奇心はある。馬鹿ではない。
まず強くなる。もっと見えるようになる。もっと速くなる。声を作る。いつか手も作る。そして人の姿を得る。
その途中で、あれが何なのかも確かめる。
夜の森を四本の脚で走り出す。
生まれた時、俺は魔物の身体を流れる一本の回路だった。
今は違う。
俺は、自分で自分を作る生命体になった。
次は何を作ろう。
その問いだけで、足は止まりそうになかった。
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