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第4話 脚を作る

裂け目の奥から来たのは、小型の節足生物だった。


見えない。


だが六本の細い脚が地面へ魔力振動を伝えている。


俺より速い。


しかも、俺を餌だと思っているらしい。


顎が開く。


《ちょうどいい》


怖いより先に、脚が気になった。


どうやってあんな速度で動いている?


節足生物が飛びかかる。


俺は擬似収縮で横へずれた。


遅い。


身体の端を噛みちぎられる。


痛み。


だが接触できた。


顎から頭部へ枝を伸ばす。


相手が暴れる。


俺も引きずられる。


脚が動く。


関節。

筋束。

硬い外殻。


構造が分かる。


俺は一本の枝を太くし、途中に折れ曲がる部分を作った。


その内側へ擬似収縮構造を配置。


地面へ押し付ける。


伸ばす。


身体が跳ねた。


《おおっ》


相手の顎が外れる。


もう一本。


さらに二本。


四本の簡易脚。


不格好だ。


左右の長さも違う。


それでも、這うより何倍も速い。


節足生物が追ってくる。


俺は逃げた。


裂け目を走る。


初めて速度というものを得た。


曲がる。

転ぶ。

脚が一本折れる。


すぐ増殖で補修。


相手との距離が開く。


だが逃げ切る直前、俺は止まった。


《待て》


せっかく構造を見た。


もっと欲しい。


俺は反転した。


今度は自分から突っ込む。


魔力嚢へ溜めた力を一本の枝へ集中。


魔力弾。


頭部へ命中。


節足生物が止まる。


そこへ脚で飛びつき、全身を絡めた。


解析。


【移動器官構造の解析率が規定値を超過】


【特性候補:関節形成/外殻形成/振動感知】


三つ。


また選択だ。


俺は迷わなかった。


《振動感知》


今の俺に一番足りないのは、世界を知る手段だ。







【特性『振動感知』を定着】


変化はすぐに起きた。

四本の脚の先端へ、細い感覚毛のような構造が生える。


地面へ触れる。

情報が来た。


右に壁。左奥に小さな空洞。後方にさっき倒した生物。さらに遠くでは、何かが歩いている。


世界が突然、広くなった。


視覚ではない。地面を伝う振動を立体的に感じている。

それまで俺にとって世界は、触れた場所しか存在しなかった。今は見えないのに周囲がある。


《これはすごい》


俺は意味もなく歩き回った。

石を踏み、壁へ脚を当て、自分で魔力弾を撃って振動が返る距離を測る。


やがて気づく。

魔力弾を弱く撃てば、振動感知と組み合わせて周囲を探れる。


《ソナーみたいにできないか?》


地面へ小さな魔力を放つ。

反射。形が返ってくる。


【既存構造の組み合わせを確認】

【振動感知+魔力放出】

【応用感覚:反響探知を形成】


最初に得た弱い攻撃が、目の代わりになった。


俺は夢中で周囲を探る。

裂け目の先には広い空間。小型生物が何匹もいる。そのさらに向こうには大きな魔力反応。そして上方には外へ続く穴。


同時に、別の反応もあった。

さっき俺の宿主を食っていた捕食者だ。地面を掘っている。


俺を探しているのか、ただ餌を取っているのか。

どちらでもいい。今なら位置が分かる。


《いつか、あいつの身体も調べたい》


自分でも妙だと思う。殺されかけた相手なのに、恐怖より構造への興味が残っている。


俺は外へ向かう穴とは逆方向へ脚を向けた。

まだ小さい。


だからまず、この地下で取れるものを取る。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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