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第3話 食われる前に奪え

外から肉が剥がされる。


一口ごとに、死体内部の魔力反応が消えていく。


巨大な捕食者だ。


《最悪だ》


逃げるにはまだ遠い。


なら、ここで魔核を捨てるか。


迷ったのは一瞬だった。


《いや、持っていく》


俺は魔核の亀裂へ枝をねじ込んだ。


丸ごと運ぶことはできない。


なら分ける。


外殻を内側から裂く。


中には半液状の魔力結晶があった。


触れた瞬間、枝が蒸発する。


高密度すぎる。


だが魔力嚢なら、薄めて保持できる。


分流で少量ずつ抜く。


魔力嚢へ。


膨張。


限界。


さらに第二の嚢を作る。


魔力を消費して器官を増やし、そこへ魔核の魔力を詰める。


矛盾した作業だ。


だが少しずつ、俺の身体は大きくなっていった。


糸だった身体が、網になる。


網が束になる。


束の一部が太くなり、中心らしきものが生まれる。


【自己構造容量が閾値を超過】

【保持可能構造数:増加】


その表示と同時に、外側の肉が破れた。


鋭い歯が体内へ突き刺さる。


宿主の死体が持ち上げられた。


俺のいる場所まで、あと少し。


《急げ》


魔核の最後の欠片を切り離す。


取り込めない。


だから俺は、自分の身体で包んだ。


枝を何重にも巻き付け、魔力結晶を中心へ固定する。


心臓のように。


【外部魔力源を内部構造へ固定】


【暫定魔核形成】


その瞬間、俺の身体へ魔力が回った。


死体の魔導脈に頼らない。


自分だけの魔力。


《……生きられる》


宿主がなくても。


俺は俺だけで。


直後、死体が大きく裂けた。


外の空気が初めて俺の身体へ触れた。


冷たい。


次いで、巨大な口が見えない暗闇の向こうから迫ってきた。







俺は死体の裂け目へ枝を伸ばした。


空気。湿気。土。

知らない刺激が一気に流れ込む。

視覚も聴覚もない。それでも外だと分かった。


捕食者の牙が背後の肉を噛み砕いた。

振動で距離を測る。あと二十センチ。


俺は増殖した枝を死体の外へ突き刺し、地面らしき硬い面へ絡める。


引く。

動かない。


筋肉がない。枝は伸ばせても、自分を引っ張る力が足りない。


《さっきの筋肉》


宿主の収縮する繊維を思い出す。完全再現は無理でも、似たものなら作れる。

二本の枝を並べ、その間を細い魔力経路でつなぎ、魔力を流した。


縮んだ。

ほんの数ミリ。


もう一度。

俺の身体が地面へ引かれる。


【擬似収縮構造を形成】


《動いた》


一センチ。三センチ。五センチ。

後ろで肉が砕ける。

俺は収縮を繰り返し、死体から半分出た。


そこで外から別の魔力反応を感じる。

巨大。宿主より小さいが、今の俺からすれば山だ。


捕食者。

そいつの魔力が俺へ向いた。


気づかれた。


俺は地面を這う。遅い。

背後から爪が落ちてくる。


俺は身体を分けた。

中央の暫定魔核と主要構造だけを前へ送り、後ろ半分を捨てる。


爪が落ち、切り離した身体が潰れた。


【構造損失:41%】


それでも生きている。


失った部分にも魔力経路はあった。それなのに、切断と同時に『俺』が二つへ割れた感覚はない。

残った回路側へ意識が収束している。


《これ、本当にどういう仕組みなんだ》


考える余裕はなかった。

俺は地面の裂け目へ潜り込む。捕食者の爪は入らない。


助かった。


しばらく動けなかった。

外へ出た。生まれた身体を失った。

代わりに、初めて自分だけで動いた。


《次は、もっと速く動ける身体が欲しい》


暗い裂け目の奥から、小さな魔力反応が近づいてきた。

今度は俺より少し大きいだけだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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