第22話 人型を観察する
灰角族の集落までは半日かかった。
俺は道中ずっと二足で歩いた。
遅い。
四脚なら半分以下の時間で着く。
それでも続ける。
セラたちの歩き方を後ろから観察する。
骨盤の回転。
腕の振り。
足裏の接地。
膝の角度。
人型の歩行は、倒れ続ける動作を次の一歩で受け止めている。
俺はそれを模倣した。
最初はぎこちない。
十歩。
百歩。
千歩。
歩くほど、中央核の揺れを利用できるようになった。
【独立二足移動:安定度上昇】
ケインが横から言う。
「朝より上手くなってないか?」
「ミテル。マネスル」
「怖いな」
褒め言葉として受け取る。
集落へ着くと、当然ながら大騒ぎになった。
灰色の肌と角を持つ住民たちが武器を持って出てくる。
子供は隠された。
俺は止まった。
セラが前へ出て説明する。
全ては聞き取れない。
森冠獣。
助けた。
話す魔物。
ネクサ。
危険かもしれない。
最後の一言だけ余計だと思う。
結局、集落の外れに滞在を許された。
中へ自由には入れない。
十分だ。
人型種が何十人も生活している。
観察対象としては最高だった。
ただし、じろじろ見ると嫌がられることも学んだ。
特に関節を見るためにしゃがみ込んで脚を見続けたら怒られた。
「ミテル、ダメ?」
「普通は嫌だ!」
社会は難しい。
夜、セラが食事を持ってきた。
俺は食べない。
そう伝えると彼女は驚いた。
「じゃあ何を食う?」
「マリョク」
厳密には魔力だけでは長期維持できず、構造材料も必要だ。
鉱物や生体素材を分解して使う。
説明すると、さらに引かれた。
その会話中、セラが傷んだ肩を回した。
俺の視線が止まる。
「……見るだけならいい」
許可が出た。
初めて、生きた人型種を落ち着いて解析する。
触れる場所も彼女が指定した。
肩。
背中。
腕。
骨と筋肉の動きを追う。
【人型生体構造解析:63%】
まだ足りない。
でも、解析という行為に「許可を取る」という新しい方法が加わった。
◇
人型を真似る上で、俺には根本的に足りないものがあった。
骨だ。
今までの身体は硬化させた魔導脈と外殻で形を支えていた。四脚なら低重心だからそれでいい。
二足になると、長い脚、高い胴体、可動域の広い腕を支えるため、柔らかさと剛性を同時に求められる。
灰角族の廃棄場から獣骨をもらい、内部構造を調べる。
外側は硬く、内側は軽い。全部を固くする必要はない。
《構造材として合理的だ》
俺は後脚内部へ、生体骨ではなく魔力結晶と鉱物を混ぜた格子状の骨梁を作った。
一度目は硬すぎて関節の根元から折れた。
二度目は軽くしすぎて走った瞬間に歪んだ。
三度目。外側を硬く、内側を網状にする。
【新規自作器官:魔晶骨格】
立つ。身体がぶれない。
走る。
十メートル。二十。三十。
初めて二足のまま走れた。
《楽しい》
速度は四脚の六割ほど。それでも両手が空く。
走りながら短剣を持ち、腕へ魔力砲を配置できる。
試しに右腕を砲身化して走行射撃。
命中。反動で姿勢を崩し、左腕を地面について転倒を避ける。
人型は単に街へ入るための形ではない。
戦闘形態としても面白い。
そこへ集落の鐘が鳴った。
森側から二十以上の小型魔物の反応。
その後方に、森冠獣の魔力。
セラが顔色を変える。
「奴が群れを追い立ててる」
偶然ではない。
森冠獣が、他の魔物を集落へ向けている。
《知性がある?》
巨大な敵が、急にもっと面白くなった。
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