第21話 身体を橋にする
谷幅十二メートル。
俺の増殖だけで橋を作るには長すぎる。
構造強度も足りない。
なら全部を作る必要はない。
俺は谷の両側を見る。
片側に太い岩柱。
向こう側に倒木。
把持器官を二本の長い索状器官へ変える。
一本を岩柱へ固定。
もう一本を噴射しながら向こう岸へ伸ばす。
届かない。
途中で限界。
《あと三メートル》
魔力編成。
身体外へ細い仮設経路を作り、増殖器官の先端を一時延長する。
不安定だ。
それでも倒木へ巻きついた。
【複合構造:外部支持索】
俺の身体を一本の張った索にする。
「ツカマレ」
五人が俺を見る。
「これを渡れって?」
「ハヤク」
説明している暇はない。
最初の一人が恐る恐る掴んだ。
重い。
人間型一人の体重で内部魔力路が軋む。
二人目。
三人目。
俺の損傷率が上がる。
【構造損傷:17%】
後方で森冠獣が岩場へ出た。
枝角が光る。
「イソゲ!」
四人目が渡る。
最後は負傷した男。
途中で索が切れかけた。
俺は自分の脚二本を分解して補強材へ回す。
移動能力を捨てて、橋を維持する。
男が向こう岸へ転がり込んだ瞬間、木槍が飛んできた。
俺の中央胴体を貫く。
【構造損傷:43%】
痛い。
だが核は外した。
俺は支持索を解除。
こちら側の固定を切る。
身体が谷へ落ちる。
その勢いを利用して噴射器官を最大出力。
弧を描いて向こう岸へ。
着地失敗。
岩へ叩きつけられた。
「ネクサ!」
さっきまで警戒していた連中の一人が俺の名前を呼んだ。
妙な感じだ。
俺は残った器官で立ち上がる。
「ダイジョウブ」
森冠獣は谷の向こうで止まった。
こちらへ来ない。
深森の王にも縄張りがあるらしい。
全員が生き残った。
俺は自分の壊れた身体を見る。
橋にもなれる。
《人型になる前に、ますます人型から離れてる気がする》
でも、それでいい。
形は用途だ。
本質ではない。
◇
谷を越えた後、五人はようやく武器を下ろした。
完全ではない。俺へ向けていた刃先が地面へ向いただけだ。十分だ。
先頭の女が名乗る。
「私はセラ。灰角族の斥候だ」
灰角族。彼ら自身の種族名らしい。
残りはトウマ、イェル、バル、負傷したケイン。死んだ六人目はロウという名だった。
俺は少し黙った。
さっき解析した死体にも、名前があった。
当然なのに、その事実が遅れて刺さる。
「ロウ。シッテル」
空気が変わった。
「どこで見た?」
「シンダ。キタ、ミチ」
「触ったのか?」
「サワッタ。カラダ、シラベル」
武器が再び上がった。
言い方を間違えたらしい。いや、内容そのものも問題か。
「アルク、シクミ。ホネ。カンセツ。シラベタ」
沈黙。
ケインが小さく笑う。
「こいつ、本当に化け物だな」
否定できない。
「ウン」
今度は全員が変な顔をした。
話し合いの結果、彼らは俺を敵とはみなさないことにした。助けたから。ただし信用もしない。
合理的だ。俺も同じだ。
彼らは深森北側の小集落から来たらしい。
森冠獣は昔からいる。だが最近、急激に強くなり、枝角の数まで増えているという。
《進化してる?》
俺と同じように。
セラが俺を見る。
「お前も変わるのか?」
「カワル。ジブンデ、ツクル」
「……似たもの同士かもな」
それは嫌だ。あんな巨体になる予定はない。たぶん。
彼らの集落まで同行することになった。
理由は二つ。
人型構造をもっと観察できる。
そして森冠獣の情報がある。
どちらも断る理由がなかった。
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