第19話 森が殴ってくる
深森へ入って十分で、浅い森との違いを理解した。
木が襲ってきた。
正確には木に擬態した生物だった。
足元を通った瞬間、根が跳ね上がる。
俺は横へ噴射した。
根が地面を叩き割る。
魔力感知では植物とほぼ同じだった。
《隠し方まで構造化されてるのか》
逃げながら反響探知を広げる。
幹の中心に周期的な振動。
心臓に近い器官がある。
高圧魔力砲を前脚へ移す。
撃つ。
幹が裂けた。
それでも止まらない。
三本の根が俺を囲む。
一本を把持器官で掴み、器官再配置。
前脚内部へ振動増幅構造を寄せる。
根が振るわれる瞬間、その振動を逆方向へ叩き返した。
裂けた。
【既存能力複合:振動反転】
新能力ではない。
振動増幅と把持、魔力編成を同時に使っただけだ。
《こういうのがいい》
身体の部品が増えるより、昔の部品が別の意味を持つ方が面白い。
俺は幹へ飛びついた。
構造解析。
表皮。
魔力偽装層。
根の収縮器官。
中心核。
欲しいものは多い。
だが今は容量を無駄にしたくない。
特性候補だけ確認する。
【候補:擬態皮膜/根脚形成/魔力遮蔽】
どれも魅力的だ。
特に魔力遮蔽。
街へ近づく時にも使える。
しかし選ばなかった。
今の目的は北だ。
選択は、必要になった時にする。
深森では一戦ごとに身体を作り替えていたら進めない。
俺は倒した擬態樹を置いて先へ進んだ。
すると後方から、別の大型魔物が死体へ寄ってきた。
食物連鎖が早い。
ここでは立ち止まること自体が危険らしい。
さらに北へ。
巨大反応との距離は縮まっている。
人型反応は六から五へ減った。
一つ、消えた。
《間に合うか?》
なぜ間に合わせたいのか、自分でも分からない。
人型構造が欲しいからか。
助けたいからか。
その両方か。
俺は出力を上げた。
◇
最初に見つけたのは、生きている五人ではなかった。
死体だった。
人型。だが人間ではない。
灰色の皮膚。長い耳。額から後方へ伸びる短い二本角。胸は大きく裂け、魔力反応はない。
《これなら……》
第二進化条件――人型生体構造解析。
死体なら、傷つける相手はいない。
俺は触れた。
骨盤。脊柱。肩甲帯。股関節。
俺が二足歩行で苦労していた理由が一つずつ形になる。
脚だけ作れば歩けるわけではない。上半身の揺れを骨盤と脊柱で逃がし、左右の脚へ連続的に重心を移す。
《なるほど》
夢中になりかけた時、遠くで爆音が響いた。
生き残り五人と巨大反応は、まだ戦っている。
全部調べたい。
だが、その間に残りも死ぬかもしれない。
必要な部分だけ取る。
【人型生体構造解析:31%】
一体の死体を触っただけで、人型すべてが分かるほど単純ではない。
それでも十分だった。
俺はその場で後脚を作り替える。
中央核の下へ骨盤に相当する支持環。左右へ球状関節。背面へ細い可動幹。
立つ。
尾なし。
一歩。二歩。三歩。
転ばない。
【独立二足移動:達成】
死体へ一度だけ振り返った。
「アリガトウ」
届く相手ではない。それでも言った。
直後、北側の木々がまとめて倒れた。
巨大な影が現れる。
四足。背中だけで二階建ての家ほど。頭部から枝角のような器官が何十本も伸び、その先で魔力が渦を巻いている。
巨大反応の正体。
あれは一体の魔物だ。
そして五人の人型種は、あれに狩られている。
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