↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/30

第15話 助ける理由

人間の悲鳴を聞いた。


街道から外れた森の中。


複数の足音。


魔力感知を広げる。


人間が三人。


魔物が五体。


狼型だが、背中から細い棘が生えている。


人間の一人が倒れていた。


《どうする》


助ける義務はない。


俺が出れば人間側からも攻撃される可能性がある。


そのまま離れるのが安全だ。


なのに、棘狼の身体が気になった。


背中の棘へ魔力が集まっている。


飛ばすのか?


見たい。


それと。


倒れている人間は、門の近くで何度か見た少女だった。


言葉を聞くために観察していた一人。


知っている顔というだけで、完全な他人より少しだけ重い。


《十分か》


理由なんて、そのくらいでいい。


棘狼が背中を震わせる。


棘が射出された。


俺は藪から飛び出す。


噴射。


少女の前へ。


外殻を広げる。


三本が刺さった。


【損傷率:14%】


痛い。


でも構造が分かった。


棘自体に微弱な魔力回路がある。


飛んだあとも軌道を僅かに修正していた。


《面白い》


俺は前脚を砲管へ変える。


一発。


一体の脚を抜く。


二体目が横から来る。


把持器官で短剣を抜き、喉へ突き立てる。


三体目。


噴射で背後へ。


魔力弾。


残り二体が逃げた。


追おうとして止まる。


人間たちがいる。


剣を向けていた。


当然だ。


黒い四脚の化け物が突然現れ、別の魔物を殺した。


俺は把持器官から短剣を落とす。


知っている単語を探す。


敵じゃない。


まだ完全には分からない。


だが最近、門番が揉め事を止める時に何度も聞いた言葉がある。


「ノ・エネ」


違う敵、敵ではない、そんな使われ方だった。


俺は発声器官を開く。


「ノ……エネ」


三人の顔が固まった。


少女が一番先に反応した。


「喋れるの……?」


半分くらい意味が分かった。


俺は答えられない。


代わりに、刺さった棘を自分の身体から一本抜いた。


そしてじっと見る。


少女は俺を見ていた。


たぶん、この瞬間から。


俺は彼女にとって、ただの魔物ではなくなった。



人間たちは逃げなかった。

正確には、逃げられなかったのかもしれない。


一人は脚を負傷し、少女も腕から血を流している。残る男は剣を俺へ向けたまま。


「動くな」


意味が分かった。

解析率が上がっている。


俺は動かない。

男が少女へ何か言う。


「危険だ。魔物だ」


ほぼ理解できた。

少女が俺を見る。


「でも、助けた」


《そうだな》


俺は発声器官を動かす。


「タス……?」


助ける、の語形を真似したつもりだった。

三人とも黙る。


発音が変だったのか。それとも化け物が自分たちの言葉を返したことが問題か。


少女が男の剣を下げさせた。


「名前は?」


その単語は知っている。

名前。


困った。

今の俺には名前がない。


前世の名前を思い出そうとする。

日本。事故。生活の断片。記憶は残っている。

なのに自分の名前だけ、薄い霧の向こうにある。


《なんでだ》


答えは出ない。


「名前、ない?」


「……ナイ」


伝わった。

少女の表情から、恐怖だけではないものが見える。


興味。

俺が魔物を見る時と少し似ていた。


《お互い様か》


遠くから別の人間の足音が近づく。六人以上。

増えれば話は変わる。


俺は後退する。


「待って」


今度は完全に分かった。

一瞬止まる。


少女が胸を指す。


「リナ」


名前。

次に俺を指し、問いかける顔をする。


俺は答えられない。

だから一度だけ発声した。


「リナ」


覚えた、の意味で。


それから森へ消えた。

背後で男の声がする。


「あいつは何だ」


それは俺も知りたかった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


続きが気になった方は、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。