3話 まほすと
翌日。私はいつもの平日と同じく、都心の会社に出勤する。保険会社の事務員だ。会社に着くと、さっそく仕事。これから昼までオフィスだから、また事故や事件にあうことはないと思うんだけど……。
「おはようございます、華月さん」
「おはよう、セアラさん」
セアラさんは、同僚だ。だけど私より年下……だったかな。仕事ができる、優秀な人。確かイギリスにルーツがあるとか。隣のデスクで入力作業をしている。
「華月さん、今日、お昼のランチ、一緒でもいいですか?」
「え、えっと……」
昼休みはラッセルに魔力のことを聞こうと思ってたんだけど。でも誘われたら断れないか。
私は少し考えてから、こくりとうなづいた。
「うん、いいよ。何食べたい?」
「やった! そうだなぁ、居酒屋のネバネバ丼かな」
「わかった」
セアラさんは鼻歌交じりに作業をする。私も隣で仕事だ。
ーーそしてお昼休み。私はセアラさんを連れて、昼営業している居酒屋に訪れた。オーダーをすると、セアラさんは私に聞いた。
「華月さん、そのワンピース、新しく買ったんですか?」
目敏いな。私は少し考えてから、こくりとうなづいた。
「昨日買ったんだよね」
「すっごく似合ってます! かわいい~」
「……ありがと」
べた褒めされた私は、顔を赤らめて丼をかっ込む。セアラさんは私を見て微笑む。私は少し照れくさくなった。
セアラさんも私と同じくワンピースだ。
「……セアラさんの服も似合ってますよ。形似てる?」
「あ、昨日ショッピングモールで買ったんです」
「えっ」
もしかしてセアラさんも昨日、モールにいたとか? 私は聞いてみた。
「セアラさんは買い物は基本、新都心なんですか?」
「えぇ、まあ。よくウィンドウショッピングしてますよ。昨日なんかもね」
「そうだったんですか」
オフの日も同じ場所にいたとはね。私はネバネバ丼を食べながら、つぶやく。
「彼氏なし、友達なしの休日なんて、そんなもんだよね」
「……華月さん、彼氏いないんですか?」
「う、うん……。セアラさんは? モテそうだけど」
「いやいや、私も彼氏なしです。それよりも……」
セアラさんは私のあごに触れた。
「っ!」
「ご飯粒、ついてましたよ?」
「あ、あぁ、ありがと……」
「いえいえ」
セアラさんは私のあごについた米粒を指先で取ると、それを自分の口に運んだ。
「ふふっ、本当にかわいい」
「……」
年下の同僚に『かわいい』と言われた私は、思わず赤面した。
昼食を済ませると、地下の居酒屋から大通りに出る。
ーーそのときだった。
「きゃあっ!」
「あっ!」
歩道を歩いていた私たちのほうに、車が突っ込んできた。私はセアラさんを抱き寄せると、車を避ける。
ドンッ! と大きな音がして、車はガラス張りのビルにぶつかった。
「……ふう、危なかった」
「か、華月さん、私……」
「大丈夫だった? セアラさん」
セアラさんは、私に抱きかかえられたまま、目を見開いている。私はセアラさんと一緒に、車から離れた。
「華月さん、ありがとうございました」
「いえ。ともかく無事でよかった」
セアラさんは会社のビルに入る。私はちょっとコンビニに寄ると言って、彼女と別れた。
私はコンビニのあるビルの近くの公園にいた。指笛を吹くと、ラッセルが舞い降りる。
「華月、なんだよ」
「魔力の状況を教えてって言ったじゃん。また事故にあってね」
「おう、それか。たった今、強い魔力が放出されていたぞ」
「……今?」
「ああ、お前と一緒にいた女ーーそこが魔力の根源だった」
嘘でしょ。セアラさんが魔力を出していた? 彼女はただの同僚だ。私はじっとラッセルを見る。するとラッセルははっきり言った。
「あの女ーー魔女だぞ」
セアラさんが魔女? 私はごくりと唾を飲み込んだ。こんな近くに同業者がいるなんて。だけどもしセアラさんが魔女だとしたら、心当たりがある。彼女が昨日ショッピングモールに行っていたという話。もしかしたら私と同じところにいた可能性がある。そう考えると納得だ。
ラッセルは続けた。
「あの女の魔力……お前のあとを追っているみたいだな。今もビルのエントランスに隠れてる」
「! ……って、セアラさんは一体なんなの? 私を追いかけてるって」
私はふとエントランスを見る。……本当にいた。私はラッセルに挨拶してその場を離れると、そこにいたセアラさんに声をかけた。
「セアラさん、待っててくれたの?」
「い、いえ……華月さん、カラスと一緒にいるなぁって……」
私はため息をつくと、前髪をかきあげる。そして言った。
「セアラさん……単刀直入に聞くけど、あなたも魔女なの?」
「……」
セアラさんは黙る。が、ゆっくりと口を開いた。
「今夜、一緒にごはんしてくれますか? そのときに事情をお話します」
にっこりと笑うセアラさん。私は彼女の目を見据えると、こくんとうなづいた。




