2話 相方
夕食の準備が終わると、風呂に入り、湯上がりにベランダへと出た。初夏の夜。風が気持ちいい。まったりと発泡酒を飲んでいたところだった。
「華月、何飲んでいるんだ?」
話しかけて来たのは、真っ黒な翼を持つカラスだった。彼はラッセルと言う。ラッセルと私は契約している。ラッセルは街の情報屋だ。魔女である私に情報提供する代わりに、ベランダで羽根休みや雨宿りしていいという契約だ。
「……発泡酒。お酒だよ」
「俺の分は?」
「仕方ないなぁ」
私は冷蔵庫に入っていた缶の発泡酒のプルタブを開けると、ラッセルの前に置いた。
「……うまいな? 人間はいつもこんなもんを飲んでいるのか」
「それはともかく。私から何かをせびるなんて、また大きなネタを仕入れたの?」
プルタブにくちばしを突っ込んで、斜めに倒して発泡酒を飲むラッセルに、私は言った。
「酔っ払った状態で空を飛んだら危ないよ?」
「ここで涼んで行くから平気だ」
「……もう」
「ところで華月。ずいぶんお前の周りの治安がおかしいな?」
「そうなんだよね。今日も買い物に行っただけなのにさ。……って、ラッセル、空から見てたの?」
「ああ、まあな」
発泡酒をあおるラッセルは、ぴちゃぴちゃと音を鳴らす。
「お前の周り、魔力がすごい。俺は魔力の強いところに引き寄せられている。つまり……」
「ひっどい! 私の魔力が問題ってこと?」
私が頬を膨らませると『カーッ』とラッセルは鳴いた。
「違えよ。お前、普段は魔力使ってないだろ。それこそ今日使った程度……人助けのときに瞬間移動しただけだろ?」
「じゃあ、私じゃない誰かが魔力を使って事故や事件を起こしているってこと……?」
「まぁな、その可能性はある」
ラッセルは発泡酒を空けると、少し足元がおぼつかなくなる。
「だけど……魔法を使って事故や事件を起こすなんて、できるの?」
「できる。超音波を使えばな。俺たち烏や渡り鳥の情報網だ」
「そうなんだ」
私はつまみとして食べていたチーズを、ラッセルにも分けると、ふと気づいたことをたずねてみた。
「ラッセル、今日は私のところに魔力が集まっていたって聞いたけど……逆に私が狙われていたとかってある?」
「どうだろうな? お前、同業者から恨みを買ったりしてないか?」
「うーん……私としてはないけど」
ベランダに頬杖をついて酒をあおると、チーズのお礼かラッセルは言った。
「明日は仕事で外出するんだろ? だったら魔力の出所、探してやってもいいぞ」
「本当? 助かる」
「……その代わり、このチーズとやらをもう一切れもらおうか」
「等価交換だね、いいよ」
再びチーズをラッセルにあげる。ツンツン突いてから、口の中に入れた。
「ーー華月さん、家にいるときは油断してるのね。私が向かいのアパートから見てるのに。ふふっ、かわいい」
私のことを双眼鏡でのぞく相手に、私は気づいていなかった。
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