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街の魔女さん、ヒーローになる  作者: 浅野エミイ


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1話 治安

「あっ、危ないっ!」


 私は思わず車道に飛び出した。ボールを取ろうとした子どもに駆け寄ると、抱きかかえた。


「テレポート!」


 早口で言うと、あっという間に対岸へ転がり込んだ。……危なかったが、なんとか私も子どもも助かった。


 車を運転していた女性が、私たちに声をかける。


「だ、大丈夫ですか!」

「なんとか……」


 子どもについた砂利を払い落とすと、私も子どもに声をかけた。


「君、大丈夫だった?」

「う……うん、お姉さんが助けてくれたから……」

「そう。じゃ、もう安心だね。私行くから」

「あっ、すみません、あなたの名前は……」


 車の運転手が私にたずねるが、私は首を振った。


「ただの通りすがりですよ。では」


 私はそう告げて、その場を立ち去った。


 ……だけど、地味に事故が多いな? 私は歩きながら考える。今日は子どもの飛び出し。その前は積載量オーバーのトラックの通行。先日は、信号機の停電……。交通インフラが古くなっているからだろうか。

 休みの日。オフだったので気分転換でショッピングモールにウインドショッピングに来たのだが、それでも事故に巻き込まれた。

 まあそれでも私は目的の洋服を買うために、ショッピングモールの中を進む。夏服のワンピースを物色する。服のサイズを見て、レジへ持っていき、会計。ちらりと後ろの女の子を見やる。高校生……か、大学生? 私が会計を待っていたら、なんと大胆にも服をカバンに入れた。これはーー万引きだ。

 私は店員に告げる前に、体が動いていた。


「お嬢さん? 万引きはダメだよ?」

「っ! あ、あたしはそんな……」


 騒いでいるのに気づいた店員さんも寄ってくる。女の子は観念して、万引きした服をカバンから出した。


「……すいませんでした」

「ちょっとバックヤードに来てくれるかな?」


 女性店員が女の子を連行する。私は他の店員さんに会計をしてもらうと、小声でお礼を言われた。


「ご協力感謝します」

「いいえ」


 ……今日、お休みで街に出たはいいけど、交通事故に万引き。ふたつも事件に巻き込まれてる……。私は頭を抱えた。なんで街に出ただけなのに、こんな事件があるの? 私がトラブルメーカーとでも言うの? いや、関係ないでしょ。


 帰りに気分転換でラーメンを食べて帰ろうか。ショッピングモールのラーメン屋に入って注文。待っていると……。


「あっ、お客様! 食い逃げだっ!」


 レジを素通りした高校生を、私は咄嗟に追って後ろから跳び蹴りして取り押さえる。


「痛ぇぞ、ババア!」

「食い逃げはダメでしょ!」

「すみません、ありがとうございます!」


 後ろから来た店員さんが、私にお礼を言う。またカウンター席に戻ってラーメンをいただく。食後、会計をしたとき、レジでトッピングの無料券をもらった。


「これ、食い逃げを捕まえてくださったお礼です」

「あっ、ありがとうございます」

「いやいや、お礼を言うのはこちらですって」


 ラーメン屋のお兄さんが笑う。私はありがたく無料券を受け取った。


 さて。服も買ったし、ラーメンも食べた。巻き込まれた事件は3つ。……って、1日に3つも事件事故に遭うなんて、珍しいだろうか? 

 私は帰りのバスに乗りながら、頭を抱える。自分があまりにも巻き込まれ体質で、事件事故に遭いすぎているせいか、それが普通だと思ってしまうのはいささか問題だ。


 バス停で降りると、私は歩道橋を渡る。階段を登りきったところで、私はサラリーマンの男性と目があった。


「……」


 知らない人だが目があった。男性は私から視線を逸らす。ふと、足元を見ると、革靴を脱いでいる。これはーー


「お兄さん、車道に飛び降りとか、やめてくださいよね」


 私はサラリーマンの隣に立つと、一緒に車道を見下ろす。男性は私をまじまじと見つめた。


「あんたには関係ないだろ」

「関係あるよ。お兄さんを見つけた。ここで何かあったら、私の気分が悪くなる」

「あんたの気分で止めてるのか? ははっ」


 乾いた笑いを浮かべると、サラリーマンは飛び降りを断念してくれたようだった。


「……あーあ、死ぬ気分が失せた! よかったな。あんたの手柄だよ」


 男は張り詰めていた糸がちぎれたように、笑いこける。


「じゃ、お兄さん。靴履いて。私と一緒に降りようか」


 そう言って私は、サラリーマンを保護した。軽く手を挙げて別れると、またため息をついた。

 ……4つ目だ。今日巻き込まれた事件事故。さすがに疲れたな。少し楽しちゃおうか。私はリュックサックに魔法をかける。すると、リュックはエンジンになる。今どきの魔女は、ほうきではなくリュックサックで空を飛ぶ。これで家まで帰ろう。


 私は街に住んでいる魔女だ。だけど、黒魔術とか悪い魔法を使ったりするわけではない。今日、子どもを助けたように、テレポートを使ったりするくらいの魔法。

 テレポートで帰宅してもよかったんだけど、街のパトロールを兼ねてだ。

 リュックサックジェットを使ってアパートまで向かう。

 ーーはあ、今日は休みだったのに、何だかんだで忙しかったな。


 私は家に着くと、さっそく買ってきたワンピースをクローゼットにかけた。

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