4話 一念発起
私は仕事が終わるとセアラさんに声をかけた。
「夕飯、どうします?」
昼間誘われての夕ごはん。どこか行きたいところはあるのだろうか?
「あの、私についてきてもらってもいいですか?」
何だろう? 私はいささか不審に思いながらも、セアラさんについて行く。電車に乗り、15分。なんと、私の最寄り駅と一緒だ。
「スーパー、寄っていっていいですか?」
「……うん。もしかして、セアラさんが作るとか?」
「嫌ですか?」
「嫌ではないけどさ……」
私はセアラさんにくっついて、スーパーに行く。そのあと彼女の家だ。私のアパートの斜め向かいが彼女の部屋だった。
「うっそ……うちの近くじゃん」
「どうぞ」
「うん、お邪魔しまーす……」
セアラさんの部屋は、白とピンクを基調とした、かわいらしいセットだ。
キッチンに材料を置くと、セアラさんはエプロンをつけて手を洗う。スーパーで買ってきた材料は……と。
「納豆は大丈夫ですか?」
「う、うん」
セアラさんはパスタを茹で始める。大葉と納豆、そしてキクラゲにわかめ、そしてオクラ。何を作るんだ? もしかしたらオリジナル料理?
私が待っていると、スパーリングワインとグラスをテーブルに置く。しばらくすると、サラダとビシソワーズも。
「セアラさん、料理うまいんだね」
私が関心しているうちに、パスタの皿も置かれる。おいしそうだ。
「じゃ、どうぞ。お上がりください」
「いただきまーす……うん、おいしい」
「よかったぁ」
「……って、そうじゃなくて!」
私はパスタを食べながら、セアラさんの顔をじっと見つめる。セアラさんはぽっと赤くなった。
「そんなに見つめられたら、恥ずかしいです」
「あっ、いや。ごめん……。私はただ、セアラさんが魔女かどうか聞きたくて。それだけじゃなくて、なんでこんなに近くに住んでいるのかも知りたくて……」
「そんなの、華月さんが好きだからに決まってるじゃないですか」
「……へ?」
思わず素っ頓狂な声をあげる。セアラさんが、私のことを……好き?
「私、華月さんがかっこよくヒーローみたいに活躍しているところを見るのが好きで!」
「いやいや待って? 私が活躍しているところって……」
「ハイ、お察しの通りです!」
私は頭を抱えた。つまり、セアラさんは私がヒーローみたいに人助けしているところを見たいが故に、魔力を集めて人為的に事件や事故を起こしていたってこと……?
それを聞いた私は、思わずセアラさんの頬を叩いた。
「……えっーー?」
「いい加減にしろ。人の命をなんだと思ってる」
私は正論を掲げてセアラさんを叱る。私の活躍が見たくて事件を起こす? ふざけるな。
セアラさんは頬を押さえて私をじっと見やる。そして反対の手を、私の頬に触れさせた。
「はぁ……やっぱり華月さん、かっこいい。私が憧れるヒーローだ……」
「だーかーら! あんたは反省してよ。事件や事故に巻き込まれるなんて、誰もが嫌でしょ!」
しっかりと叱りつけるが、セアラさんは反省しているのかどうかわかりにくい。ただ、私と一緒にいることを楽しんでいるのは変わりなさそうだ。
私はセアラさんをにらみつけて、ため息をつく。
「あのさ、どうしたら魔力の放出をやめてくれる? 魔力を押さえることはできるでしょ?」
「そうだなぁ……。こういうのはどうです?」
ちゅっ。
セアラさんは私に顔を寄せると、唇を奪った。私は一瞬何をされたか理解できず、ぽかんとする。
「……今のってーー」
「お駄賃☆ これから私と毎日一緒にごはん食べて、こんな風にキスさせてくれるなら、魔力の放出はしない」
~……っ! 私は頭に手をやる。それってまるで、恋人同士じゃん。
「どうしますか? 華月さん。私と付き合うか、事件事故か」
「脅迫じゃん……」
私は出された納豆のネバネバパスタを食べる。いや、セアラさんの作るごはんはおいしいんだけどさ。ってか、海外ルーツの人なのに、納豆好きなんだな。
「ほーら、華月さん! どっちにするんですか?」
セアラさんは頬を叩かれたといいのに、私にいちゃいちゃと絡んでくる。こうなったら。私はひとつの名案を思いついた。
「ーー私、会社辞めるわ」
「えっ……な、なんでですか!」
驚くセアラさんに、私は自分のアイデアを告げる。
「同性愛とかどうのは差し置いて、職場恋愛はいただけないでしょ?」
「まぁ……確かに」
私がフォークを向けると、セアラさんも納得する。さらにアイデアの内容を私は教えた。
「それに、セアラさんが魔力を押さえられなかったら、事件や事故が起きる。だったら私は警察官になるよ」
「っ! 華月さんが……警察官? ぐはっ!」
「……」
なんだか悶えているセアラさん。今の事務職も嫌いではないし、何よりホワイトカラーだから辞めたくはない。だけど、セアラさんが魔力の放出をやめないなら、仕事を変えることも考えないといけないかもしれない。
警察官になったら、夜勤とかもあるのだろうか。お肌には優しくなさそうだけどな。
「はぁ、はぁ……華月さんの制服姿……」
「あのね、あんたを喜ばせるために言ってるんじゃないからね?」
「わかってますよ。でも、このまま一般職でデートのときに人助けするのと、警察官になって職務として人助けをするの、どっちがいいかってことですよね?」
まとめるとその通りだ。私はセアラさんの作ったディナーを食べ終えると、彼女をみた。
セアラさんのことを恋愛対象として見たことはなかったが……毎晩ごはんを作ってくれる人がいるっていいのは悪くないかなとは思う。
「……ごちそうさま。ごはん美味しかったよ」
「本当ですか? やった、喜んでもらった!」
嬉しそうにはしゃぐセアラさんが、私の手を握る。
「華月さんのご用命なら、毎日ごはん作るんだけどなぁ」
「……」
この微妙な甘ったるい雰囲気。私は苦手だ。セアラさんから目を背けると、強く手を握られる。
「私、今夜は逃がしませんからね?」
「……え?」
そういうと、セアラさんは私の手の甲に唇を落とす。……ヒーローみたいな私が好きなんじゃないのか? これだとセアラさんがプリンセスを口説く王子様じゃないか。
私も負けられない。主導権を手放してなるか。
「お手柔らかに、ね?」
私はセアラさんの瞳をじっと見つめて、微笑む。
「……もうっ! これだから華月さんには勝てないんだよ」
ヒーローVSプリンス。さて、今夜の勝敗はーー? 私はグラスに残っているスパーリングワインをぐいと飲み干す。
「……まったく、華月は本当に人がいいな」
外のベランダにいたラッセルは、大きな声で「カーッ」と鳴いた。




