決着編 第四話 影丸覚醒
伊賀忍伝 ―決着編―
第四話 影丸覚醒
暴風だった。
猿飛佐助 と夜叉丸の激突は、もはや人の戦いではない。
風が裂け、
炎が渦巻き、
木々が吹き飛ぶ。
ズガァァァン!!!
佐助の蹴りで巨木が砕け散る。
夜叉丸も負けてはいない。
「黒蛇牙ァァァ!!」
無数の黒蛇が地を這い、佐助へ襲い掛かる。
だが。
ヒュン!!
佐助は木々を蹴り、空中を舞う。
「だから遅ぇって!」
ズバァァァッ!!
風の斬撃。
黒蛇が消し飛ぶ。
甲賀忍達は、その光景を呆然と見ていた。
「何なんだ……あいつら……」
「人間じゃない……」
綾乃ですら震えていた。
蒼牙が静かに言う。
「いや……あれが“伝説”だ」
その時だった。
――カラン。
小さな音。
誰かの鈴の音だった。
全員が動きを止める。
風が止む。
炎が揺らぐ。
空気が、変わった。
夜叉丸の顔色が変わる。
「……まさか」
半蔵が槍を握り直した。
「来たか」
森の奥。
黒い霧の中から、一人の男が歩いてくる。
白い髪。
黒い外套。
顔には、傷。
だが何より異様だったのは――
“気配が無い”。
そこにいるのに、存在を感じない。
まるで亡霊。
男は静かに言った。
「騒がしい夜だ」
蒼牙が目を見開く。
「……影丸」
影丸
忍びの世界で最も恐れられた男。
伊賀にも属さず。
甲賀にも属さず。
かつて百人の忍を、一夜で消したと言われる“死影”。
既に死んだと思われていた。
だが、生きていた。
佐助が笑う。
「へぇ……」
「お前まで出てくるか」
影丸は答えない。
ただ夜叉丸を見る。
「随分、醜くなったな」
夜叉丸の顔が歪む。
「貴様に何が分かる!」
「分かるさ」
影丸の瞳が冷たい。
「お前は恐れている」
「忍びの時代の終わりを」
夜叉丸が叫ぶ。
「当たり前だ!」
「戦が終われば、忍びは捨てられる!」
「我らは道具だ!」
「平和になれば不要になる!」
すると影丸は、静かに目を閉じた。
「だから、お前は里を焼いた」
「……ッ!」
蒼牙達が息を呑む。
夜叉丸の沈黙。
それが答えだった。
「甲賀を襲ったのは伊賀ではない」
影丸は続ける。
「お前自身だ」
「乱世を続ける為にな」
甲賀忍達がざわめく。
「嘘だ……」
「総帥が……?」
「我らを……騙して……?」
夜叉丸の顔が狂気に染まる。
「黙れェェェ!!!」
ドゴォォォン!!!
凄まじい黒煙が噴き出した。
夜空が黒く染まる。
大地が腐り始める。
木々が枯れる。
禁術の暴走。
半蔵が険しい顔になる。
服部半蔵 が低く呟く。
「完全に術に呑まれたか……」
夜叉丸の身体に、黒い紋様が浮かぶ。
目は赤く染まり、皮膚が裂け始める。
もはや人ではない。
「戦えぇぇぇ!!!」
「戦い続けろォォォ!!!」
狂気の咆哮。
すると影丸が、一歩前へ出た。
「蒼牙」
「……?」
「お前に問う」
影丸の視線が突き刺さる。
「忍びとは何だ」
蒼牙は答える。
「人を守る影だ」
「光の為に、闇を生きる者」
静寂。
そして。
影丸が、初めて微笑んだ。
「そうか」
次の瞬間。
消えた。
「――!!」
誰も見えなかった。
一瞬。
本当に一瞬。
夜叉丸の背後に、影丸が立っていた。
夜叉丸が驚愕する。
「な……」
ドシュッ。
血。
夜叉丸の胸から、刃が突き抜けていた。
甲賀忍達が凍りつく。
「終わりだ、夜叉丸」
だが。
夜叉丸は笑った。
狂ったように。
「終わるかよ……!!」
その瞬間。
黒煙が爆発した。
ドォォォォォン!!!
森全体が揺れる。
影丸ですら後退。
そして黒煙の中心で――
“何か”が立ち上がる。
巨大だった。
人ではない。
黒い霧で出来た異形。
無数の腕。
無数の目。
そして中央には――
夜叉丸の顔。
綾乃が震える。
「ば……化け物……」
半蔵が槍を構える。
佐助が笑みを消す。
蒼牙は短刀を握った。
夜叉丸の声が響く。
「忍びはァァァ!!」
「滅びんんんん!!!」
その咆哮で、山が震えた。




