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決着編 第三話 風の忍び

第三話 風の忍


 燃え盛る森。


 赤黒い炎が夜を照らし、焦げた木々が崩れ落ちる。


 その中心で――


 甲賀総帥・夜叉丸。

 鬼半蔵。

 そして伊賀頭領・蒼牙。


 三人の視線は、同じ男へ向いていた。


 木の枝に座り、笛を弄ぶ男。


 赤いマフラーが、風に揺れる。


「そんな怖ぇ顔するなって」


 男は笑う。


「せっかく面白くなってきたんだからよ」


 猿飛佐助


 戦国最強と噂される流浪忍。


 だが誰にも仕えず、

 誰にも従わない。


 気まぐれで戦場に現れ、

 気まぐれに消える。


 それが猿飛佐助だった。


 夜叉丸が低く言う。


「貴様……どちらにつく」


 佐助は肩を竦めた。


「さぁな」


「ふざけるな」


「本気だぜ?」


 佐助は立ち上がる。


 その瞬間。


 風が吹いた。


 いや――


 佐助が、消えた。


「なっ!?」


 甲賀忍の首筋に、一瞬で苦無が突きつけられる。


「おっと」


 ヒュン!!


 次の瞬間には別の場所。


 さらに次。


 さらに次。


 残像。


 いや、速すぎる。


「見えん……!」


 綾乃が震える。


 蒼牙ですら、動きを捉え切れなかった。


 半蔵だけが静かに呟く。


「風遁を極めたか……」


 佐助は笑う。


「流石、鬼半蔵」


 その瞬間だった。


 ドシュッ!!


 夜叉丸の鋼糸が空を裂く。


 だが佐助は空中で身体を捻り、回避。


「危ねぇ危ねぇ」


「貴様……何を企む」


 夜叉丸の瞳が細まる。


 すると佐助は、急に真顔になった。


「なぁ、夜叉丸」


「……?」


「お前、本当に“甲賀”の為に戦ってるか?」


 空気が変わった。


 夜叉丸の目が、僅かに揺れる。


 蒼牙が眉をひそめる。


「どういう意味だ」


 佐助は地面へ降り立つ。


 そして笑みを消した。


「俺は見たぜ」


 炎が爆ぜる。


「甲賀の里を燃やしたのは――甲賀自身だ」


「……ッ!」


 綾乃が息を呑む。


 夜叉丸の殺気が跳ね上がる。


「黙れ」


「図星か?」


「黙れェェェ!!!」


 ドンッ!!


 夜叉丸の周囲から黒煙が噴き出す。


 地面が腐り始める。


 異様な術。


 半蔵が目を細めた。


「禁術に手を出したか」


 夜叉丸は狂気の笑みを浮かべる。


「伊賀も甲賀も関係ない!」


「戦があるから、忍びは生きられる!」


「平和など来れば、我らは不要となる!」


 蒼牙が叫ぶ。


「だから戦を続けるのか!?」


「そうだ!」


 夜叉丸の瞳は、完全に狂っていた。


「忍びは闇で生きる!」


「ならば乱世を終わらせてはならぬ!」


 その言葉に。


 半蔵が槍を構える。


「……外道め」


 徳川は天下統一を進めている。


 戦の終焉。


 それは同時に、“忍びの時代の終わり”でもあった。


 だからこそ夜叉丸は、戦を終わらせたくない。


 忍びが生き残る為に。


 だが――


 蒼牙は前へ出た。


「違う」


 血塗れの身体で、立ち上がる。


「忍びは、人を守る為にある」


「闇に生きても、心まで闇になる必要はない!」


 夜叉丸が笑う。


「綺麗事だ」


「そうかもしれん」


 蒼牙は短刀を構える。


「だが俺は――お前を止める」


 その瞬間。


 佐助が、ニヤリと笑った。


「決まりだな」


「……何がだ」


 すると佐助は、楽しそうに言った。


「今夜の主役が」


 風が吹く。


 炎が揺れる。


 そして次の瞬間――


 佐助が夜叉丸へ突撃した。


「行くぜェェェ!!!」


 ドォン!!!


 風圧だけで木々が吹き飛ぶ。


 人間離れした速度。


 夜叉丸も印を結ぶ。


「黒蛇幻陣!」


 無数の黒蛇が襲い掛かる。


 だが佐助は笑っていた。


「遅ぇッ!!」


 ズバァァァッ!!


 一瞬。


 本当に、一瞬だった。


 風が走り。


 蛇が両断され。


 夜叉丸の頬から血が流れた。


 初めて。


 夜叉丸が驚愕する。


「馬鹿な……!」


 佐助は着地し、肩を鳴らした。


「さて」


 その瞳が鋭くなる。


「本気で遊ぼうぜ、甲賀総帥」

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