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決着編 第二話 鬼半蔵

第二話 鬼半蔵


 燃えていた。


 森が。

 空が。

 戦場そのものが。


 甲賀忍軍百名による包囲。

 伊賀は、蒼牙と綾乃のみ。


 普通なら、既に終わっている戦だった。


「かかれぇぇぇ!!」


 甲賀忍達が、一斉に襲い掛かる。


 苦無が飛ぶ。

 毒煙が広がる。

 火矢が夜空を裂く。


 蒼牙は血を吐きながら、それでも立っていた。


 ガギィン!!


 短刀で三本の苦無を弾く。


 しかし次の瞬間――


 背後。


 殺気。


「……っ!」


 振り向いた時には遅かった。


 甲賀忍の大太刀が、蒼牙の肩を斬り裂く。


 鮮血。


 膝が揺れる。


「頭領ッ!!」


 綾乃が叫ぶ。


 だが、その綾乃にも鋼糸が迫っていた。


 避けられない。


 死。


 その瞬間だった。


――ドォォォン!!!


 轟音。


 大地が爆発した。


 甲賀忍達が吹き飛ぶ。


「な、何だ!?」


 炎の向こう。


 ゆっくりと、一人の男が現れる。


 黒い忍装束。

 背には巨大な槍。


 そして――鬼の面。


挿絵(By みてみん)


 空気が変わった。


 甲賀忍達が、本能的に後退する。


「まさか……」


 夜叉丸の顔から、初めて余裕が消える。


「来たか……鬼半蔵」


 男は答えない。


 ただ、静かに歩く。


 一歩ごとに、地面が軋んだ。


 蒼牙が目を見開く。


「……服部半蔵」


 服部半蔵


 鬼半蔵。


 徳川家康に仕える最強忍軍頭領。


挿絵(By みてみん)


 戦場で彼を見た者は、生きて帰れない。


 そう恐れられた男だった。


「伊賀の生き残りか」


 半蔵は低く呟く。


「まだ、火は消えておらぬようだな」


 夜叉丸が冷笑する。


「徳川の犬が、何の用だ」


「決まっている」


 半蔵は槍を構えた。


「忍びの戦を、終わらせに来た」


 瞬間。


 消えた。


「なっ――!?」


 次の瞬間、甲賀忍の首が宙を舞った。


 一撃。


 見えなかった。


 さらに――


 ドン!!


 槍が振るわれる。


 衝撃だけで、三人の忍が吹き飛ぶ。


「化け物……!」


 恐怖が広がる。


 だが夜叉丸だけは笑っていた。


「面白い」


 シュン!!


 夜叉丸が消える。


 半蔵の背後へ。


 だが――


 ギィィィン!!!


 半蔵は振り向きもせず、槍で受け止めていた。


「速いな、甲賀」


「貴様こそ」


 二人の周囲で、大気が震える。


 達人同士。


 人間を超えた領域。


 その激突だった。


 蒼牙は息を呑む。


(これが……本物の忍び)


 次の瞬間。


 夜叉丸の印が変わる。


「禁術――黒蛇幻陣」


 地面から、無数の黒い蛇が現れた。


 毒を纏う幻術。


 森そのものが、生き物のように蠢く。


 綾乃が青ざめる。


挿絵(By みてみん)


「こんな術……!」


 だが半蔵は、一歩前へ出た。


 そして。


 静かに、印を結ぶ。

「火遁・業炎獄」


 ゴォォォォォッ!!!!


 爆炎。


 圧倒的な炎が、森を紅蓮に染め上げた。


 蛇が消える。


 幻術が焼き尽くされる。


 夜叉丸が初めて後退した。


「……なるほど」


 半蔵の鬼面の奥で、瞳が光る。


「貴様、本気で天下を乱す気か」


 夜叉丸は笑った。


「乱れるから面白いのだ」


 その時だった。


 ヒュゥゥゥ……


 どこからか、笛の音が聞こえた。


 全員が空を見上げる。


 木々の上。


 一人の男が座っていた。


 風に揺れる赤いマフラー。


 口元には、不敵な笑み。


挿絵(By みてみん)


「へぇ……」


 男は楽しそうに笑う。


「やっと、面白くなってきたじゃねぇか」


 蒼牙が目を見開く。


「まさか……!」


 夜叉丸すら、表情を変えた。


 伝説の流浪忍。


 戦場を渡り歩く“風の忍”。


 猿飛佐助


 猿飛佐助、参戦。

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