エリクシル
アシェンプテルはブロック塀から顔を出して覗き込む。真っ黒のゴスロリ衣装に紫の長髪、毒々しい見た目をした少女がそこに立っていた。その右手には大振りの鉈が握られている。
「ッ……!」
少女は一瞬、アシェンプテルに向かって微笑んだ。その視線はすぐさまマジカルバレットに向けられる。その目には強い敵意が宿っていた。
「アシェンプテルを傷つけようとする奴は、殺すわ」
――何で私の名前を?
「んなッ……!?」
黒い少女は何の躊躇もなく、マジカルバレットの胸めがけて鉈を投げつけた。その一撃は九七式自動砲そのもので防がれたが、銃身が折れるほどの衝撃であった。
「こいつッ……!」
マジカルバレットは壊れた自動砲を投げ捨て、再び同じものを作り出した。
「それなら、これで殺す」
少女は懐からナイフを取り出し、マジカルバレットに向かって一直線に突っ込んだ。
「だ、ダメだよ!!」
「バカがッ!!」
アシェンプテルの予想通りのことが起こった。自動砲から放たれた20mm砲弾が少女の肩に命中し、ナイフを持った右腕が肩甲骨ごと吹き飛んだ。その衝撃で、少女の突撃もさすがに止まった。
「そんな怪我はもう治らな――何?」
失われた腕が一瞬にして再生された。マジカルバレットも目を見開いて、引き金を引くのを忘れていた。
「あ、あれは一体……」
『彼女の固有魔法は再生能力みたいだね』
「それに特化した魔法少女、ってこと?」
『そういうことになるね』
アシェンプテルが見守る中、少女は武器も持たず、マジカルバレットに突進する。
「アシェンプテルの敵! 死ねッ!!」
「これで終わらせてやる!」
自動砲の照準が少女の頭部に合わされる。アシェンプテルが息を呑んだのも束の間、その引き金は引かれ、黒い少女の首から上は粉々に吹き飛んだ。
「ぃいいッ…………!」
『いや、大丈夫じゃないかな』
「な、何言って……え?」
頭のない身体は、動いていた。脚に力が入り、倒れかけた身体を支える。少女は体勢を立て直し、腕と同じように、首から上を再生させた。
「こいつ……バケモンか……?」
「私はエリクシル。固有魔法は絶対の不死。お前が死ぬまで追いかけ続けるわ」
「ははっ。望むところだね」
――ん? 何か、捨てられた……?
その時、アシェンプテルは何かを感じた。不法投棄されたゴミを探知している時と全く同じ感覚だ。今まさに、魔法少女たちが殺し合っているこの場所に、誰かが何かを捨てたということになる。
――普通の人間がそんなことをするわけない。なら、何かの罠? 爆弾とか?
「ねえ、あなた! 下がって! こっちに来て!」
ブロック塀から出て呼びかける。
「アシェンプテルが言うならもちろんよ!」
エリクシルはアシェンプテルの近くまで跳躍してきたが、着地してすぐ、まるで瀕死の病人のように激しく咳き込んだ。
「だ、大丈夫!?」
「うえぇ……何、これ……」
激しく咳き込み、涙や鼻水を垂れ流すなど、随分酷い有様になっていた。
○
マジカルバレットは、いつの間にか銃を捨て、家屋の屋上に移動していた。
その隣には、また別の少女が立っていた。セーラー服に白衣を重ねたような衣装をまとい、白い髪をポニーテールにした少女である。
「せっかくの毒ガスを事前に察知するとは、どうやら全く戦闘の役に立たないわけでもなさそうだね」
白い少女はアシェンプテルを値踏みするように見下ろしていた。
「誰なの、あなたは」
「これは失礼。申し遅れまして、私はアルカロイド。既知の化学物質なら何でも作れる魔法の持ち主だよ」
「ねえ、あなたたちは何がしたいの? 魔法少女を殺して、神様にでもなりたいっていうの?」
戦いが膠着状態になり、アシェンプテルの中では、恐怖や困惑よりも怒りが勝りつつあった。
「アタシはこの世から武器をなくしたい。誰も傷つかないようにな」
「私は難病を根絶したい。誰も苦しまないようにね」
「そんな良い願いを持っているのに、どうして人に迷惑をかけるの?」
「魔法少女なんて、せいぜい十数人しかいねぇんだ。それを殺して、世界中の人が幸せになるなら、その方がいいだろ?」
「そ、それは……」
「こんなしょうもない話をしてる暇はねぇ。今度また殺しに来てやるよ」
「よくある議論ということは、結論なんて出しようがないってことだからね」
マジカルバレットとアルカロイドは屋上を飛び降り姿を消した。
「そ、それにしても……あなた、大丈夫? エリクシルで合ってるんだよね?」
アシェンプテルは改めてエリクシルに問いかける。先程の症状はかなり和らいでいるようだ。
「ええ、私は大丈夫よ。そんなことより、やっとあなたに会えた! 私が一生守ってあげる! あなたを傷つけようとする奴は皆殺しにするわ!」
エリクシルは急に恍惚とした笑みを浮かべ、矢継ぎ早にまくし立てた。




