マジカルバレット
「は、ははっ……凹んでる…何これ……」
アシェンプテルは乾いた笑い声を力なく上げながらうずくまった。
銃創から流れ出した血が灰色のスカートを赤黒く染めている。全身から激しく汗が吹き出し、吐き気がこみ上げてきた。
『大丈夫! そのくらいの傷なら、すぐに治るよ!』
「治る……? あっ……」
ゆっくりとだが、その傷口が塞がっていくのがわかった。傷口が目に見える速さで塞がっていく。明らかに人間離れした治癒能力だ。
と、その時、アシェンプテルの背後から声が響いた。
「その程度でへばってんのか? 魔法少女だろ?」
「……?」
地面に座り込んだまま、アシェンプテルは振り返る。傷口はすっかり塞がり、痛みも消えた。
セーラー服の上から軍服のようなマントをまとい、荒れた真っ赤な髪をたなびかせている少女が、そこに立っていた。その手には煙を吐く機関銃が握られていた。
「アタシは魔法少女マジカルバレット。お前を撃ったのはアタシだし、お前を殺そうともしている」
「殺す……? 何を、言ってるの……?」
アシェンプテルはゆっくり立ち上がり、震える声で聞き返した。その疑問は、マジカルバレットには意外だったようだ。
「欠片から聞いてねぇのか? 魔法少女を全員殺して、16個に分かれた願望機の欠片を集めれば、その名の通り願望機が完成する。どんな願いでも叶う最強の力だ」
「ほ、本当なの……?」
懐の欠片に問いかける。
『うん。彼女の言葉に嘘はないよ』
「まあ、そういうわけで、この九九式軽機関銃で蜂の巣にしてやるよ。楽に死なせてやる!」
マジカルバレットは銃口と銃剣をアシェンプテルに向けた。
――願いのために魔法少女を殺す……? そんなこと、許されるわけ……
『逃げて、アシェンプテル!』
「ッ……!!」
アシェンプテルの生存本能は、まだ働いていた。マジカルバレットが引き金を引くより早く、アシェンプテルは飛び跳ね、すぐ近くのブロック塀の後ろに隠れた。
轟音と共に数十発の銃弾がブロック塀に着弾したが、コンクリートの壁を貫通することはなかった。数度のリロードを挟んで、マジカルバレットは連射を繰り返す。
「隠れてないで出てこい!! お前の魔法を見せてみろ!!」
「ど、どうしよう……」
『マジカルバレットはキミの魔法を知らない。様子見しているんだろうね』
「だからって、私の魔法で戦えるわけないよ……!」
『その辺の石を投げるだけで、反撃になるよ!』
「石……? 相手は機関銃なのに……?」
『キミは魔法少女なんだ! 私を信じて!』
「わ、わかった!」
アシェンプテルは掌大の石を拾い、マジカルバレットのリロードの隙を見てブロック塀から上半身を乗り出した。そして左手で体を持ち上げながら、右手で石を投げた。
石を投げた感触は、明らかに人間の時のそれとは違った。空気が震えるのが肌で感じられた。一瞬の間を置いて、マジカルバレットの左脇腹から血が飛び散った。
「や、やった……?」
「やっとやる気を出したか!? なら、こっちも本気を出すとしようか!」
「ひぃ……!」
アシェンプテルは再びブロック塀に身を隠した。
だが、次の瞬間、アシェンプテルの頭のすぐ隣で、ブロック塀に綺麗な穴が開いた。遅れて届いた銃声は、先程の連射より遥かに重いものであった。
「あの人、対物ライフル手で持って撃ってるよ!」
『魔法少女だからね』
「あんなの当たったら、絶対死ぬ……!」
次々と飛来する弾丸がコンクリートを貫く中、アシェンプテルは逃げた。射撃が止んだタイミングでブロック塀を飛び出し、その先の住宅の塀に身を隠す。
「もう、どうすればいいの……!?」
『マジカルバレットは殺しにきてるし、キミも殺す気で反撃するしかないんじゃない?』
「居場所がバレた瞬間に粉々にされるよ!」
機関銃だけなら、反撃したら即座にブロック塀に身を隠せばよかった。だが対物ライフルが相手だと、捕捉された瞬間に塀ごと撃ち抜かれ、木っ端微塵にされるに決まっている。
「……あ、警察だ! 警察が来てくれたよ!」
その時、サイレンの音がアシェンプテルの耳に届いた。まさに希望の音だ。
○
早速2台のパトカーがマジカルバレットのもとへ急行してきた。
「武器を捨てるんだ!!」
警官が4人ばかり、マジカルバレットに拳銃を向けた。
「それはこっちのセリフだね!」
マジカルバレットは対物ライフルを捨てて九九式軽機関銃に持ち替え、警官たちに射撃を浴びせた。投げ捨てた銃は霧のように消滅していた。
彼らはたまらずパトカーの後ろに隠れた。パトカーに無数の弾痕が浮かぶ。
「お前たちじゃ相手にならねぇな! 自衛隊でも呼んできな!!」
機関銃を消して再び作り出した対物ライフル――正確には対戦車ライフルの九七式自動砲――でパトカーを撃ち抜くと、警官たちは撤退せざるを得なくなった。
「誰も死んでねぇよな……?」
マジカルバレットはアシェンプテルへの牽制射撃を続けながらそれを確かめ、安堵の溜息を吐いた。
○
『ほら。言った通りでしょ?』
「警察の人、大丈夫なの?」
『そんなこと気にしてる余裕ないでしょ!』
「そ、そうだね。建物の屋上とかに跳んで、一気に逃げる……?」
『姿を長時間晒すのは危険だよ』
「うぅ……」
と、その時であった。
「人……?」
黒い人影がブロック塀のすぐ前に飛び降りるのを、アシェンプテルは確かに見た。




