魔法少女の現実
翌日は土曜日であった。月花は部費をケチって部活に入っていないので、一日中暇である。
「欠片ちゃんはご飯食べないの?」
「私は食べる必要がないし、そもそも食べる機能がないよ」
「そうなんだ。食事の楽しみがないのは可哀想だけど、仕方ないか」
月花は白米と納豆など質素な朝食をささっと用意した。
「本日も、国民の皆さんの税金に感謝して、いただきます」
月花は孤児であった。里親はいるが、自ら一人暮らしを選んでいる。
「さーて。早速人助けといきたいところだけど、何すればいいかな?」
「そうだね。わかりやすく犯罪者とかがいれば、魔法少女の力でねじ伏せられるけど」
「そんな状況に遭遇する可能性は、相当低いと思うなぁ」
「じゃあ、アシェンプテルの能力を活かして、掃除の手伝いをしよう」
「清掃のボランティアでもするってこと?」
「それもいいけど、キミの能力なら、ある程度の範囲内にある、不法投棄されたものとかを見つけることができるよ」
「なるほど? やってみる」
月花は早速アシェンプテルに変身し、安アパートの屋上に飛び乗った。欠片は宝石の姿になり、アシェンプテルの懐に仕舞われている。
「そう言えば……この姿で街中を走り回ったら、身バレしたりしない?」
『大丈夫だよ! 認識阻害がかかってるから、月花だとバレることは絶対ない。魔法少女がいるってことは、噂になるかもしれないけど』
「それならいいか。じゃあ早速――」
アシェンプテルは周囲を見渡し、意識を街路に集中させた。
すると、願望機の欠片が言った通り、周囲数百メートル以内で不法投棄されたゴミの場所が感覚的にわかった。掃除するべきものだと魔法が判定しているのだろう。
「欠片ちゃんの言う通りだ。すごいね」
『私は絶対に嘘つかないから!』
「うん。信用するよ」
アシェンプテルは家々の屋根を飛び移りながら、車より速く街を駆けた。
「粗大ごみは、ごみ処理場に持っていくくらいしか、できることはないか……」
『私たちがお金を払うのはおかしいよ』
「うん。これだけでも、少しは負担を減らすことに繋がるはず」
アシェンプテルは不法投棄された冷蔵庫やらテレビやらをごみ中継所に持っていった。本来であれば事前に連絡するべきだが、そこまでする義理はない。
○
そんな仕事を朝から続け、日が落ちてきた頃のことであった。
「煙……? まさか、火事……!?」
『そうかもしれないね。助けに行くの?』
「当たり前だよ! 早く行かないと!」
――そういえば、さっきサイレンが聞こえた。魔法少女なんだから、もっと敏感にならないと。
街中で緊急車両が走っていることなど、何ら珍しいことではない。アシェンプテルは気にも留めなかったが、今になってそのことを後悔していた。
現場に到着すると、月花の住むアパートと同じような小規模なアパートが燃えており、既に消火活動が始まっていた。火の勢いは随分と落ちてきているようだった。
「中に人が残っている、かも」
『アシェンプテル、あれはもう、火事が起こってから結構な時間が経っているよ。既に避難してるか、死んでいるか、どちらかしかない』
「で、でも……」
『キミが行ったら、余計な迷惑をかけるだけだよ』
もしも突然少女が現れて炎上中の家屋に飛び込んだりしたら、消防も大混乱に陥るだろう。それはただの迷惑でしかない。
「……わかった。行かないよ」
『うん。それがいいと思う』
欠片の言う通り、生存者がいる可能性は極めて低い。アシェンプテルには、建物に飛び込むという選択は採れなかった。
○
そうして一日が過ぎた。風呂に入った後、月花が布団の上でゴロゴロしながらスマホを見ていると、あるニュースが流れてきた。
「……世田谷区内で火事。女子高生一人の死亡を確認、だって」
「さっきの火事とは限らないんじゃない?」
欠片は月花のスマホを覗き込んだ。
「場所も同じだよ。私がもっと早く気付いていれば……」
月花は顔をしかめて歯噛みした。
「仕方ないよ。アシェンプテルには火事を察知する能力はないんだから」
「もっとアンテナ張らないと。せっかく魔法少女になったんだから」
「キミはやる気がいっぱいだね」
「当たり前でしょ。明日も張り切っていかないと」
○
明けて日曜日。月花には遊びに行くという発想はなく、アシェンプテルの力を使った人助けに一日を使うと決めていた。
少し方向性を変えて、事故車両を道の端っこにどける仕事などにも手を出してみた。あるいは窃盗の現行犯を殴り倒し、両脚を折って動けなくしたりもした。
そうして街を駆け回って、日が傾いてきた頃のこと。
突如として、アシェンプテルの左腕に異様な感覚が生じた。
――あ、熱い!? 痛い!? 腕が……!!
遅れて響いた銃声も、彼女の頭には届いていなかった。アシェンプテルの上腕に深い裂傷が走り、鮮血が溢れ出していた。




