オーバークロック
マジカルバレットは九七式自動砲を消し、銃剣のついた九九式軽機関銃を作り出した。
「アタシを舐めるなよ!!」
「無駄なことを」
アイギスに向かって大量の銃弾を叩き込みながら、マジカルバレットは突撃する。もちろんアイギスはビクともせず、剣を構えて待っている。
「こいつでッ!」
アイギスとの距離を10メートルほどまで詰めたところで、九九式軽機関銃を投げ捨て、軍刀を作り出す。
「刀も作れるのですか」
アイギスは少しだけ眉をひそめたが、反応はそれだけであった。
「トドメだ!!」
「アイギス様!!」
マジカルバレットはアイギスに斬りかかった。アイギスの防御領域――彼女を中心とする半径2メートルの球状の領域――より内側に入れば、その魔法も意味をなさない。
だが、アイギスはマジカルバレットの斬撃を悠々と受け止めた。剣と剣の接触点で火花が散る。
「クッ……!!」
「大丈夫ですよ、アリアドネ」
アイギスは余裕綽々に振り返りながら言った。
マジカルバレットは何度も斬りつけるが、アイギスはことごとく受け止める。必死に斬りつけるマジカルバレットと対照的に落ち着き払っていた。
「あなたは誤解しているようですね」
「は?」
「私の魔法が、安全に遠距離で戦うためのものだと思いましたか? 距離を詰めれば有利に戦えると」
「違うとでも!?」
「はい。逆ですよ。この魔法は相手の飛び道具を無力化し、距離を詰めるためのもの。あなたは勝手に、私が得意な間合いに入ってきたんです」
「クッソ……。ふざけんなよ……!」
マジカルバレットは飛び退き、アイギスと距離を取った。遠近ともに隙がなく、まるで殺せる気がしない。
「どうする、アルカロイド?」
「アイギスの懐に入り込んで化学兵器でもぶちまければ勝てるかもしれないけど……」
「おお、それだ。作ってくれ」
アイギスに致命傷を与えられる唯一といってもいい策だったが、アルカロイドはその頼みを引き受けられなかった。
「ごめん。私は、人を殺すものは作りたくないんだ」
「魔法少女全員を殺そうとしてるってのにか?」
「まあ、それはそうなんだが。致死性の毒ガスを作るのは、何か違うと思うんだ」
先程アイギスに投げつけたのは非致死性の毒ガスであった。
「……そうか。ならいい」
マジカルバレットはその話題について二度と触れなかった。
マジカルバレットは軍刀を消して九九式軽機関銃に持ち替え、アイギスに向けていたが、威嚇にもならない。アイギスもアイギスで、遠距離攻撃できる武器を持っておらず、戦いは膠着状態に陥った。
〇
その時、突如として、マジカルバレットとアイギスの間で草を掻き分ける音が鳴った。
「誰だ!?」
「誰ですか?」
両者を含め、7人全員の注意がそちらに向いた。マジカルバレットは即座に軽機関銃を音がした方に向け、引き金に指をかけた。
暗闇の中から姿を現したのは、茶色の落ち着いたドレスに身を包み、ベレー帽を被った少女であった。片眼鏡をかけ、腰などにはスチームパンク風の機械を装着している。
「初めまして。わたくしは魔法少女オーバークロックと申します。どうやら、単独で活動している魔法少女はわたくしだけのようです」
「それで? 何の用だ?」
「少々聞いていただきたい話がありまして。そう、ちょうど先程話題に上がっておりました、第二地下鉄サリン事件についてでございます」
「何か知っていることでもあるのですか?」
アイギスは興味津々に尋ねる。
「はい」
「その前に、お前の魔法は何だ?」
マジカルバレットが話を遮る。それは誰もが気になっていることだ。アイギスもマジカルバレットが問い詰めるのを止めなかった。
「わたくしの魔法は、時間を止めることです」
「は? 最強じゃねぇか。じゃあ、これは効くのか?」
マジカルバレットはおもむろに軽機関銃の引き金を引いた。銃声が響くと同時に、オーバークロックの脇腹に風穴が開いた。
「い……いった!? 何するんですか!?」
オーバークロックは傷口を押さえてうずくまってしまった。
「いやー、時間が止められるっていうなら、弾丸も止められると思って」
「急に撃たれて間に合うわけないでしょ!!」
オーバークロックは痛みを誤魔化すように叫ぶ。呼吸は荒く、冷や汗を垂らしていた。
「治します治します!」
「あー、好きにしろ」
セラフは大急ぎで駆け寄り、オーバークロックの傷口に手をかざした。
オーバークロック自身の再生能力でもいずれは治ったかもしれないが、セラフの治癒魔法で傷はすぐに塞がり、オーバークロックの顔色は劇的に良くなった。
「あ、ありがとうございます」
「私はこれくらいしかできませんから」
「さて……本題に戻りましょうか。今のでアルカロイドさんに味方する気は甚だ失せましたが、嘘を吐く気もございません」
「私に有利な証言でもしてくれるのかい?」
「左様にございます」
オーバークロックは芝居がかった口調で語り出す。
「第二地下鉄サリン事件、正式名称は新宿駅構内毒物使用多数殺人事件……。1995年の地下鉄サリン事件が可愛く見える、およそ一万人の死者を出した前代未聞のテロ事件。犯人の足取りは全く掴めない。そして、負傷者はパニックに巻き込まれた者のみで、毒物による負傷例は一つもない。実に不可思議な事件にございます」
「確かに、毒ガスで負傷者が出ないのは変だ」
「ええ。わたくしが調べた結果、警察は事件発生から12時間以内に、この事件に一切の毒物が使われていないことを確認しています」
アルカロイドは「だろうねぇ」と納得していたが、アイギスは開いた口が塞がらなかった。




