決闘
水曜日、深夜。マジカルバレットとアルカロイドは奥多摩に到着していた。
「前も言ったけど、唯一罠を警戒すべき魔法少女はアリアドネだ」
「糸を作る魔法だったか?」
「ああ。何でも切り裂く不可視の糸を作る魔法さ。問題は、この糸をどれだけ出せるのか、本人からどれほど離れたところまで操れるのか、だ。もしも無制限だったとしたら、この森に足を踏み入れた途端に死にかねない」
「マジか」
アリアドネに願望機の欠片を集める気がないから助かっているものの、回避不能の致死の一撃というのは、あまりにも強力な魔法だ。しかも罠として設置しておける可能性すらある。
「どうすんだ? んなこと言ったら、何もできねぇだろ」
「こういう時は、糸が張られていないか確かめながら近づけばいい。つまり、木を引っこ抜いてブンブン振り回しながら歩けば、基本的に大丈夫だろう」
「おお! それでいこう!」
マジカルバレットとアルカロイドは近くの木を引っこ抜き、3メートルくらいの長さに折った。そしてそれをブンブンと振り回し、全方向を警戒しながら、アイギスに言われた合流場所に向かった。
〇
「お、アイギスじゃねぇか。よう! 来てやったぞ!」
マジカルバレットは木を振り回しながら呼びかけた。
「あいつら、何やってるの?」
エリクシルはアシェンプテルに問いかけた。アシェンプテルの希望で、2人はこの決闘に立ち会うことになっている。
「何だろう……。あ、もしかして、アリアドネの糸を警戒しているのかも」
「何でも斬り裂く糸ね。あんなに遠くにも出せるのかしら。そうだとしたら……危険すぎるけど」
エリクシルはアリアドネを睨みつけた。
「アリアドネは教えてくれないだろうね」
「まあでも、何も起こってないってことは、大した長さの糸を出すことはできなさそうね」
「どうだろう……」
アリアドネの能力については、何とも評価し難い。アイギスが手を出さないように言っているだけかもしれない。
「よく来てくれましたね、マジカルバレット」
「で、何の用だ? 5人でアタシたちをなぶり殺すつもりか?」
「アシェンプテルさんとエリクシルさんは決闘の立会人です。アリアドネとセラフにも、戦ってもらうつもりはありません。あくまで私とあなた方だけで戦うことになるでしょう」
「そうかい。じゃあ早速、死んでもらおうか!!」
マジカルバレットは対戦車擲弾発射器、世界各国のゲリラ御用達のRPG-7を作り出し、肩にかついだ。
「まだ戦うと決まったわけでは――」
「問答無用!!」
40メートルほどの距離で、アイギスと彼女の腕に抱きついているアリアドネに向けて、ロケット弾が射出された。アイギスの手前にある不可視の壁に衝突し、弾頭は大爆発を起こす。主力戦車の装甲をも貫く成形炸薬弾の爆発である。
だが、アイギスとアリアドネは全くの無傷であった。アイギスを中心に、地面の草がリング状に焼け焦げている。
「チッ……。爆風も熱も通らねぇか」
「アイギスは話したいことがあるみたいだし、一旦聞いてみたらどうだい?」
「ああ、そう言えばそうだったな。何か言いたそうにしてたじゃないか! 話せ!」
「先に撃ってきておいて何を言ってるんですか……」
マジカルバレットの傍若無人ぶりに、アイギスは溜息を吐いた。
「まあいいです。しかし、私が用があるのはあなたではなく、アルカロイド、あなたの方です」
「私? 私が何かやったのかい? それとも欲しい薬でもあるのかな?」
自分が指名されるとは、アルカロイドも予想していなかったようだ。
「3年前の第二地下鉄サリン事件、当然ご存知でしょう?」
「ああ、もちろん」
「私は、その犯人があなたではないかと疑っています」
「何言ってやがる!!」
「私が魔法少女になったのは半年前くらいなんだけどね……」
マジカルバレットもアルカロイドもまともに取り合う気はなさそうだ。もちろんアイギスは問い詰める。
「そんなこと、いくらでも言えます」
「やってないことを証明するのは不可能だよ」
「ならば、私が納得するまで問い詰めます。アルカロイドを引き渡してください」
「誰がてめぇなんかに渡すもんか! やっぱりここで殺す!!」
「やはりそうなりますか」
マジカルバレットは九七式自動砲を構え、アイギスは剣を抜いた。
「やめてよ、2人とも! ちゃんと話し合ってよ!」
アシェンプテルが訴えるが、どちらも聞く耳を持たない。
「もう勝手に殺し合わせておけばいいじゃない。どうせマジカルバレットは私たちを殺す気よ?」
「それは……」
エリクシルには争いを止める動機などなく、アシェンプテルも迷っていた。アシェンプテルが動けないでいる間に、戦いが再開された。
「砲撃はどうせ効かねぇが、こいつはどうかな!!」
マジカルバレットはアルカロイドから受け取った手榴弾を投げつけた。アイギスの不可視の壁にぶつかるが、爆発することはなく、代わりに白いガスが吹き出した。
「また毒ガスの類ですか。皆さん、離れてください」
「アイギス様から離れるなんてぇ……」
「急いでください!」
アリアドネを含めた4人はその場から離れる。アイギスは一歩も動かない。
「……毒ガスでもダメかぁ。これは困ったな」
と、アルカロイドは零した。毒ガスはアイギスを中心とする球状の領域に入り込めず、不自然に押し返されていた。
「まだ奥の手がある」
「何だい?」
「飛び道具が利かねぇなら、殴り込むだけだ!!」
「ちょ、真銀!?」
マジカルバレットはアイギスに向かって突っ込んでいった。




