第9話・二週目・002号室・錬金術師の『始祖』の街
第9話・二週目・002号室・錬金術師の『始祖』の街
==========
――002号室・???――
なんだかんだで、オレたちはそれぞれの鞄と武器を持ち、ようやく路地裏から本格的な冒険を始めた。
路地裏から出た瞬間、目に飛び込んできたのはファンタジーな大通りだった。
賑やかな朝市が立ち並び、多くの人々で溢れている。
そして、見たことのないものがたくさんあった。
太陽の位置からすると、今は午前中か?
なら、この市場は朝市だろう。
「これは何だ!あれは何!?」
初雪は子供のように目を輝かせ、あちこちを駆け回っている。完全に観光客気分だ。
その姿を見たアイリスは呆れた顔で、仕方ないと肩をすくめた。
「ふん。だから平民は、もっとわたくしの余裕さを勉強しなさい。んー?あれは?……なんか見たことない武器ですわ!ねえ、その形面白いですね。どんなギミックが組み合わさっているの、教えてくださいまし!」
「おいー!お嬢ちゃん、お目が高いな!これはワシの自信作や!お前の後ろの武器には勝てないけど、一品やで!ところで嬢ちゃん、その武器は見るだけで凄いやん。あれはどんな工房の作品や?それともダンジョンで見つけたお宝か?」
「流石ドワーフ、この装備の価値が分かりますの?詳しくは教えませんが、その推測は正しいわ。これは確かに上級工房の作品ですわ」
アイリスも自慢話が止まらなくなり、感情が高ぶったままドワーフの鍛冶屋に近づいていく。
「みんなさん……元気、ね。」
「そうだな。まあ、やっと建物から解放されて外に出たんだ、仕方ない。」
「なるほど……ポカポカな太陽のせい、か。」
仕方なく、オレはファティラと共に道を邪魔しない場所で二人を待つことにした。
初雪の白髪とオッドアイはこのファンタジーの街に意外と溶け込んでいる。
一方、アイリスは目立つが、騒乱が起きるほどではない。珍しい装備を見ているだけの好奇の視線が多いようだ。
今は二人だけ良い機会なので、オレはファティラに話しかけた。
「ねえ、これは本当に大丈夫か?」
オレは腰に差した、ファティラに処理してもらった呪いの刀を示す。
今は大人しく鞘に収まっているが、手に触れても身体の制御権を奪う気配はない。
それでも不安で彼女に確認した。
「ん、残したのは無害な魂一つだけ。あれはその刀の魂?……もう暴走しない……褒めてもいい、よ」
「そっか、ファティラがそう言うなら……」
彼女が保証してくれるなら大丈夫――
「……って、刀に魂があるのか!?」
「それは……たまたまあるさ?……でも、カルマが限界まで溜まっていないから処分はできないけど……念のため引き出す?」
ファティラはそう言いながら、ゆっくりと刀に手を伸ばす。
その刀は鞘の内壁を叩くように高速で震え、ガタガタと激しい音を立てている。まるで怯えているようだ。
「まあ、それはなんか可哀想だから、しばらく放置しておこうかな」
「そっか……?」
ファティラが手を引っ込めると、刀の振動も止まった。
「ところで、ファティラは色々な世界を知ってるよね。この世界に心当たりある?もしかすると課題のヒントになるかもしれない」
「……この世界?」
彼女は首を傾げ、顎に手を当てて考える。
「よく、わからない……でも、通行人の種族を考えると、これはファンタジー世界シリーズのことだけは分かる、よ。」
それは確かに。アイリスが話しているのはドワーフの鍛冶屋、今初雪が食材に連続質問しているのは頭に狐耳の付いた獣人の商人。
そして、オレたちの目の前を通り過ぎるのは気高きエルフの弓使いパーティー。
あれは冒険者か?ならオレたちも冒険者になる必要があるかもしれない。
それと、先ほどからずっと目につく彫像。あの像はこの街でよく見かける、ローブを着て色々なガラス瓶を提げた人族の男。
前にある説明板にはこう書かれていた:「錬金術師の祖 ウィリアムズ・アドラー」。
錬金術師の祖……像の数からすると、その男はこの街にとって重要な人物に間違いない。なら、目標の「傑作」は彼の作品か?
そう考えていると、オレの髪を遊ぶファティラがいた。
彼女は何処からか木の箱に立って、オレの髪を編み上げているらしい。
「お前たちは何をしてるんですの?」
満足げな笑顔で戻ってきたアイリスは、「こいつら、また変なことをする」の表情でオレとファティラを見た。
「まぁ、ファティラだから。」
「……女神ファティラなら仕方ないわ」
すごいな、ファティラの名前を出すだけでアイリスは納得して理解した。
「ところで、アイリスは良いものを見つけましたの?」
「勿論ですわ!ほら、見なさい!」
そう言いながら、アイリスはアイテムボックスみたいな武器庫から、新品の武器を取り出した。
あれは長剣より短く、ナイフより長い剣。何より、その上にトリガーという特殊な機構が付いている。
「これは……!ロマン武器、銃剣じゃないか」
「これを知るが平民。そう、これは銃と剣の集合体、銃剣ですわ。でも、これは撃てる弾丸は一発だけ。威力は半端ない代わりに、撃発するとこの銃剣も壊れるわ。この点で譲歩して、銀貨三枚から割引で、一枚で手に入れましたわ。」
銀貨一枚の価値はまだわからないが、熱情溢れる説明でこれだけは分かった。
「アイリス、武器のことに結構詳しいんだな」
「べ、べつに――!このくらいは、そう、淑女の嗜みですわ!」
慌てて弁解する様子に、説得力は全くなかった。
「お待たせー!」
フルーツがぎっしり詰まった紙袋を抱えた初雪が、小走りで合流してきた。
「助手くん、すごい髪型になったね。面白い!」
いや、鏡がないから、ファティラはオレの髪を一体どんな風に編んだんだ!?
「はい、これ!ボクは試食済みだから味は保証するぞ!食べて食べて!」
彼女は次々とオレたちにフルーツを配っていく。
これは……緑と紫が渦を巻くような不思議な色合いの四角い果実。中身は鮮やかな黄色……なんとも個性的なフルーツだな。
「大丈夫か、これ?」
「これ……木の実、が?」
疑うのはオレだけじゃない。アイリスとファティラも困惑した顔をしている。
「――男は勇気!!」
まあ、最悪は千門ホテルで復活するから……と、オレは意を決して一口かじった。
これは……無事だったけど。
美味しいと言えば美味しいが、説明しにくい奇妙な味だった。
オレが無事だとわかると、アイリスとファティラもそれぞれフルーツを食べ始める。
初雪はオレたちを見て満足げに頷いた。
「うんうん~、それを見るとボクも疑ったけど、試食すると結構個性的な味だよ。それでは、ボクが集めた情報を共有しよう!」
そう言って、彼女は自信満々に両手を腰に当てた。
「ゴホン、まずは通貨の話から始めよう。通貨は金属により価値が区別され、換算率は100対1だ。即ち銅貨100枚で銀貨1枚と交換できる。一般的な家庭なら、1週間につき銀貨1枚もあれば十分暮らしていけるぞ~。ちなみに、このフルーツは全部で銅貨4枚だ。それと、課題の目星いものが見つかりました――」
「ちょー、待ってくださいまし!」
アイリスが突然声を上げ、初雪の説明を止めた。
「何ですの?もしかしてボク、何か間違えた?」
「お前は……ただの騒ぎじゃなくて、ちゃんと情報収集してましたの!?それに比べて、わたくしはただ遊びみたいじゃないですわ……」
アイリスは凄く落ち込んだ様子だ。
「まぁまぁ、そんなに気にしないでください。アイリスちゃんは武力担当、ボクは探偵担当で、情報収集はボクの役割だから気にしないで。それと、ボクが解明者の首席として普段やっている仕事は、普通の会話の中から必要な情報を引き出すこと。怪異を構成する噂の核心を掴むのだ。なんせ、探偵だからさ。」
「そうそう、オレとファティラも何もしてないし、アイリスはそこまで気にする必要はないよ。」
「……サボりは良い、よ。」
「そっか……ごめんなさい、初雪は続けて良いわよ。」
なんとか納得したのか、アイリスは頭を上げた。
「うん、なら続けよう!先は目星いについての話だな。みんなさんもあちこちにいる像から気付いただろう?そう、この街はこの世界で錬金術師の祖『ウィリアムズ・アドラー』の故郷らしい。それはなんと、かつて伝説的な人物が居住していた屋敷が売りに出されているのだ!」
初雪は説明しながら、両手を使って大げさなジェスチャーをする。最後に両手で「100」を示した。
「だから、目標の『傑作』はその屋敷にあるかもしれません。その金額は金貨100枚。だから、ボクたちには金策が必要だ。」
「金貨100枚!?」
「うん、その通り、100枚。それと、ここで生活するためのお金も必要だから、結構キツイかもよ。」
オレがクリアに必要な金額に驚いていると、気を取り直したアイリスが言った。
「なら、身分不明のわたくしは冒険者や傭兵で金稼ぎが必要みたいですわ。」
「うんうん、その通りだ。ボクが集めた情報によると戦争はないみたいだから、冒険者ルートかな。わくわくするよね、小説みたいに冒険者として冒険するなんて!その時は任せるわよ、アイリスちゃん!」
「ちゃんを付けないわよ!……戦いは任せなさい。魔物討伐も慣れてるわ。」
「オレは戦闘経験はないけど、全力で刀の使い方を勉強する。ファティラはどう?」
最後、オレたち全員はファティラの方を見た。
「いいよ~、わたしなら……そうね、魔力は奪われた力に含めないから、力仕事はできないけど、魔法なら何とかできる、よ。」
「うんうん、全員の方針が決まったなら、冒険者ギルドを探しましょう!」
何をするに決めたから、オレたち全員はこの大通りに沿って進み始めた。




