第10話・二週目・002号室・ギルド
第10話・二週目・002号室・ギルド
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――002号室・???・冒険者ギルド――
「おーー!これは冒険者ギルドが、本物だ!」
相変わらず大騒ぎの初雪は、全身で喜びを表現している。
「おい平民、何をするわ!?田舎者みたいに入り口で騒がないわ。ほら、早く入りなさいわ。」
あ、アイリスが怒った。まあ、今回は初雪が悪いから、オレは何も言われない。
でも、入る前に背中に背負っているファティラを先に下ろさないと。
入口から中に入ると、それは想像通りの木造の建物だった。
「おい、おい~!冒険者ギルドは何時からガキの遊び場に――」
併設の酒場で朝から酒を飲む野蛮そうな冒険者が、意地の悪い笑顔で絡んできたが……
「フンッ……」
その前にアイリスが睨みつけるだけで、浮遊する武器の槍・剣・刀がまるで見えない武者が持つように彼らの喉元に突きつけられ、口を閉ざした。
「って、わたくしたちに用があるが?」
アイリスの質問に、男たちは一斉に首をぶんぶんと振った。
「よろしい、さっさとあっちに帰りなさいわ。」
アイリスの武器が彼女の背中に戻ると、その冒険者たちは素早い速度でギルドから逃げ出した。
その逃げる速度、流石に冒険者だ。
まあ、オレたちは……仲間がみんな小柄なちっちゃい子ばかりだから、ナメられて絡まれるのは予想通りだよ。
「アイリス、すごいな……流石は歴戦の傭兵王女」
オレは無意識にそう漏らしたが、アイリスは結構満足そうに生意気なドヤ顔になった。
「それは当たり前わ!傭兵はナメられたらお終いですわ。特にわたくしみたいな淑女なら更に厳しいから、さっさと力の差をしっかり教えないと面倒なことになりますわ。」
「なるほど、勉強になりました。」
「えへん――!あなたたちは、これでやっとわたくしの偉大さを知れば良いわ。」
「はいはい、アイリスがすごいことはオレは既に知ってますよ。ほら、初雪と、彼女に引っ張られたファティラはもう受付の前にいるよ。早く合流しよう」
「え、いつの間に!?」
まあ、これはあれだ。
アイリスがまだ自慢話をしている間に、初雪は手に握ったファティラを引っ張って「シュバババー」と受付へ疾走し、連れられたファティラは「あ~れ~~~」という羽虫のような小さな叫びを上げながら同行していた。
「おいー、こっちこっちー!」
「ほら、初雪も呼んでるから、行こうか。」
「なんか、ちょっとだけ複雑な気持ちですわ……」
彼女はそう言いながらも、大人しく受付へ向かった。
*
「錬金術師の始祖の街、フラムの冒険者ギルドへようこそ!私はこのギルドの受付嬢、リリアンと申します~」
到着すると、栗色の髪の受付嬢はオレとアイリスの顔を見て、初雪に向かって話しかけた。
「お二人を加えて、四人のパーティーとして登録するのはよろしいでしょうか、ハツユキさん?」
「はい、その通りですのだ!ボクたち全部で四人です!」
すると、受付嬢は四人分の資料を差し出した。
「では、こちらに記入してください。まあ、最低限は名前とクラスで充分ですから、気軽に書いてください。もし文字が書けないなら、私が代行しますよ。」
その書類を持って、オレたちは顔を見合わせた。
どれどれ……やっぱりここの文字は読めないな。
「初雪は――」
「うん、ボクも読めないのだ」
「わたくしも読めないわ」
まあ、知らない世界だから当然か。
「ん……名前とクラスだけ書ければ良い、の?」
だが、一人だけ別の答えが返ってきた。
「え、ファティラって、ここの文字が書けるの!?」
「うん、何となく……わたしは出来るっ子だから、ね。……ふんふん~、わたしを褒めてなでなでするの良い、よ」
そう言いながら、ファティラは『どっやー』と少し生意気な半目スマイルで、両手を腰に当てて頭を差し出した。
今回は彼女がすごいから、その頭を優しくなでなでして褒めてあげた。
「相変わらず雑だな、ファティラはすごいすごい。ならオレたちの資料も書けるかな?」
「あ、ボクも~」
「むむむ、ファティラのことは深く考えるな、わたくし……わたくしのも頼むわ。」
「うん、いいよ~……任せて、の」
この冒険者登録の書類はファティラのおかげで何となく完成し、リリアンに渡した。
「書き終わりましたか?それでは、こちらの書類を少し確認させていただきますね。えっと、ハツユキ・サイオンジさんのクラスは格闘家ですよね。」
「はい、その通りですのだ!拳とこれを使いますのだ!」
初雪は元気いっぱいに応えながら、バールを持った手を高く上げた。
その熱情にリリアンも少し驚いた様子だ。
「そ、それは元気ですね……熱意があるのは何よりです。次は、ジョシュ?珍しいお名前ですね、クラスは剣士ですが。」
「はい、オレはこの剣を使います」
オレは呪いの刀を掲げた。
刀も少し振動して、「自分もいる」と応えるように感じられた。
「これは珍しい形の剣ですね、わかりました。それと、次はアイリス・ラランドさんですね。クラスは魔法戦士ですね。」
「はい、そう理解は正しいわ。」
うわ!?アイリスがこんなに友好的に話せる!?
オレが思ったことが顔に出ていたらしく、彼女から強烈な踏みつけを食らった。
「痛い!?」
この痛みにオレが身をよじると、その隙を逃さず耳を引っ張られ、耳元でこう囁かれた。
「この顔を見れば分かりますわ。たとえわたくしが王族でも、このくらいは出来るわ。」
オレの異常を見逃さなかったリリアンもびっくりした。
「その、どうしたのですか!?」
「いいえ、何でもありませんわ。ただうちの助手の失礼にお仕置きしただけ、気にしないでくださいまし。次をお願いしますわ。」
アイリスは圧力たっぷりの微笑みで誤魔化した。
「ひぃ~!?わ、わかりました……これで最後はファティラさん、クラスは……魔法使いとヒーラー?それは珍しいですね、攻撃系の属性魔法と防御系の治癒魔法の両方を使えるなんてすごいです。その子供のようなお若い姿は、もしかして魔法学園の卒業生ですか!」
「ふんふん~、わたしはすごい、よ……でも、これは自学、の~」
「そんな……もしかして長命の種族ですか?」
「それは……内緒、よ~……年齢は、女の子の秘密、の~」
魔法学園ってなんだ?
まあ、オレたちはここに来たばかりだから、彼女のノリに合わせた答えは噓ではないのだろう。
「えっと、この資料で大丈夫です。正式に登録するのは新人試練の後になります。あなた達もご存知でしょうか、冒険者のお仕事の依頼は大抵戦いが必要ですから、ある程度の戦闘力も必要です。一番近い新人試練は……皆さん運がいいですね、ちょうど明日試練があるんですよ。申し込みますか?」
「はい、ボクたちは登録する~!よろしくお願いいたします!」
「うん。なら明日の朝ここに来てください。私、その先の騒動は見ましたよ、あなた達なら無事に通れるでしょう。」
「え、それを見るだけで止められないんですか!?」
「それはですね、あまりにも突然のことで止められなかったからです。それと、あの連中は朝っぱらから酒を飲んでいるような、出世の見込みもない底辺冒険者さ。あの程度のゴロツキに怯えて逃げ出すくらいなら、冒険者なんてやめた方がいい。さもないと魔物やダンジョンで簡単に死ぬことになります。他の仕事を探した方が身のためですよ。」
うわ、いきなり厳しい言葉が先ほどまで優しかったリリアンお姉さんのお口から飛び出した!?
「うん、わたくしも同意見だわ。あの程度の雑魚は、戦場において肉壁の役にすら立たないわ。」
うちのアイリスも相変わらず毒舌を吐いて安心した。
あ、アイリスが睨んでいるから、そう考えるのは辞めた方が良い。
その時、初雪は手を上げてリリアンに質問した。
「明日ここに来ますでわかりました!それと、ボクたちは外から来た人だから、ここに良い宿屋がありますか?」
「宿屋が……そうですね、ここから大通りを通って、二つ目の路地を右に曲がると『小鳥亭』が見えますよ。あそこはこの街でも評判の良い宿で、食事も出ますからおすすめですね。」
「なるほど!情報提供ありがとうのだ!みんなさん、行こうのだ~!」
「あ、初雪!待ってください!ありがとう、リリアンさん、先に行きます!ほら、ファティラ行くから、オレの背中に乗る?」
「疲れたから……乗る、の~」
ファティラは鈍い速度でオレの背中に乗ったので、オレは初雪に追いついた。
「騒がしいわ。もっとわたくしみたい、余裕を持ってくださいまし。」
アイリスもゆっくりとギルドから出た。
「なんか、性格が強烈なパーティーだな。」
残された受付嬢のリリアンは、独り言を呟いた。
*
――002号室・錬金術師の始祖の街、フラム・小鳥亭――
「頼もうのだ~!四人の部屋があるか?」
『ポン!』と共に、初雪は小鳥亭の扉を勢いよく開けた。
物腰の柔らかい少女が、にこやかに出迎えてくれた。
「あら、いらっしゃいませ!旅行者のお客様ですか?」
「はい、冒険者ギルドのリリアンさんにおすすめされたのだ!」
「あら、リリアンさんからの紹介ですか?四人部屋ならありますよ。一ヶ月なら本来は銀貨16枚ですが、リリアンさんの紹介なら15枚でいいですか?」
「それじゃあ、それでお願いしますのだ!」
初雪が早速財布を出そうとした時、アイリスが口を挟んだ。
「ちょっと待ってくださいまし!わたくしは助手と同じ部屋に過ごせますの?」
「うん?それは何が問題がある?ボクたちの目的は金稼ぎだよ、無駄な出費はダメなのだ?」
「わたしはかまわない、よ」
「その、もしアイリスが嫌いなら、オレは別の部屋でも大丈夫だけど……アイリスはどう思う?」
オレたちはアイリスの決定を待った。
「ぐぬぬ~……女将さん、3人部屋と1人部屋、両方合わせて幾らになりますの?」
「そうですね、銀貨20枚になります。」
少し考えて、アイリスも諦めた様子だった。
「仕方ない、四人部屋で良いわ。助手は変なことを考えないでくださいまし。」
「そんなことはしないよ~、アイリスは怖いし」
「他人が怖いと言えないわ!」
「痛い!」
アイリスは跳び上がって、冗談を言い出せたのオレの頭を軽く叩き込んだ。
部屋が決まったので、初雪は銀貨15枚を支払い、女将から鍵を受け取った。二階の四人部屋へ向かう。
「それじゃあ、開けるのだ~」
初雪が鍵を使って部屋を開けた。
「暗い……あ、これは触れば良い、の?あ、魔力が少し吸い取られた?」
「うおおおおおー!なにこれ、本物の魔道具!?」
ファティラが壁に埋め込まれた石に手を触れると、ランプのような明かりが灯り、部屋全体を柔らかく照らし出した。
騒がしい初雪を無視して、オレたちは室内を観察した。
そこには四つのベッドが並び、想像以上に綺麗で清潔な部屋だった。窓が二つあり、その傍らにはバスルームへと続く扉が佇んでいる。
バスルームも熱いお湯が出る魔道具が設置されているらしい。
「なるほど、それは魔道具が、でも多いわ。流石に錬金術師の始祖の街だもの、このような宿屋にも配置されているわね。」
アイリスもこの環境に文句はないようだ。
ここがオレたちが002号室の課題を完了するまでの拠点になる。
その後、オレたちは小鳥亭で熱々のパンとスープの夕食を食べ、順番にバスルームでお風呂に入った。
お風呂の熱水が出る魔道具は、オレと初雪も魔力があると判明した。
最後はそれぞれのベッドを選び、明日の新人試練のために早めに眠りについた。
「明日の試練にわくわくするのだ!」
「うん、共に頑張ろう。」
「うるさいわ!さっさと寝なさい!」
「スヤスヤ……」
うん、アイリスは正しいから、話は止めて寝よう。




