第8話・二週目・002号室・路地裏で準備を整え
第8話・二週目・002号室・路地裏で準備を整え
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――002号室・???――
「異世界が……アイリスの世界かな?」
その言葉を聞いた瞬間、最初に浮かんだのは仲間の中にいる異世界人・アイリスの姿だった。
「……なんか違うわ。でも、このような狭い路地裏では何も分かりませんわ。」
「なるほど、ならこの後で判明できればいい。その、確認する前にしばらく貴族の身分は隠したほうがいいかも。だとえアイリスは本物のお姫様だけど、もしここが違う世界なら、貴族を名乗る詐欺師と誤解される可能性もある。」
「そうね、その言葉に一理はあるわ。助手の提案に従いましょう。ほら、わたくしは着替えるから、さっさと後ろを向けなさい。」
「はいはい、畏まりましたわ」
「わたくしを真似すんなわ!」
命が惜しいので、この場は素直に従う。
オレは門の方を向いて、アイリスの着替えが終わるのを待った。
その時、激しい感情を平伏させた初雪がオレの側に寄ってきた。
「なぁ、気付いたのだ?アイリスを除いてボクたちの服装が変わった。もしかするとこの世界に溶け込みやすい服になったみたいだ。」
初雪の言う通り、彼女の探偵服は村娘のような素朴な装束に変わり、アイリスの着替えを手伝っていたファティラの布面積の少ない奇妙な服装も、何かローブや修道服のようなものに。
勿論オレもただの村人Aに見える。
この布は粗悪そうに見えて意外と頑丈だ。何の素材だろう?
「それと、あそこに門の近くの地面に置いてあった四つの鞄があるよ。もしかして補給品じゃないかな?開ける欲望が溢れてワクワクするじゃないか?」
「なんだ、悪魔の囁きみたいにオレの耳元でこそこそ話すなんて。興味があるなら自分で開けてみろよ?」
「それは良いね、でも二人で開けるのも良いよ?さっさぁ、開けよう!」
「わかった、わかった。押し付けないでくれよ。」
初雪の熱意に負けて、オレたちはその鞄の一つを開けてみた。
「これは、旅行用の荷物みたいだな。」
「そうだな。それと、この小さい袋に入った丸い金属……金貨、銀貨、銅貨かな?価値はわからないけど、課題を進めるための起動資金かもしれない。」
起動資金ねえ。この客室に長時間滞在するなら、金策も考えないといけないか。
「なあ、探偵さんよ」
「なんだー?」
「この課題、『埋もれた傑作を再び日の目を見せる』についてどう思う?オレが考えると、いくつか問題が出てきた。傑作とは何なのか?どこに埋もれているのか?それと、埋もれている自体が比喩の可能性もある。」
オレが自分の考察を話すと、初雪は嬉しそうに指を一本立てた。
「その思考方向は正しいけど、一つポイントを見落としていたから80点だ。課題後半の『日の目を見せる』も同じく重要だと思う。あれは単純に『傑作』を日の光に当てるなら良かったですが。もし人が多い場所で『見てみて、ボクはこれを見つけた!』とか、発表会を開催する必要があれば、人脈や勢力を作る必要もある。これは今まで千門ホテルが出した中で一番困難な課題かもしれないぞ?」
なるほど、でもここまではあくまで推測だけ。
この路地裏から出られないと実際のところはわからない。
だから、オレは後ろで着替えを終えたアイリスの方に注意を向けた。
「お……おう、少し意外ですわ。女神ファティラって、髪の編み込みが結構上手だわ」
「ふふー……わたしはやればできるっ子だから……」
「なんか分からないわ……できたわ。そこの助手、こっちを向いても平気よ」
「――だそうです。やっと、今回の冒険が始まるよ!」
その呼び声でオレはやっと振り返り、初雪と共に地面に放置された鞄を持ち上げた。
「ちゃんちゃん……わたしの自信作だ、よ」
そこにいたのは相変わらず眠そうだけど、自慢げなファティラと――
「何よ、何か言いなさいよ。わたくしの傭兵装備に不満が?人の顔を見て黙り込むなんて失礼ですわ。」
「いや、それは――」
「ボクも、こんなものを見ると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になるのも当たり前じゃないか――」
アイリスの姿は本来の赤いワンピースの上に、白く塗装された金属の胸鎧を重ね、その中央に青白い光を放つコアのような円が輝いていた。両足は膝まで覆う足鎧、両手にも手袋のような鎧を装備している。
腰の両脇には同じく風格ある金属板が浮遊し、傷跡だらけの様子からして、あれは盾だろうか?
王冠は収納され、蜂蜜色の長い金髪はツインテールに結ばれていた。
彼女の後ろには剣、銃、槍、刀、杖――五つの武器が円形の軌跡を描いて浮遊している。
その姿は完全に――
「――完全にSFの戦闘装備じゃないか!?え、もしかしてアイリスの世界はオレが想像してた剣と魔法のファンタジー世界じゃなくて、未来の世界!?何それ、カッコいい!!」
オレは混乱して声を上げた。いや、誰でもこうなるだろう。
初雪も残像を生み出しそうな速度でアイリスの周りをぐるぐる観察している。
「はいー?お前は何を言ってるの、さっぱり理解できないわ。SF?確かに少しゴージャスで、わたくしみたいな魔力保有者が使えないものもあるけど、これはどう見ても魔法戦士専用の魔動鎧じゃない?」
「え、アイリスの世界でこれは普通の装備なの!?」
「……もしかしてわたくしを原始人と誤解してますの?わたくしの世界は無数の国を巻き込んだ千年戦争の最中よ。別は知らないけど、武器だけは充分に開発、進化してるわ。この程度の装備がなければ、戦場で空からあの陰湿な魔法使い連中の遠距離狙撃で蒸発されるわ……思い出すだけでイライラするわ。あの臆病者たちはいつも手に届かない空から攻撃してくる……戦士なら地面に降りて真剣勝負するべきよ!まあ、全部わたくしの銃で撃ち落としてるけど。」
うん、なんかごめんなさい。
てっきり中世ファンタジーだと思ってた。
「まあ、いいわ。わたくし一人だけ武装するのは不自然だから、武器庫から提供してあげる。皆も一つ二つ、好きなものを装備しなさい。」
そう言うと、アイリスは手を伸ばし、狭い路地裏に武器の山を作り出した。
「これは全部戦場で漁った……貰った戦利品のコレクションよ。好きなものを選んでみなさい。」
先ほど漁ったって言ったよな……それは気にしないほうが良さそうだ。
でも、武器は……たとえ記憶がなくても、オレに戦闘経験がないことは分かる。
初雪は杖のようなものを選んだ……違った、あれはバールだ。
どうしてメンテナンス工具が武器の山にあるんだ?
あの世界にこんな武器一本で戦場に駆け出す狂人がいるのか?
でも、聖剣を選んだのは良い趣味だな……なぜ昔のオレはあのようなものを聖剣と呼ぶのか、本当に謎だ。
ファティラは……無気力すぎて金属の武器は持ち上げられない。最後は木製の杖を選んだ。
最後に残されたのはオレ。
ならどれを選ぶか……ハンマーは重くて無理、杖は魔法が使えないから除外、弓と銃は矢や弾丸が持てない、やっぱり定番の剣や槍……これは――
何か声のようなものが聞こえた気がして、武器の山から鞘に納められた刀を引き抜いた。
「ねえ、アイリス。この刀は?」
「これは……なんだろう?でも一つ分かるのは、わたくしが負けた相手から貰った武器ではないわ。なら、これはどこの戦場で拾ったコレクションだろうか。」
「なるほど、ならこれでいい――」
手を伸ばして刀を握ると、妙に重い。刃の状態を確認するため鞘から抜き――
――オレは迷いなく居合いの構えを取り、一番近くにいた初雪の、簡単に折れそうな白い首に向かって斬り下ろした。
「えー……『キュア』~」
ファティラの無気力な声と共に、振り下ろされた杖が軽い衝撃をオレの頭に炸裂させた。
鈍い銀光の斬撃は初雪の頭上を通り過ぎ、石の壁に深く突き刺さった。
オレは何をしたのか気づき、刀が手のひらから地面に落ちた……彼女がちびっこで良かった。本当に。
「お前!狂ったのか!!」
「え、えぃぃぃっ――!?何があった!?助手くんってそんなにボクが嫌いなの!?」
仲間に斬りかかってアイリスの地雷を踏み、大怒りされた。
初雪も知る限り最大級の感情波動を見せ、プルプルと震えながら不安そうにこちらを見つめている。
「ち、違う!オレはそんなつもりじゃなかった!」
それを引き起こした真犯人であるオレは、何が起こったのか全く分からなかった。
「ふふー……それを見通すのは、見た目は可憐な子供、実は名探偵女神ファティラであり……」
大混乱に陥ったオレたちに、ファティラは珍しくノリノリで前に出た。
「ファティラ……!オレは何が起こったのか分かるか!?」
「……無論だ、助手くん……今回の事件の真犯人は、それだ」
彼女の指が示すのは、地面に落ちた刀。
その刃に触れると、光玉のような魂が次々と引き出され――
「あの武器に……無数に救いようのない罪人の魂が宿っている……処分」
そして、魂を次々と引き出して、おやつを食べるようにぱくぱく……いやー、それは多すぎじゃないか?簡単に百を超えた。
「そっか、あれは呪いの武器か!」
アイリスも何かに気づいたように納得し、オレへの敵意が解けた。
「それはわたくしの世界の戦場で時々出てくる戦略兵器ですわ。そのような武器を死刑囚に持たせて戦場へ投入する無差別兵器……わたくしは一体どこでそれをコレクションしたのか……」
「ねえ、助手くん……ボクを嫌いじゃない?」
「当たり前じゃないか!」
オレは迷子のような脆い表情の初雪を真正面から抱き締めた。
「オレこそキミに攻撃して、本当にごめんなさい……許してもらえるとは思っていない。」
「いいの、ボクは許してあげる」
「探偵さん……!」
「助手くん……!」
「これで罪深き魂の処分完了……もう、満腹した……」
お互い抱き合ったオレと初雪、満腹の幸せに浸りながら壁に背中を預けて腰を下ろすファティラ。
「これは一体何の茶番ですの……地獄が」
武器を回収しながら、呆れたアイリスがツッコミを入れた。




