第6話・二週目、001号室、『時間』の謎
第6話・二週目、001号室、『時間』の謎
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――001号室――
「時間が……怪しい!?」
オレは改めて壁掛け時計を確認し、その異常を発見した。
……でも、先ほどまではこんなことなかったはずだ。
何が変わった?きっと何らかの条件で引き起こされた現象に違いない。未知の怪異とはいえ、噂に基づく存在なら一定の法則があるはず。
「何か……ヒント、手がかりが……」
ファティラは相変わらずベッドでぐっすり眠っている。この段階で彼女に有用な助けを期待するのは無理そうだ。
一方、初雪とアイリスはまだバスルームのの中に――
『うわわっ!?水が熱いですわ!?火傷しちゃいますわよ!?』
『大げさだなー、アイリスちゃん。少し熱いけど、この温度設定はバッチリだと思うのだ……ほら、ボクの指も入れてみる?全然耐えられる穏やかな温度だぞ?』
『ぐぬぬ、それはお前の感覚でしょう!』
『まぁまぁ、怒らないでよ~』
『変なところ触らないで!わたくしの胸を揉まないでよ!!』
『アイリスの肌、いいね。服の下はムキムキかと推理してたけど、触った感覚は意外と柔らかい~。戦場に出てるように見えないよ、もみもみ』
『王族だから、戦場から帰還後はすぐに回復魔法とポーションで跡も残さず治すわ……こら!揉まないでと言ったでしょう!!』
『痛っ、ボクの賢い頭を殴った!?ボクとほぼ同じ体型なのにその力はどこから出るのだ!?』
『わたくしは王族だから、平民より強いのは当然ですわ!ほら、痛いなら大人しくわたくしを洗いなさい!』
『自分で洗わないの?』
『戦場の簡易清潔はともかく、王族のお風呂は普段メイドの仕事ですわ』
『仕方ない。いい機会だから、あちこち触って異世界人の身体情報を隅々まで収集するのだ!』
『なんか悪い予感しかしないわ……もしかして、助手に任せたほうが安全ですわ……!?』
――きゃあきゃあという騒がしい声がドア越しに聞こえてくる。まだ出るのは先のようだ。
なら、オレにできるのは、助手として探偵の分析に役立つ情報を集めること。
「でも、記憶を失ったオレに上手くできるかな……」
手順自体は変わらないはずだ。我流でやってみよう。
「怪異」や「異変」は噂を体現した存在。理由を考えても無駄かもしれない。
なら、最初のステップは「変化を比較する」ことだ。
前後を比べてみろ。その変化の中に手がかり、あるいは条件が隠されているはず。
「変化が……特に見当たらないな」
この客室はあまりに普通すぎて、変数も少ない。
まずは排除すべきところから。誰も近づいていない、窓際のテーブル。
うん、テーブルの上の物は位置が変わっていない。課題が書かれたメモもそのまま。小型冷蔵庫の飲み物も静かに立っている。
窓の外は相変わらず濃い霧で真っ白、何も変化なし。
ベッド上のファティラは眠っているだけで、特に変わった様子はない。
周囲をぐるりと見渡したが、怪しいところは見当たらない。
一応、バスルームの中も確認すべきか……。
そう考えたオレはドアをノックした。中から初雪の軽やかな声が返ってくる。
『――だれ?参加したいのファティラ?それとも助手くん?』
「オレだ、頼みがある」
『助手くんのえっち、でも入っていいよー』
『良くないわよ!?開けないで、開けたら殺しますわよ!?』
「しないしない!アイリスも落ち着いて。オレはただ頼みがあって……お風呂場の中も少し調べたいんだ。何か変化がないか」
『……外で何か異常事態が起きたの?』
「はい。時間の流れが遅くなってる」
『え、ここの課題は確か時間経過……これは大事ですわよ!?』
『分かった。少しここで調査してから外に合流する』
流石は自称名探偵、こちらの意図をすぐに理解してくれた
。
でも、もしバスルームにも異常がなければ――
「なら、異変が起きた条件は、オレたちが……?」
あの時のことを思い返す……課題を見つけた頃も、話し合っていた時も、時の流れは普通だったはず。
「何が……きっかけだったんだ?」
オレはベッドに腰を下ろして一人考え込む。その時、何か柔らかいものが後ろから当たった。
「……ファティラ?目覚めたのか?」
「うん……足音がうるさいから」
「なんか、ごめんな」
「別にいいよ……何が問題~?教えてー」
「そうだな、見せたほうが早いか」
オレはファティラをおんぶして時計の前に移動した。
「ん……確かに遅い……一秒が五秒くらい?」
「え、でも、え~!?」
オレが異常を発見した時は、もっと止まりかけに近かったはずなのに。
「想像と……違う?」
「はい、オレが見た時はそれより遥かに遅かったはずだ」
「まあ~……いいじゃないか、問題ないなら」
『ドン!』という音と共にバスルームの扉が勢いよく開き、湯気でポカポカに温まった初雪とアイリスが姿を現した。
「ボク、登場ー!!お風呂場に異常なしだ!」
……どうして二人ともタオル一枚だけなんだ?
「ねえ、初雪。どうしてそんな格好なんだ?」
「ちょうどいい機会だったから、ついでに洗濯しちゃった!今は服を干して乾かしてる最中だよ。だからバスルームに用意されたタオルを借りましのだ。」
「ううう……どうしてわたくしまでこんな格好に……そこの助手、見ないで!」
「はい、わかりました」
初雪は堂々と胸を張っているが、アイリスは耳まで真っ赤になってオレに鋭い視線を飛ばしてきた。オレは慌てて顔を背けた。
「って、異常って何があったの?」
「異常はあったんだけど、今は――」
オレの視線に気づいた二人が壁掛け時計を見ると、針は正常に時を刻んでいる。
「何もおかしくないですわ!もしかして見間違いですの?」
「噓はついてないんだけど……」
どうして急に正常に戻ったんだ?アイリスから疑いの視線が痛い。
「うん……初雪とアイリスが来てから……正常に戻った?」
オレの背中からファティラの眠そうな声が聞こえ、オレの錯覚じゃないと証明されて少し安心した。
「なるほど……助手くんは情報収集してくれたんだね。教えてくれますか?」
「はい。客室の中は特に異常なし。だから、オレは条件が『オレたち自身』にあると推測してる」
「ほっほう~、ボクたちが揃ったら異常が消えた……少し目処が立ってきたね。みんなさん、一歩後ろに下がって!」
オレたちは指示に従って一歩下がったが、時計に変化はない。
「ふんふん、じゃあこうするのは?」
初雪の指示で、オレとファティラ、アイリスはそれぞれ部屋の二つの角に分かれて立った。
時計の前に残った初雪が大声で結果を伝えた。
「みんなさん、ボクは分かったのだ~!この謎の答え、解けましたよ!」
「「本当!」」
その言葉にオレたちは初雪の元へ集まった。
まあ、この試行でオレも大体予想がついていた。
「これは素人の推測ですけど、『オレたちの距離』がその条件……この結論で正しいだろ、探偵?」
「ふんふん、大正解!今回は特に難しい謎じゃなかったけど、流石はボクの助手くんだな。」
初雪は嬉しそうにオレに向かってサムズアップをした。
「ボクたちが一定距離以上に離れると時間が遅くなるみたい。だから、これからは近くにいるのが良さそうだ!」
そう言いながら、バスタオル一枚の彼女は前へ飛び出してオレを抱きついてきた、その柔らかい頰がオレの胸に擦れる。
「うわっ!?いきなり!?」
「ほら、アイリスちゃんも来ない?」
しかしアイリスは冷たい視線でオレたちを睨んでいる。
「そこまで近くになる必要はないですわ……ほら、わたくしはあそこに立っていただけで時間は遅くならなかったでしょう?」
そのツッコミに、初雪は笑いながら手を離した。
「ふふ、バレたか~。時間経過を待つなら、ベッドで仲良く寝よう!」
「賛成……両手で賛成~、仲良し寝よう~」
「これは……確かにベッド上なら距離を保てるけど……オレは男だから、誰の隣がいいだろう」
オレは周りの顔を見回した。
アイリスは絶対ダメ、彼女も同意しないだろう。
初雪は……まあ、気にしないタイプっぽい。
なら一番安全なのはファティラか。
「なあ、ファティラさん。オレはお前の隣で寝てもいいか?」
「別にいいよ……かかってこい」
「来ないよ。これで時間切れまで寝よう……って、何だ、お前たち?」
オレ的には良い案だと思ったが、初雪とアイリスはそれぞれ不満げな顔をしていた。
「はあ、ボクの魅力がファティラさんに負けたか。残念……。いっそ、ボクとファティラに挟まれて寝よう?」
「この結果に文句はないけど……なんかずっと眠ってる女神に負けたみたいでムカつきますわ」
気分が悪くなる前に話題を切り替えよう。
「ほら、ベッドで寝よう!あ、もしオレが寝ぼけて動いたら両手縛っても大丈夫だよ」
「わたしは……このままで大丈夫ですよ~」
「信頼するから、ボクも大丈夫だ」
「……まあ、そいつはわたくしに勝てないから、こんな面倒なことはしないでしょう」
みんなの信頼の言葉に、なんだか胸が温かくなった。
「それじゃー、寝よう」
こうしてオレたちは仲良く巨大ベッドに横になった。
オレ、ファティラ、初雪、アイリスの順で川のように並ぶ。
一応時計を確認すると、正常な速度で時を刻んでいる。
「それじゃ、おやすみなさい」
「お休み」
「……すっやー」
「お休みですわ」
こうしてオレたちはこの客室で目を閉じ、共に眠りについた……ファティラはすでに寝ているけど。
怪異に巻き込まれ、一度死に、異常事態に緊張し続けた一連の出来事で、オレの想像以上に疲労が溜まっていたらしい。
一気に意識が落ち、深い眠りについた。




