第22話・二週目・002号室・襲撃
第22話・二週目・002号室・襲撃
更新が遅くてごめんなさい。とあるゲームにCanto Xに夢中し過ぎて、うっかり時間を忘れた。
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――002号室・錬金術師の始祖の街、フラム・古き屋敷の庭――
「眩しいの……」
長年埋められていた地下から脱出したティは、眩しそうに小さな手で太陽の光を遮った。
これでティは無事に太陽の下へとたどり着いたわけだが……今回の課題はこれで完了したのだろうか?
千門ホテルのルールと課題って、相変わらず何のヒントも無いな。帰る門の鍵で確認しないとわからない。
でも、今はそれより急いだ事があるから、その確認は暫く後回しにしよう。
「この扉はどうやって開けるかな、入る時と同じのだ?」
「ん。鍵を上げての。」
「えっと、こうのだ?」
初雪とティがこの屋敷の鍵を掲げると、金属が擦れ合ういやな音を伴いながら、重厚な扉がゆっくりと開き始める。
扉の向こうにはネルくんとソフィア姉弟、聖職者リーシャとケモミミ戦士のキャルロ、というお馴染みのパーティー四人だった。
その表情は随分焦っていたが、助けが見つかった表情に変わった。
「ごめんなさい、緊急事態から!詳しい説明は中に入ってからでいいから!」
「あ、うん……? とりあえず先に入ってくれ?」
アイリスは何も言わないから、オレは彼らの入りを許可する。
「本当に助かった!あと、誰が気付ける前に早く扉を閉じてください!」
それを言うと、彼らは急いで扉を越えて、オレの目線と確認したティの鍵に何かが作動して、扉は金属摩擦と鈍い音と共に、もう一度閉じ込めた。
「はわわ~、私が生きてきてこんなに必死に走ったのは何年ぶりだろう……」
「はぁ、はぁ、はぁ……わたくしは、体力が無いの魔法使いなのに、はぁ、……」
なんか朝に見たばかりだけど、一体何があったのだろう。
あの四人のうち、自力で立っているのはキャルロだけで、ネル、ソフィア、リーシャの三人はその場に崩れ落ちるようにへたり込んでいる。
なのに、彼らに話しかけたのは、相変わらず空気を読めない初雪だった。
「ねえねえ、一体何があったのさ、その『緊急事態』ってやつはさ~」
「坊っちゃん、もう喋れるか? 無理なら私が代わりに説明するが」
「はぁ、はぁ……ああ、大丈夫だキャルロ。僕はいつでもお姉様とキャルロに甘えないから。」
キャルロの気遣いを断り、ネルは生まれ落ちたばかりの小鹿のように頼りない足取りでふらふらと立ち上がった。
「お久しぶり、には言えないけど、僕を信じてくれてありがとう……なんか、見たこと無いお方が増えた?いやー、その顔は!?そのお方はまさか……!?」
ネルの視線がティを捉えた瞬間、彼の言葉がピタリと途切れた。
ティは自分の人差し指で自身の顔先を指し示し、ぱちぱちと目を瞬かせながら首を傾げる、ゆっくりと話し始めた。
「ティのことですの?ティの名前はティ・アドラー、偉大なるパパ第二の娘ですの。何がおかしくですの?」
ティの自己紹介を聞くと、ネルくんははっと息を呑んだ。
「やっぱり……!あの画と同じ顔だ!しかも、僕以外の『アドラー』って、偉大なるご先祖様の娘はまだ生きているのですか!ぼぼ、僕はネル・フラム・アドラー、です!ほら、お姉様は!いまは地面に伏せた場合じゃないですよ、本物の伝説人物の前ですよ!」
「うわ……!?引っ張らないよ、ネルくん。わたくしは魔女だけど、こんなに走れて立てるはまだ無理だってー!」
「でも、これは失礼じゃないですか、先祖様の前にー」
なんだか、予想外の変な混乱が巻き起こっている。
初雪は面白そうにその様子を眺め。
アイリスは小さな溜息をして、自分の額に手を当てて天を仰ぐ。まぁ、彼女の基準からすれば、貴族がこんな醜態を晒すのは大減点対象なのだろう。
ファティラは……オレが背負っているから表情は見えないが、また首筋をぺろりと舐められたような気がする。あの悪い癖はどうやっても直らないらしい。
そして、その混乱の中心であるティは無辜な瞳で、どこかきょとんとした顔のままこちらを見つめてきた。
「ティが何か悪いことでもしましたの?」
「まぁ、それは悪いには言えないけど……とりあえず、彼を冷静にしてね」
「うん、分かったの。あそこ錬金術師らしいの人。」
ティの話し掛けに、ネルくんはバネのように、その場でぴょんと跳び上がった。
「はい、なんでしょうか、ティ様!」
「その、ティは別にあなたの先祖様じゃないの。パパの子供は娘二人だけだし、お互いに子供は作っていないのよ?」
「え、えーーー!?」
その衝撃の事実を聞き、ネルは思わずこの古き屋敷の庭に響き渡るような絶叫を上げた。
自分の言葉で事態が完全に改善していないティはおろおろと周囲を見渡し、最後にはオレにしがみついて、その顔をオレの腹部にうずめた。これは逃避のつもりか。
背中にはファティラ、胸元にはティ――二人のロリっ子にサンドイッチにされたオレは、身動きが取れなくなってしまった。
*
「この茶番劇もいい加減にしなさい。で、その『緊急事態』とやらを早く話しなさいわよ。」
やっぱり、こういう締める場面はアイリスに任せるのが一番だな。
小柄だけど、その威厳といつの間にか付けた輝く小さな王冠で、ほんの一瞬、アイリスの姿がひどく大きく見えた。
「助手、その失礼な考てただろ……あとで覚えてなさいわ。」
しまっっったー!今の思考がうっかり顔に出ていたのか、アイリスに鋭く見抜かれてしまった!?
怖い気がしたオレはほっといて、先から憧れの人物が目の前に現れて、自分の血脈が否定されたパニック状態のネルくんも、アイリスの威圧で自我が戻った。
「……ゴホン。なんか僕は勝手に混乱して迷惑を掛けましたでごめんなさい。ティ様、たとえ僕は偉大なる先祖の子孫ではないだけど、錬金術師としてあのお方の憧れには本物です。今後も先祖に恥をかかせないままに錬金術師の道へ歩むです。」
「お、おう?頑張っての、錬金術師の人?」
「おうーー!!ティ様の褒めるは千金より高いがあるぅーーー!!!」
「わー!?」
「怖くないよ、ティちゃん。」
「びっくりした、の?」
ネルくんの大きな声でびっくりしたティはもう一度オレを抱き締めて顔を埋めた。いつの間にかオレの背中から下りたファティラはティの頭を撫でた……まあ、これはファティラがやっと自分より背の低い人間に出会えたことで、妙にノリノリになっているらしいけど。
そして、いつまでも要件に入らない茶番に我慢がそろそろ限界を超えたアイリスは、指輪を輝かせると大きな黄金のハンマーを持ち出し、振り下ろして地面に大穴を作った。
ドゴーン!と響き渡る鈍い音と共に、その場にいた全員の注意が強制的に彼女へと引き戻される。
「おい、ネル。言うが、言わないが、選べわ。三秒を待つ、三、二……」
「待って待って待って!?僕はすぐ言うから、やめてください!あのハンマーの黄金の光はどんどん輝いて超怖いですけど!?」
「で?」
一瞬で青ざめたネルが深く息を吸い込むと、ようやく真面目なトーンで語り始めた。
「その、信じてもらえないかもしれませんが……僕は本来、このフラムの正当な領主なんです」
「はい、知ってたけど?」
「え!?もう受け入れだのですか!?」
「はぁ、あのド三流の演技は誰を騙すつもりですか……」
アイリスの冷ややかなツッコミに、ネルは救いを求めるようにオレたちの顔を順に見回した。
「もーちろん、ボクは探偵だからね!そんな見え透いた嘘に騙されたりはしないのだ!」
「オレは、アイリスから教えたけど、その前からネルくんの隠し身分を知ってました。」
「わたしは、初雪から聞きました、よ。」
オレたちの答えで、ネルくんはあまりのことに、まるで漫才のように盛大に後ろへとのけぞった。
「そんなーー!」
「まぁ仕方ないさ。ネルくんは昔から嘘をつくのが下手すぎるからな」
「お姉様までそう言うのですか!?」
「誠実さは坊っちゃんの美徳だから、お嬢様はあまり厳しくしないで。」
「その、私は最初から無理に思いました、です。」
「そんな、僕を信じれる人は一人もない!?」
なんか先からあんなにびっくりしたネルくんに、オレはそれを止める。
「まあまあ、そんなことは気にしないで、話を続けよう、ね」
「あ、それは確かにそうでした。」
……間に合わせて良かった~。オレは横にいるアイリスのちらちらする視線を感じる。アイリスが出したハンマーの光輝はどんどん明るくなっていて、もしあの茶番が続くなら、必ずヤバい事が起こされるかも。
「それはですね。僕は本来であれば領主になるはずだったが、今の代官ーー『プタ』は王印を付けた命令で僕に古い継承試練を始めた。……でもおかしいに感じた僕は王城へ確認の手紙を送って、只今返信が届いた。」
それを言うと、ネルくんはローブから一つの手紙を出した。
「王城の確認で、今の領主邸にいる代官……いや、もはや代官ではない、あれは王名を冒涜した罪人である。準備ができた明日の朝、僕はこのフラムの衛兵と王城から増援した兵士と共に罪人を討伐するつもりだ。だから、僕たちはあの私兵たちの目線から逃げながら、こそこそでここに来た。」
「オオー!!なんだか面白そうな事件が巻き起こっているみたいじゃないか!」
なんか、オレたちが知らない間に、急に大いなる事件が起こったみたいだ。
「なるほどね。なら、あんたたちが言っていた『緊急事態』の意味はよく分かったわ。で、それをわざわざわたくしたちに話しに来たのはどういうつもりかしら?」
「はい。理由は二つあります。一つは、友人としてあなたたちに危険を警告するためです。これから街は戦乱状態になるから、しがない旅の冒険者であるなら、今のうちにこの街から逃げた方がい」
「逃げるが……わざわざ警告してくれてごめんなさいが、わたくしはまだやるべき事があるから逃げられないわ。」
こんな忙しい時期にわざわざオレたちを警告してくれるが……ネルくんは良い人だな。
でも、悪いが。オレたちの帰る道はあの千門ホテルの門がある路地裏だから、この街から出られない。
「そっか、それは残念でした。そして二つ目の理由はリーシャのお願いです。」
ネルくんはそう言うと、リーシャさんが一歩前に出て話した。
「その、正確に言えば、私の上司である高位の神官様からの伝言なんですけどね」
「神官……絡まる嫌な人、の」
「神官」という単語を聞いた途端、横でティと遊んでいたファティラが露骨に嫌そうな表情を浮かべ、不満げに鼻を鳴らした。
「なんだかもの凄く嫌そうな顔をされた……まさか、私の知らないところで神官たちが何かやらかしたんですか!?」
「……別に、なんでもない、の」
「はぁ……?まあいいか。話を戻しますね。その、ファティラ様が驚異的な治癒魔法を使えるって噂が広まっていて、『聖女が現れた』とか『女神降臨』とかって街中で大評判なんです。あの偽代官の耳にも入っているらしく、『邸に連れてこい』って命令が下されているのことが覚えるかな?神官様は、もしあの無法者が強引な手段に出てきたら大変だと心配して、今のうちに早く避難してほしいって……」
「うん?わたし、ファティラはつよつよだから心配は要らない、よ?」
「『つよつよ』……ですか?でも、ご本人が大丈夫とおっしゃるなら、私がこれ以上口出しはしませんけど」
やっぱり、この人たちは根っからの善人なのだろう。
「僕たちが言いたいことは以上です! ティ様にお会いできて本当にラッキーでした! 僕たちのせいでこれ以上巻き込むわけにはいきませんから拠点に帰え、明日の決戦の準備に戻ります!」
「頑張っての、錬金術師の人。」
言いたいことは全部を言い出すと、あのネルくんたち四人はそろそろ帰るみたいだ。
「おいー!情報をくれてありがとうのだ!只今、門をあげるのだ!」
初雪はカギを上げて、あの古い屋敷の扉を開けた……
「全員注意!敵襲わ!ティ、これを持って!」
「ん、これは使えるの」
「赤桜ちゃん!」
「キー―(あるじ、いつも切れる!)」
「この黒装束の集団は、私兵!?いつの間に僕たちを尾行していたんだ!」
その平和の雰囲気はアイリスの声で破れた。共にアイリスはあの黄金のハンマーを持って警戒しながら、指輪から無銘の大剣をティの前に呼び出した。
オレたちを取り囲むように現れたのは、不気味な黒衣に身を包んだ無数の私兵たちだった。
「なんが、カルマの限界を迎えた美味しそうな魂がいっぱい……ごっくり♡」
ファティラの口元からタラリと零れ落ちたよだれが地面を打つ音を合図に、オレたちは一気にピンチへと放り込まれたのだった。




