第17話・二週目・002号室・久々の帰還、ただいま
第17話・二週目・002号室・久々の帰還、ただいま
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――002号室・錬金術師の始祖の街、フラム――
「これは、ジョシュとアイリスじゃないか!」
やっと太陽が完全に沈む前の黄昏時に、オレたちは街へ到着した。
その時見知った顔の門番が、オレたちに熱情的に声をかけてきた。
「あの時はお前たち二人だけで森のダンジョンへ向かうと聞いて、少々無謀ではないかと思っておったのだ。三日も音沙汰がないものだから、本格的に捜索隊を出すべきか悩んでいたところだったよ。いやはや、まさか本当に無事戻ってくるとはな。攻略できなくても落ち込むことはない、無事ならそれで十分だ!」
その話し方だとオレたちは魔境の森から逃げ帰ったみたいだが……まぁ、オレたちは冒険者になってまだ一ヶ月だ。更にパーティーが不完全な状態でダンジョンへ行ったのだから、そう考えるのも当たり前なことだったな。
既にそれを予想していたアイリスは怒っていないながら、ドヤりして微笑んだ。
「ふふっ、それはどうかな?助手、『あれ』を出すんだわ」
「はいはい、お姫様の仰せのままー」
今回はアイリスの計画に乗ろう——そう考えたオレは鞄から緑色の翼膜を出した。
「あれて、緑色の布……いいや、あれまさか、ダンジョンボスであるポイズン・ワイバーンの、ですが!?二人だけであのダンジョンを攻略した!?」
「ふふん!その通りだわ!」
うわ、アイリスは超絶に上機嫌になった。あの茶番で彼女の自尊心が満たされたのかもしれないがな。
「これはすごい、どうやらこの街に超大型新人冒険者が来ましたな……実績がまだ足りないだけど、そのランクはもうすぐFから昇進するかな……入って良いよ、フラムにお帰り!」
既に知り合いの門番だから、オレたちのギルドカードを確認すると通過させてくれた。
「ああ、一つ忠告する……」
そのまま通ると同時に、門番がそう言葉を伝えた。
「……お前たちもわかるだろう、その代官のどす黒い噂よ。それに妙な証拠が残らないことも、保護された被害者の記憶も曖昧で思い出せない。俺たち兵士は領主と国に忠誠を誓った身だから、領主じゃないあのものの命令は受け入れませんが……その私兵は違った。お前たちみたいな将来有望の若い者はそれを注意してくださいね。もし危ない状況になったなら、逃走も選択の一つよ?」
「忠告してありがとう、その言葉は受け取ります……けど、オレたちはまだここにやるべき事があるから、今は少し」
「そっか。でも、もし逃げるが必要ならいつでもこの東門へ逃げな!それと、ネル坊は任せたぞ」
「どうしてネルくんの名前が……まぁ、もし危険があればそうするから、先に失礼しました!」
門番である衛兵から忠告を受けると、オレとアイリスは関所を通過して、再び街へと戻った。
*
オレとアイリスは大通りを並んで歩いた。もう夜が近いから、街中の街灯が灯っている。街灯があるせいで、冒険が終わって酒場へ一杯に来る冒険者パーティーも、店を閉じる商人たちも、走っている錬金術師らしい人々も、この時間の大通りは人が多い。
「ねぇ、アイリスはどう思う?」
「その問題は、あの忠告のことだろう」
「はい、その通りです」
アイリスは腕組みをして、しばし思考に沈む。
「アイリス?」
「正直に言うと、あいつがこんなに目立つなんて、わたくしの課題と関係ある可能性が高いわ……まあ、来るなら返り討ちして皆殺しすれば良いわ。最悪の場合は自害して今回の冒険を終わらせるのも良いわ。……でも、その不自然な程度の証拠隠滅で、きっと何らかの不正や邪法が存在するに違いないわ」
不正は想像できるが、邪法が……ここは魔法が存在する世界だから、そんな可能性も排除できないで困る……
「これはネルの問題だから、一応放っておくわ」
「ネルくん?どうして急に彼の名前が出るのですか?」
オレが問題を問うと、アイリスは急に足を止めた。そして、とてつもなくアホを見るような目線でオレに投げ、更にびっくりし過ぎてお口が無意識に開いてしまった。
「まだ知らないの?あのド三流の演技で騙された人が存在するの?」
「え、何を?」
「ネルのやつのことよ。あいつはこの街の本物の領主よ。恐らく何らかの事情で領地の継承が問題になって、今の代官が掌握したんだろうわ。正直くだらないことだらけだから、他国の権謀術数に巻き込まれたくないわ。」
「え!?そんなことがあるのか!?」
そういえば、初対面の時に初雪がネルくんをどこからのお偉いさんと言っていたっけ。
「別に気にする必要はないわ?だって、あいつより遥か上位者としてのわたくしにもあのような態度だし、今さら変わる必要はないわ。」
「それはそうだな……その、今までは本当に失礼しました、アイリス様?」
オレがそう言うと、アイリスは生理的に不快そうな表情に顔を変え、そのような表情は初めて見た……うわ、更に舌まで出して嫌そうな顔になる。そこまでする必要があるのか!?
「うえー……気持ち悪いですけど……そんなことは二度とやらないで頂戴くれませんわ?」
「ひどい!?そこまでひどいですか!?」
「それは、まぁ。礼儀は特に悪くないけど、なんだか、お前なら生理的に無理わ!許すから、普段通りのような軽い態度で良いわ……そうなくと吐くそう……良いのか、お前のお姫様のような美少女が街中で吐くのを?」
「わかった、わかった……元通りにするから、そうなると面倒になるから、吐かないでください。」
「なにお!誰が面倒な女ですわ!優しくしてやれば、すぐにつけあがりやがって……もういいわ!明日の鍛練は二倍ですわ!」
「それだけは勘弁してください~、オレを死ぬ気ですか!?」
「なら一回死んであげますわ」
「ひどい!?アイリスって仲間が死ぬことが大嫌いじゃないですか」
「これは躾の一環だからノーカンわ。」
オレの返事で、アイリスは半分イタズラ、半分意地悪な微笑みで見返し、わざわざ大袈裟で演劇のようにオレに手を伸ばした。
「素敵よね、死ぬまでの実戦訓練って、そのような経験は誰にも体験出来ないわ」
「そんなわけないだろう!普通痛いですけど!?オレはあのワイバーンのように物凄い速度でバラバラに散るだけど!?」
「ふふふ、なら死の覚悟をしてわたくしに一撃すれば早めに停めるわ?」
「無理だって、そんなの!?なら赤桜の力を貸せ……」
「ちなみに、わたくしは斬神流の剣士に負けたことを覚えているようね?その後、わたくしは斬神流の技を全部習得して対策し、リベンジの真剣勝負であのわたくしを侮辱した剣士の首を斬首したわ。同じ技はわたくしを通らないわ~」
「なら魔法で……」
「この鎧と盾って魔法使い対策の装備のことを忘れたの?その三流以下の魔法は通じると思うの?」
「どこかのチートキャラだよお前は!」
オレより小さいのに強いって、このチート幼女……
「『チート』?お前と初雪の平民組が時々言う知らない単語だわ。それにわたくしは幼女じゃないって何度も言ったよね!……どうやら死にたいのかな、あん!?訓練は三倍わ。ついでに本気で殺すわ。」
「オレは言い出した、ですって!?えぃ?もしかしてオレ、詰んだ!?」
「言ったわ。『禍いは口から』、その事は骨の髄まで叩き教えるわ。明日は楽しみだわ♪」
この一ヶ月で、オレは仲間たちと馴染んでアイリスまで軽く話し合い出来るようになったが……どうやらうっかり軽すぎた……アクシデントでも起きて訓練が中断でもしない限り、明日はオレの命日になるな。
そのような他愛のない話し合いでオレの運命を決めた頃、オレたちはもう大通りの十字路に着いていた。
オレはいつもの癖で、十字路の先へと足を向けた時……アイリスに服の裾を引っ張られ、足を止めた。
「ん……?」
「ふん。」
オレは彼女に向かうが、彼女は何も言えないままオレに手を伸ばした。
「これは、一体どうした……?」
「はぁ、まだ気付けないの?わたくしたちの家は左方向で、前に行くのは教会だわ。きっと無意識に、治療院へ女神ファティラのところへ向かおうとしているんだろうわ。だからほら、鞄を寄越せ。わたくしはお先に帰って、初雪とこの三日分の素材を分類するわ。」
「あ、そういえば、そうだったっけ……ありがとう、アイリス。」
鞄をアイリスに渡すと、彼女は不敵な表情でオレを見た。
「もう、三日間会えなかったよね、女神ファティラとお前は。その意味がわかるだろうわ~」
「それは……!」
ファティラの性格からして、会えなかった三日分を取り戻そうと、いつも以上にしつこく甘えてくるに違いない。
「それじゃ、わたくしは三日ぶりの温かくて気持ちいい、ぽかぽかなお風呂に入りに帰るとするわ。お前はあの甘えん坊のモンスターを相手に、せいぜい頑張りなさいな~!舐めるや噛みつくは耐えれば大丈夫だけど、喰われないよ?お前は喰われないように祈るわ~」
「こら、オレを見捨てないで!共に彼女の甘えを分散してーー」
あ、アイリスはものすごい速度で走り消えてしまった。あいつもファティラと三日会えなかったから、その紛れ込まれる未来を予見して先に逃げた。強い癖に逃げた、この臆病者!
……そういえば、アイリスはそう言っていたっけ、「もし戦場で勝てない相手に出会ったら、最速で逃げるわ。それこそが戦場生存において最も重要な極意だわ。勝てない敵に付き合う必要なんてないわ」って……アイリスは今のファティラに勝てない認定したのか……
勝てるが、オレは……
*
――002号室・錬金術師の始祖の街、フラム・教会の治療院――
オレは不安な気持ちで教会の前にたどり着いた。
「キ、キんー(あるじ、助けないで、ごめんなさい)」
「は、あはは……大丈夫だよ……ファティラは危ないことをしないから……何一つ心配する必要がない、よ」
「キイー(声、震える)」
ははは、赤桜ちゃんは冗談を言うのかな、随分成長したかな……現実逃避はここまで。ファティラはどこにいるだろう。
謎で光っているから目立つはずだ……あ、居た、あの光っている子はあそこだ。
ちょっと良いタイミングで、探していた彼女は教会の正門から何やら神職の人々に囲まれて出てきた。中央にいるファティラは、何と言うか疲れて、いやもはや眠くて欠伸が止まらない。そのあまり変わっていない表情から、何とかつまらないとイライラしているのが感じられた気がする。
それは、例の勧誘だな。
彼女のあの雑な全能でやり過ぎるから、もはや神の奇跡に誤認される……ある意味で誤認じゃないけど。だから奇跡を逃さないために、教会の連中は彼女という自由の冒険者を教会に入籍したいのだ。
幸い、ファティラのことは神の奇跡に認識しているから、あまり強引はしていないが——まぁ、彼女は困っているし、止めよう。
「そこの教会の神職者たち、毎回言っているだろう?オレの仲間にこんなに迷惑をかけないでくださいよ。」
「……!帰ってきたーー!
」
だが、あの神職者たちがオレに答える前に、とある存在が先にこちらを見た——あれは生気を取り戻し、目のハイライトが戻ったファティラだった……なぜか初対面みたいに感じる服装。
周りの人々をガン無視して、ファティラはまるでホラー映画の演出か、あるいはネットゲームのディレイが生じたかのように、瞬きを繰り返しながらこちらへ近づいてきて、オレの真っ正面から抱きついてきた。
「うおおおお!?何それ、あまりにも人と遠い移動方法で怖いけど!?……三日の遠征だけど、寂しかったか?ただいま、ファティラ。」
「うん……魂の狭間にいるお時間は、どうやって過ごすかわからない程度、寂しかった、よ。……初雪は居たからまだ平気、だけど……はむはむ。」
話の途中で、ファティラは急にオレの首筋を噛み始めた。力がないから、少しくすぐったいだけで、微妙な感覚だ。
「ほら、止めなさい!オレは帰ったばっかりで、まともに風呂にも入っていないから、早く口を放してよ……こら、舐めるな!」
本当、こいつはいつものような傍若無人で、周囲のことが全く気にならないから……彼女へ好意を持っている人たちはオレに殺意を投げてくる。先にオレが勧誘を止めた聖職者たちも何を言いたいみたいだけど、ファティラがオレを噛んでいるとフリーズした。
「はむはむ~、レロレロ~……更に味が付く、良い、よ?」
「うわ、首筋がベトベトじゃないか!?それに、他人のことはグルメ評価に付けないでくださいよ、本当に」
少しだけ噛むと、彼女はちょっとだけ離れて——オレの手が彼女の尻を支え、彼女の両手はオレの肩に掴まるような形になった。
全然降りる気が無さそうだが、ファティラは軽いから別に平気だけど。本当にじゃれつくような甘噛みと舐め癖が激しいなこいつは……そういえば、初対面の時もそうだ、背負っている時にオレの耳を噛んだっけ……ある意味最初から変わっていない?
オレの止める言葉は聞こえないまま無視する彼女は好きに噛んで舐めて満足すると、相変わらずの冷たい目線で勧誘した神職者たちに爆弾的な話を言った。
「わたしの身も心も、この人のもの、よ……教会に加入するは無理、よ。」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!?こら、変なことは言わないでください!ほら見てください、周りが議論するじゃないですか!?オレの評価が下がる気が!それに、オレとファティラはただの仲間で、変な関係は起こらないけど!?」
「ぽっ……♡」
「『ぽ』じゃないわよ!?」
先からずっと彫像のように動けなかった聖職者たちが、錆びた機械のように再び動き始めた。同調した深呼吸をすると、同じ言葉を言い出した——
「「「人前でえっちのはダメー!」」」
「してないですけど!?」
リーシャさんと似ている言葉が飛び出した。
*
――002号室・錬金術師の始祖的街、フラム――
オレは急いでファティラを抱っこして、混乱した教会から離れて家の方向へ逃げるように走った。
「もう~、ファティラが変なことを言ったせいで、オレはもう教会に行き顔がないよ」
「でも、これは事実だ、よ?……使徒って、神に全部を捧げる……代わりに、神の全部をあなたへ捧げるの方が平等する、よ?」
「なにそれ変な考え方は……それと、その言い方は誰が教えたのですか……」
「初雪、よ……『そう言えば勧誘は簡単に止めるのだ!』って……そう、言いました、よ?」
やっぱり、まだ初雪が……探偵め、探偵は問題を解決する存在じゃないのか、問題を起こすのは何のつもりだ……
「そういえば。ファティラって、自分に優しい人が好きだけど、こんなに嫌そうなのは何で?神職者たちはその対象じゃないの?」
オレの質問で、彼女はいじけた顔をして答えた。
「だって……あの人々は既に別神の使徒だから、自分の使徒になれない、の……その善意も、わたしのためじゃない……全部信仰した神の為に……わたし、結構嫉妬深い、よ。……もし助手は改宗するなら……ふふっ~」
「おい!?大事なところで止めるなよおい!もしそうすれば、なにが起こる……?」
「……その浮気した助手と、その泥棒ネコ神……仲良しに丸っと、よ~」
「本当に怖いだけど!?一応聞くけど、初雪とアイリスは無事だよね?」
「うん、彼女たちは良い人だから平気、よ。……わたしは女神属性って、初雪は変人属性、アイリスは姫属性……全然、被りはありません、よ?」
なんか変な判定ルールだけど、女神と関係ないなら大丈夫なら良い?
まぁ、このような雑談をしているうちに、やっと三日ぶりの我が家に帰ってきた。
門を開けると同時に、オレとファティラは同時に言った。
「ただいまー」
「ただいま、よ~」
やっと、家に帰ってきた。




