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第16話・二週目・002号室・時間の流れ、最後の素材

第16話・二週目・002号室・時間の流れ、最後の素材


==========

――002号室・B級ダンジョン、魔境の森――


ここはフラムに近い、森の形をした地上のダンジョンだ。


一面の緑の森の中で、同じ緑色のワイバーン——更に強い猛毒を持つワイバーンの変異個体という森の主が、負け犬のように誰かの刀から逃げるために逃げ回っていた。


だが、その誘導された逃げ道で、ワイバーンは逃走の道中、沿道の木々を薙ぎ倒しながら衝突し、その飛行速度を鈍らせていった。


「アイリス!ワイバーンはそっちに行きます!目標の毒針と毒袋を破壊しないように気を付けて……」


「分かってるってー!飛べるはトカゲに似合わないわ、大人しく地面に落ちろ!」


奴の逃走ルートの先には、森の中で不自然なほどの広場があった。先に伐採によって開けた空き地——オレとアイリスが用意した狩り場が広がっている。


ワイバーンがそこへ入ると、迎えたのは金色の姿、やつを狙った銃だった。


「ガアァァァ!?」


魔力の弾丸が翼膜を精確に穿ち、穴だらけの翼は浮力不足で重く地面に落ちてしまった。


もう一人は木の枝の間を跳んで走りながら追撃し、この広場へ飛び込んだ。


「ハアー!『ラランド流傭兵剣術×斬神流、亜流変体三式ーー断翼』!」


オレが木の上から跳んで、重力の加速でその右翼を切り落とされた。


「もう!何回も言うだろう!ラランド流は戦場生存特化の戦闘技術で、構えと技が規定されないって言ってるのに!なぜ斬神流のあのようなド派手な技名を付けるの!こんなふうに技名を叫んだら、相手に自分の構えを教えているのと同じじゃないわ!」


「ごめんアイリス師匠!赤桜ちゃんは斬神流なら技名を言うともっと威勢が出るって言うから、つい!」


「キンー(いいぞ、あるじ!かっこいい!)」


「くうー!まだあの廃鉄の妖刀がおかしいことを教えるの!それに師匠を言うな、わたくしはこの一ヶ月の間に教えたのは基礎だけだ。師匠と呼ばれるほどの者ではない。」


「それは……はい、アイリス!翼が折れたからもう逃がせない、共にワイバーン狩りを終わらせましょう!」


オレはそう提案して刀を構えたが……アイリスは動かない。


「アイリス?」


「はあ、まだ気付けないの?狩りはもう終わったわ。だから技名などいらないわ。戦場で不意打ちこそが基本の基本だわ。」


アイリスはそう言うと、いつの間にか手にしている刀を血を振り払い、鞘に納めた。


あの緑色のワイバーンは崩れた——首、左の翼、尻尾、両足、パーツがバラバラに散る。


「これは……!?」


「特に肢体が切り落とされた時に隙間が一番大きくなるわ。わたくしはその隙間を逃さないわ。」


オレの驚きとは逆に、アイリスは珍しく『ドや~』とした、とっても生意気で自慢げな笑顔になった。


「ふふ~♪言っただろう?戦う基本は相手の移動を封じること。だからお前がその翼を切り落とされたと同時に、わたくしはその両足と残された翼を解体するわ!動けない相手に対して、その首を貰うのは簡単な仕事ですわ!」


「なんだその血塗れな自慢話……王女という身分と少し似合わないけど、アイリスはすごいね。」


「相変わらず察しが良いことね、存分に撫でて良いわ。……ふふ、合格よ。」


この状態のアイリスは頭を撫でないと自慢話は止まらないから、オレは彼女を褒めると同時にその頭をナデナデした。


「それはまぁ、一ヶ月経過したから、もう慣れたのが原因かもな」


「何その言い方、まるでわたくしは面倒な女じゃないわ?罰として時間延長するわ。」


「はいはい、仰せのままに~……あ、その前に赤桜に血抜き作業をするから待っててください。」


オレはワイバーンの残骸に赤桜を挿れると、一瞬で赤い色に染め上がった。


「キン、キンー!(血、血、血!あるじ、血の一滴すら残さず、吸い尽く、もっと強く成る!)」


……どれほど謙虚で慎重な性格でも、血を吸って成長する武器って、この子はやっぱりヤバい妖刀じゃないか?


それに魂を喰う『女神?』という怪しい謎な存在、その次は血を吸う刀が……普通は良い子たちなのに、なんか邪悪な感じだけど。


「おいー助手、早く来てよ!」


「はい、はい~」


「『はい』は一回で十分わ!」


オレはアイリスの頭を撫でると同時に、あったことを思い出した。


今はもう、オレたちは正式に冒険者になってネルくんと協力契約を結んでから一ヶ月が経過した。


オレはアイリスと妖刀ちゃん——ずっと名前が無かったから不便で、その血を吸う特性を発見したときに「赤桜」と名付けた。あの時は会える限り一番大きな振動を感じた。それを平伏するまでずいぶん時間がかかった。


まあ、本題に戻ろう。オレはアイリスと赤桜に剣術を教えてもらった。アイリスのラランド流傭兵剣術は、剣術というより戦闘技術に近い。刀と剣だけじゃなく、アイリスの武器庫から次々と武器を出してオレに教えてくれ、模擬戦もするけど、その結果はオレだけがボコボコにされる。


赤桜は何と言うか、完全に褒め育て、褒めて伸ばす教育?一度も怒られず、刀遣いの意見を提出してくれる。時々はオレの体を奪い、そのまま斬神流の動き方を体験させてくれる。


お二人はオレにとって、とってももったいない師匠だった。


今はオレとアイリス二人で、ネルくんから貰ったリストの順に素材を狩っている。そのワイバーンの毒袋こそがリストに掲載された最後の素材だった。いよいよオレたちがこの002号室の冒険が終わる……傑作はその屋敷にいるかいないかわからないけど。


でも、依頼を達成するのはいつも順調じゃない。時々は依頼の途中で死ぬ。けど、オレたちが全滅しない限り、普通に千門ホテルで復活するから。その時は食堂で満腹して、世界樹の実のジュースを飲んで完全に休憩を取り、もう一度002号室へ戻れば良い。


でも、オレは別に復活できるからといって、油断は禁物だ……決してアイリスの一時間連続説教と鬼の訓練、初雪の生温い視線、ファティラの死ぬほど甘えん坊モード、赤桜の心配そうな振動に怖いわけではありません。


不在の二人について。初雪は何か飽きたのか、力不足を感じたみたいで、商売に行っている。


初雪って本当に商売が得意で、ネルくんたちが協力と身分保証をするだけで、恐ろしい速度で商売繁盛する……いや、本当に恐ろしい速度で大儲けした。


そのおかげでオレたちは小鳥亭から出て、外で一戸建てを借りた。毎日、彼女が帰ると色々な珍しいものを持って帰ってくる。


そして、ファティラは……オレたちの中で、一番やりすぎている人……そもそも人じゃないし、女神を名乗る正体不明の雑な存在だけど。


今のファティラはヒーラーとして、治療院でバイトしている。時々はこちらの冒険者活動にも参加する。その女神を隠さない言い方と……薄くて細い華奢なロリ姿なのに、その自重なしの治癒魔法で息がある限り全部治せるチート全能。隣の貴族すらわざわざここに治癒を願いに来る。


今は街中に『聖女が現れた』とか、『実は女神が降臨した』とか、そのような噂が広がっている。


毎日彼女を迎える時に、その周囲のことを気にせず素直な愛情表現でオレに向かってくる殺意がどんどん上がっているのは困っている。


でも、その派手な活躍で、なんか代官みたいな人物から領主邸へ来いとの命令が送られてきたが、ネルくんに言うと『絶対に行かない』と、怖い顔でオレたちを止めた。


なんか今の代官は両足で歩む豚のドクズ野郎で、悪事をたくさんやっているのに尻尾が捕まらないヤバいやつとか……まるで時代劇に登場する悪代官みたいな。でも、そのような人がファティラと会えば、悪人ならファティラに言うカルマはきっと溜まっているはず……うん、完全にドラゴンの口に飛び込んだ羊、魂を抜かれて喰われる未来しか見えないけど。


まあ、これはこれで、ここにいる一ヶ月で充実した時間を過ごした。





*





「これでよし、素材への解体が終わりました、と。ワイバーンの肉は持ち帰って、地球に無いものを料理するのが好きな初雪は喜んでますかな。」


「キン(満腹した~、腹はないけど~)」


赤桜のおかげで血はあんまり多くないから、解体も楽にできた。必要な素材は……毒袋、爪、牙、心臓……よし、全部揃った!他の素材は持って帰って、普通のはギルドに売れ、希少のは初雪のお店へ、最後に残された肉はプレゼントとして初雪にあげて、オレたちの晩飯になる。


ここは錬金術が繁栄する街だから、素材は高価で買い取られるから、残されないはずだ。


「今さらなんだけど……」


うん?アイリスが突然オレに話しかけてきたけど、このような威勢のない話し方で彼女らしくないな。


「……お前と初雪は平和な世界から来ましたよね。このような血だらけのことをするのは精神負担が溜まってるのでは?」


「おや、おやおや?まさか、アイリスちゃんはオレに心配してる!?」


「うるさいわ!それにちゃんを付けるな!たまたまだから悪いわね!って、答えは?」


「それは……」


そういえば、オレは自分の血濡れた手と解体されたワイバーンを見る……そのような精神負担はあまりないみたい。昔のオレがどういう人かわからないだけど、決してこのような事に慣れた狩り人や極道じゃないから、なら原因はーー


「……心配されてありがとう。アイリスが言う精神負担は無いみたい。オレの過去が奪われたせいで空っぽになったのが原因かもしれませんが、今の状態ですぐ慣れてしまった。」


「そうなんだ?お前のその学習速度もこの原因が。普通なら一ヶ月だけでこんなに健闘するはずじゃない、まさかお前がそこまで成長したのって……いいや、むしろ逆って。わたくしの指導が、あの王宮教師たちより優秀だったからかしら!?」


「なんで急に自慢話がまた始まった……まあ、アイリスの教えがすごかったのが原因で良いじゃない?あのような地獄特訓を受ければ誰でもこうなるだろう。」


「そうなんだわ!たとえお前がまだわたくしと比べれば十年早いが、一般兵よりは遙かに強いのも当たり前だわ!」


「喜んでいるなら何よりだ……そろそろ帰ろうか。」


こそこそでファティラに身体強化魔法を習得したのもその原因かもな。


ついでにファティラはその強化魔法を使えないらしい。なんだか『ないものに何を掛け算したって……何も変わりはしない、よ?』と言っていた。


でも、このままアイリスの自慢話を聞くのも悪くないが、空の色はもうすぐ黄昏時に近いかも。


「それはそうだな、いよいよこの森のダンジョンから街へ戻ろうわ。わたくしがテントを畳むわ。」


「この森の中で既に三日したな……まぁ、初雪が用意してくれたアイテムのおかげで別に不便じゃない生活だし」


初雪が持って帰ってきた雑物で、この街の特産としてのアイテムがたくさんある。例えば扇風機みたいな風を噴射する桶とか、暖かい水を流す簡易シャワーとか、魔力を水に変換する水筒とか、点火用のアイテムとか、色々がある。


今のアイリスもテントを見た目より広い鞄へ収納する。あの鞄は既にワイバーン一体分の素材を収納したのにまだ収納空間がある。


全てを片付け終わったから、アイリスから鞄を預かって背負う。


「それじゃあ帰ろうか、久々の文明社会へ。」


「それは大袈裟過ぎじゃないわ?……まあ、ようやく簡単な丸焼きから解放されてちゃんとしたご飯が食べられるんだ、期待しておくとしようわ」


「そうだな、初雪のお料理は美味しいな~」


「それは……反論ができないわ……探偵に自称するけど、料理人の方が得意じゃないか、あいつは?」


「その言葉、本人に言わせない方が良いかも……」


こんな軽い話し合いの中でオレたちは街へ帰った。

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