表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/93

第八十五話 選定者

術木萄越と選定者との戦いが始まる。


 燕尾服を着た老人——選定者が、言葉を呟く。

「指定条件確認。緊急事態と判断し、戦闘形態へと移行」

 肉体を持たぬはずの老人から、魔力が噴き出す。


「地脈接続、完了。擬似魔術式構成。戦闘を開始します」

「来るぞ!」

 萄越が叫ぶ。と、同時に、()()が切り替わる。


「「っ!?」」

 それは、黒く、暗い空間だった。先は見通せず。どこまでも続くかのような暗闇だった。

 しかし、光源らしきものは見えないはずなのに、何故か辺りのことは見える不思議な空間だった。


 暗闇に、一人ぽつんと立っている選定者が話す。

「ここは、どこでもない場所。あるいは、世界の狭間。そう、呼ばれているところです。当主のみなさんは、来たことのある場所ですよ」


 萄越が、焦りなど、欠片も見せずに答える。

「あぁ、知っているさ。選定の部屋とも呼ばれるあの空間は、この、世界の狭間に作られた空間なのだろう?私は貴様を攻略するために、そういったことについても研究したからな」


 選定者は、小さく拍手しながら萄越を讃える。

「ご明察です。えぇ、あの選定の部屋は、過去の七大魔家の当主たちが、現世でも、間界でもない、謎の空間を見つけだした後、そこに魔道具を隠すために作られました。一応、隠された真実のはずなのですが、それを一人で見つけ出すとは流石ですね」


 選定者からの称賛を聞いても、萄越は、顔に喜色を出すことは無かった。むしろ、わずかに苛立ってすらいるようだった。


「御託はいい。結局のところ、車輪の再発明だ。そんなものは無意味だ。私が今気にしているのは、過去の七大魔家の作った魔道具に、私の技術が届くかどうかだ!」

 そう言って、萄越は地面に片手をつける。


「百合、肉体を持たぬ奴に、お前は相性が悪い。だから、ここは私がやろう」

 萄越がそう言うと同時に、萄越の地面についた方の手が光りだす。


「地脈接続、完了。逆算開始」

 萄越が呟くと、光はさらに大きくなり、萄越が地面に手をついた場所から、植物の蔦や葉が生えてくる。


 それを見た選定者が驚き叫ぶ。

「馬鹿な!?ここから地脈へと繋げた上に、魔道具(わたくし)への侵略を!?」

 

 選定者は、萄越たちをこの世界の狭間に連れてくる前、魔道具が接続している地脈から、魔力を吸い出し、擬似的な魔術を組み上げることで転移させた。


 その上で、今現在も、魔道具本体から選定者への魔力供給は行われている。

 そのため、選定者であれば、己への供給経路を通じて、地脈への干渉もできる。


 しかし、萄越が、この隔絶された空間で、地脈へと干渉し、さらには魔道具の方にも干渉し始めることは不可能なはずだった。


 選定者の驚き様を見て、萄越が説明をする。

「なに、簡単なことだ。確かにこの空間は隔絶されていて、普通には地脈に干渉できない。しかし、この空間は現世と隣り合っているようなものだ。その上で、貴様という()()があるのだから、後は貴様から地脈を辿ればいい」

 そうすれば、魔道具の方にも干渉しやすいからな、と付け加える萄越。


「……なるほど、どうやら私は、あなたをみくびっていたようだ。最初は情報を徹底的に吐かせるつもりでしたが——」

 選定者が右手を開きながら突き出す。すると、周囲の空気が一変する。暗い空間から、圧力のようなものを感じ始める。


「今ここで、確実に殺すとしましょう」

 選定者が、右手を握り込む。すると、次の瞬間、空間が、圧縮される。——否。目に見えない。圧力が発生したのだ。


「っ……!影よ!」

 黒百合が、影を展開し、自身と萄越を覆う。

 ドームのように影の防壁を張るが、圧力が掛かり、メキメキと、嫌な音を立てる。


「そんな……!私の魔術でも壊れかけている!?」

 黒百合は、驚愕していた。なぜなら、思い込んでいたからだ。すでに自身は最強なのだと。人の力では脅かすことのできない天災の如き存在なのだと。


 しかし、その思い込みは、現実の前に儚く消え去る。確かに人間ではない。しかし、所詮は人が作った道具程度。そう、思っていたのに、その道具程度に、今自身は押されていた。


 それが、黒百合には信じられなかった。

「もっと魔力を引き出さなきゃ……!」

 黒百合は、圧力に耐えながら魔力を練りだす。


 と、その時、萄越が呟く。

「いや、その必要は無い」

「え?」

 黒百合が、気の抜けた言葉を発したその瞬間であった。


 影のドームが光り、葉や蔦が広がる。植物が広がった空間は、まるで不可侵の領域かのように、選定者が放った圧力も防いでいた。


「この空間に自身の()()を広げましたか」

 選定者が、その様子を見て苦々しく呟く。


「あぁ、あなたが選定の部屋を作ったのと同じ要領でね」

 対する萄越は、微かに笑いながら返す。


 萄越のやったこと。それは、地脈が有する膨大な魔力をもって、形無き世界に形を与える魔術。

 本来、この世界の狭間には、地面という概念すら存在しない。


 それを、選定者が情報を聞き出すために、最低限空間の体を為す程度に形を与えていた。

 そして萄越は、ここに飛ばされた直後から、己が元々推測で作っていた魔術を、選定者が行使したものを手本として完成させていた。


 そして今、その魔術を用い、自身の空間を作り出すことで、選定者の魔術を防いだ。

 もちろんこれは、そう簡単にできることではない。己の全てを魔術に捧げ、研鑽と研究を重ねた萄越だからこそできたことである。


 萄越は笑い、宣言する。

「さぁ、陣取り合戦といこうか」

「舐めるなよ悪ガキがぁ!」


 黒く、暗い空間で、二つの世界がぶつかり合う。

 片や黒く、しかし圧力のある世界。片や葉や蔦が生い茂る緑の世界。


 その境界では、草木が生まれ、潰され、また生まれを繰り返していた。


 陣取り合戦は拮抗している。故に、勝敗を別つのは妨害。

 先に動いたのは、選定者だった。


「擬似魔術式構築。【星見】発動」

 七大魔家、星詠家の魔術を発動する。選定者の背後に()が現れ、隕石が萄越たちを襲う。


「防げ、百合」

 一言。萄越はそれだけを発する。

「影よ!」

 それだけで、黒百合は動き、全ての隕石を完全に防ぐ。


「お父さん、私たちも……!」

 黒百合は、今度はこちらから妨害することを提案する。

「あぁ、しかし、お前では無理だ」

 萄越は、黒百合の提案に頷きながらも、黒百合が行うことを否定する。


「奴には肉体が無い。ここにいるのも、所詮はホログラム。ただの魔術では無意味だ」

 選定者は、姿こそ見えているが、所詮その姿は見えているだけ。虚像をいくら攻撃したとて、それに意味は無い。


 故に萄越は、少し特殊な妨害を行う。

「百合、魔力を借りるぞ!」

「! えぇ!」

 萄越が、黒百合の手を握る。そして、黒百合から魔力を借りて、魔術を行使する。


「計算能力向上、演算開始……!」

 萄越の額に、血管が強く浮き出る。魔獣の特性を発現させ、脳の処理能力を向上させたのだ。


 萄越が黒百合の魔力を借りて魔術を発動してから少し経つと、選定者に異変が現れる。


「くっ!きさ、まぁ……!!私の本体にハッキングを……!」

 先程から干渉自体は試みていた。そしてとうとう、発の干渉に成功する。直接攻撃(ダイレクトアタック)に成功したのだ。


 それにより、選定者の魔術が揺らぎ、僅かに萄越の空間が侵食する。


「舐めっ、るなぁ!!」

 選定者は魔術に流し込む魔力を増大させ、さらにいくつもの七大魔家の魔術を展開する。


「百合!」

「わかってるわ!」

 黒百合が影を展開し、萄越を完璧に守り切る。


「う、おおおおおおっ!!」

「はあああああああっ!!」

 選定者と萄越。二人の咆哮が響き渡る。


 萄越は、黒百合から魔力を借りて、高速で魔術を行使し続ける。

 少しずつ、少しずつ、選定者の空間が侵食されていく。


「ぐっ……。おのれ……!かくなる上は……」

 そして、萄越の空間が選定者の足元まで迫った時、選定者は、()()()()を決意する。


「私の、勝ちだ!選定者!」

 萄越がそう叫んだ時、周囲を、閃光が包み込んだ。


 

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ