第八十三話 祈りを胸に、努力を力に
時間は少し遡る。
刀也たちが刺客を倒しに行っている頃。術木萄越と黒百合は、現実世界のある場所を目指していた。
歩きながら萄越が百合に問う。
「百合、一応、本当に刺客は放ったが、どれほどの人数が足止めできると思う?」
「んー。そうねぇ」
黒百合は、人差し指をあごに当て、考える。
数秒ほど経つと、萄越の問いに答えた。
「おそらく、先輩たちは刺客の方へ行くでしょうね」
「先輩……、つまり、魔使優奈のチームか」
「えぇ、あの人は一般人が害される可能性など、認められない。一般人を傷つけるような輩を見過ごせない」
黒百合は、妖しく笑いながら言う。
黒百合は、だから、と加える
「だからきっと、先輩と、兄さん、そしてその主は刺客の方に行くでしょう」
他は知らないけどね、と最後に付け加える。
「ふむ。正直言って、あの影分身は生前の八、九割ほどは再現しているのだろう?ならば、薔薇と黒峰刀也だけではいささか厳しいのではないか?ともすれば、死んでしまうぞ」
萄越は黒百合に、言外に黒峰刀也を手に入れる気は無くなったのか、と問う。
その意味を察知し、黒百合は答える。
「そうね。死んだらそれまでって、ところかしら。最初は体の願いを叶えてあげようとしてたけど、正直、私にはどうでもいいことだもの」
「そうか……と、ようやく着いたな」
そんな話をしているうちに、黒百合たちは目的地へとたどり着く。
それは、決議参加者及び、優勝者を決める魔道具が隠されている小さな神社であった。
「さて、魔道具を獲りにいくぞ」
萄越が、黒百合と共に、魔道具のある空間へと入ろうとした時、背後から声がする。
「もしもし刻殿。どうやら、賭けは私の勝ちですね」
「誰だっ!?」
萄越と黒百合は、咄嗟に背後に振り向く。
そこには、巫女服を着た女——祈闘守杜が立っていた。
祈闘の右手には、スマホが握られている。
「なるべく早く応援を連れてきてくださいね」
そのスマホは刻 印と繋がっており、通話で応援を求める。
「でないと私、死んでしまいますよ?」
そう言って、祈闘は通話を終えた。祈闘は、通話を終えたスマホを懐に仕舞う。
「なぜ……、わかった……?」
萄越は自身の目的に気づかれた理由を問う。
「黒百合が魔力で己を強化できるのは知っていました。そのため、大きな魔力を狙っていることも。それなら、きっと貴方達は人間を遥かに超える大きな魔力、魔道具を狙うと予想しました」
そんなことが可能なのかわからなかったため、一旦横に置いておかれましたけど、と祈闘は続ける。
「ですが、この考えが頭から離れず、もしかしたらと、ここで待ち構えていたら、貴方達が来たのです」
「なる、ほど、ねぇ」
祈闘の回答を聞き、黒百合は笑う。
「でも、結局のところ、あなた一人じゃ、私は倒せない。それはわかっているんでしょう?」
黒百合にそう言われ、祈闘もまた笑う。
「えぇ、私はただの時間稼ぎです。応援が来るまでの、ね」
そう言いながら、祈闘は自身に魔術を使用する。
「我が信ずる神よ、畏み畏みお願い申す。どうか我に御身の加護を!」
これにより、祈闘の身体能力が爆発的に上がる。
しかし。
「その程度じゃ、無駄ですよ」
黒百合から、ただ魔力を圧縮しただけの攻撃が放たれた。
【黒葬】ですらない、ただの魔力の塊。それが、矢のような速度で飛んできて、祈闘に襲いかかる。
「ぐっ!?」
祈闘は咄嗟に大幣で受け、上空へ弾き飛ばす。
「まずいですね。このまま戦うと周りに被害が……!」
魔道具が隠されている神社は、住宅街の中にある。
そのため、この場で戦うと民間人に被害が出てしまう。
ただでさえ不利な状況。その上で、周囲のことを考えながら戦わなければならないと、祈闘が考えたその時であった。
「流石に、それは看過できませんね」
どこかでパチンと、指を鳴らしたような音が鳴った。
瞬間、景色が切り替わる。
そこは、今までいた住宅街と全く同じ——否。空は赤黒く、不気味な雰囲気へと変わっていた。
「ここは……、間界……!?」
祈闘が驚き、言葉を洩らす。
「これは……、選定者の仕業か……」
萄越が、神社の方を振り向く。
しかし、すぐさま祈闘の方に向き直る。
「まぁいい。所詮奴は手出しできん。そういうシステムだからな」
「どうやら選定者殿が間界へ飛ばしてくれたようですね。しかし……」
祈闘は僅かに安堵したものの、すぐさま気を張り直す。
民間人を巻き込む心配は無くなった。けれど、自身が死ぬ可能性は未だ消えてはいないのだ。
増援が来るまで耐え凌げるか。そんなことを考えていると、大幣を掴む手が汗ばむ。
しかし——
「いえ、それは愚考、ですね」
できるかどうかは関係ない。ただやる。それだけだ。と、意識を改めて、祈闘は構え直す。
「へぇ、あなた、いい目をするんですね」
黒百合は、相変わらず余裕気な表情のまま変わらない。
「なら——」
再度構える黒百合。その体からは、膨大な魔力が満ち溢れる。
「少し遊んであげましょう!」
黒百合が右手を突き出す。と同時に、黒百合の影がゆらめき、影龍が飛び出す。
「祈闘神楽——」
飛び出した影龍は一体。迎撃するために、祈闘が腰だめに大幣を構える。
「【須佐男ノ祓い】!!」
全力で体全体で回転し、コマのように回転して影龍の突撃をいなす。
方向をずらされた影龍は、近くの住宅へと突っ込み、崩壊させていく。
「ぐっ……!なんて威力……!」
たったの一撃で痺れる手を庇いながら、祈闘は動き出す。
一箇所に留まっていれば、すぐに耐えきれなくなる。そう考え、走り出した。
「さぁ、次の攻撃ですよ!」
黒百合が、今度は先程放った魔力塊を連続で打ち出す。
祈闘は住宅を壁にしながら、それを、一つ二つとまた避けていく。
「あっ、はははっ!」
黒百合は笑いながら破壊の限りを尽くしていく。
家屋が次々に倒壊し、祈闘は追い詰められていく。
しかし、祈闘もただではやられない。
黒百合の近くの家屋が倒壊し、粉塵が巻き起こった。
それにより、僅かな間、黒百合の視界が悪くなる。
その一瞬を見計らって、祈闘は黒百合の背後をとる。
「せやぁっ!」
全力の殴打。黒百合の背中にクリーンヒットが刺さった。
「だからぁ」
が、黒百合には大した効果は無かった。
「無駄ってわかってるんでしょっ!!」
黒百合の、その有り余る魔力によって強化された肉体は、まるで弾丸の如く祈闘を襲う。
「ぐっ!?」
大幣を盾にして、受ける祈闘。それでも、受け切ることができず、何十メートルも吹き飛ばされる。
「ご、ほっ、……はぁ、はぁ……!」
よろめきながらも立ち上がり、祈闘は黒百合を睨みつける。
「へぇ……。まだそんな顔ができるんですね。……でもぉ——」
黒百合は笑う。祈闘の惨状を見ながら。
「ギリギリのところで致命傷は避けてますけど、もうそろそろ、限界なんじゃないですか?」
当たっていた。すでに祈闘の体はぼろぼろだった。上手く誤魔化してはいるが、至る所に怪我を負い、出血もしていた。
もはや勝ち目など、増援を待つほどの余力など無かった。
それでも、笑う。精一杯の強がりを込めて。
「まだ私の本気を見てもいないのに、もう勝った気ですか」
「なんですって?」
黒百合の顔が僅かに曇る。
「私が本気を出したら、あなた程度、一瞬ですよ」
虚勢と、空元気で、黒百合を挑発する。
「…………言うじゃないですか」
その挑発は、黒百合の逆鱗に触れた。
選定者及び魔道具は、民間人への被害や、自身の危険を除き、他者へ介入することを禁じられています。そのため、民間人への被害を防ぐために間界に転移させることはできますが、戦闘に参加することはできません。
とはいえ、ある程度は選定者の判断で介入できるようです。




