第八十二話 切り拓かれし才覚
薔薇の技と、星詠たちの魔術がぶつかり合い、爆発が起こる。
さぁ、これできっと優奈さんから狙いが変わったはずだ。
後はその隙に星詠たちを倒す!
俺は、星詠たちの影のうち、四元の影に近づく。
まずは一体!
俺が、そう考えながらナイフを振りかぶった時、爆発によって起こった煙幕が晴れる。
星詠たちは、奇襲してきた俺に気づき、咄嗟に反撃する。
「くっ!」
いくつかの攻撃を受けつつも、転がるように避ける。
「くそっ!一歩遅かったか!……でも!」
でも、このまま行けば勝てる!優奈さんを狙われては後手に回るしかなかったが、薔薇が注意を惹きつけてくれるのであれば、こちらから攻められる!
そう、考え、再び星詠たちを攻撃しようと動き出した時、刀也が呟いた。
「何か、星詠たちの動きが変じゃないか……?」
刀也がそう言うので、俺も星詠たちの動きを改めて注視する。
こちらを警戒してはいる。そして、別の方向にも意識が向いているように思う。
そ の 方 向 は ——
俺は、瞬時に理解した。奴らは、未だ優奈さんを狙っていることを。そして、思考するために俺が攻撃を止めたために、隙ができたと判断したことを。
俺は、咄嗟に叫んでいた。
「まだ狙われている!!」
「「「っ!?」」」
薔薇も、操蛇さんも、優奈さんでさえも、星詠たちの狙いが移っていなかったことに驚く。
そして、星詠たちはそれぞれの魔術を発動し、優奈さんを狙う。
どうしてまだ優奈さんが狙われている!?
優奈さんまでの距離は? 何秒でたどり着ける?
あの数の攻撃を防ぎ切れるか?
早く、早く追いつかないと。
また、誰かを死なせるのか?
頭の中を、様々な思考が駆け巡り、ぐちゃぐちゃになる。
加速していく思考は、世界をスローにしていって、複雑な思考が一本の思考へと単純化されていく。
俺の力だけじゃ間に合わない。優奈さん自身に、手を伸ばしてもらわなければ。
「優奈さん!強化を!!」
つい心の中での呼び名が出てしまう。だが、そんなことはどうでもいい。
「! 【瞬間強化】っ!」
攻撃が迫る中で、優奈さんはほとんど反射で俺にさらなる強化を施す。
これで、間に合うか?——間に合ったとて、どう助ける?
一つ二つの攻撃は防げるだろう。しかし、全ては無理だ。
では体で庇う?——確実に俺は死ぬだろう。リスポーンする羽目になるが、それでも——
瞬間、頭の中に浮かぶのは、そんな甘い思考の犠牲となった仲間の最期。
リスポーンすればいい。……じゃ、ないだろ!!
最後まで抗え、抗って抗ったその先にこそ!真の終わりがあるんだろ!
自身への怒りで、さらに思考を加速させる。
どうする?もう少し、あと少し距離が縮まれば、万全の状態で優奈さんの元に駆けつけられれば、攻撃を防ぎ切れるのに!
そこまで考えた時、俺は、あることに気づく。
距離、つまりは空間。それは、この眼に見えている。
で、あれば、切れるんじゃないか?
形の無いものを切る。それはすでに、魔術や未来を切ったことでできると知っている。
ならば、俺ができると信じれば、俺がそこに在ると理解すれば、俺の、黒峰刀也の魔術は応えてくれるんじゃないか?
仮説はできた。あとは、実証するだけだ。
俺は、ナイフを振るう。ただ雑に振るうのではなく。肩や腕、指先の一本一本に至るまで意識を集中させて振るう。
切るのは、俺と優奈さんの間に在る空間。
半個体の物体を切るように、ズブリとナイフを刺しこんで、一気に切り裂く。
すると、空間が、捻じ曲がった。
ナイフで切り取られた空間は、どこかへと消え失せ、間を埋めるかのように、周りの空間が、たわみ、引き寄せられる。
俺と優奈さんの距離は瞬時に無となり、俺は、優奈さんの目の前へと辿り着く。
「お、あああああっ!!」
そして、優奈さんを狙う攻撃を、全てはたき落とす。正確には、いくつか体で受けたが、問題無く再生できるレベルだ。
「「「っ!?」」」
一瞬にして起こった出来事を理解した優奈さんたちは、声も無く驚く。
星詠たちを見ると、相変わらず表情は読めないが、心なしか、驚いているように思う。
これはきっと、本来この時点の黒峰刀也では辿り着けない場所だ。
優奈さんとのルート、祈闘さんとのルート、そしてさらに、今回のルートでの、これまでの戦い。いくつもの死線を乗り越えてきたからこそ、辿り着けたのだろう。
俺は、改めてナイフを構え星詠たちを睨みつける。
「さぁ、もう終わりにしよう」
俺は、星詠たちから視線を逸らさず、薔薇と操蛇さんに向かって頼み事をする。
「薔薇、操蛇さん。俺が星詠たちを倒すので、魔使さんを守ってくれませんか?」
「それはいいが……」
「一人で大丈夫なのかい?」
操蛇さんと薔薇が、承諾しつつも、こちらを心配する。
今の俺ならきっと一人で星詠たちを倒せる。
しかし、それは俺が一人なら、だ。優奈さんを守りながらでは難しいだろう。
だから、こう答える。
「はい。俺の方は何も心配ないので、頼みます」
そう言って、俺は星詠たちに向かって駆け出した。
星詠たちがこちらを狙って魔術を発動する。
どれも強力だ。いかにこの体とて、そう何発もくらえない。
だから、空間を切る。空間を切って、捻じ曲げて、攻撃の軌道を逸らす。全ての攻撃が俺の側をギリギリで通り過ぎる。
なんとなく掴めてきた、この魔術の感覚!
今の俺の顔を誰かが見れば、きっと笑っていると気づいただろう。
口角が、自然と上がるのを感じていた。
星詠たちの手前で俺は、大きく跳び上がる。
自殺行為?いいや、今の俺なら、どんな攻撃も当たらない!
当然、星詠たちは跳び上がった俺を、蜂の巣にするべく狙う。
しかし、その攻撃は全て逸らされる。
「そろそろ眠れ!」
俺は、とうとう、四元の影を切り裂いた。
魔術が解けて、消える四元の影。
こちらに振り向いた星詠の影と呪禍の影が魔術を発動する。
しかし、魔術が発射される前に、俺は空間を切り裂き、呪禍の影の背後に移動する。
「はぁっ!」
呪禍の影を切り裂き、影は消える。
星詠の影が、今度こそこちらを殺すために、魔術を発射する。
そうだ、この魔術に名前を付けなくちゃ。
俺はそんなことを考えながら、ナイフを振るった。
この、魔術の名前は——
「【空間切断】」
俺の正面の空間が切り裂かれ、空いた空間の穴に星詠の魔術が全て吸い込まれる。
穴が閉じる頃には、全てのデブリが発射し切られ、無防備に立つ星詠の影がいるだけだった。
そして、俺はそんな星詠の影に向かってナイフを振るった。
影は消え、そこにはもう、何も残っていなかった。
そんな、何も無い空間に向かって俺はただ一言。
「俺の……、勝ちだ」
そう、告げた。




