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第八十一話 影帽子

黒百合の放った刺客。黒百合に敗れた七大魔家の当主たちとの戦いが始まった。


「全員散らばれ!固まれば的になるぞ!」

 操蛇さんの号令で俺たちは散らばる。


 すると、俺たちが動いた一瞬後に、俺たちのいた場所に攻撃が降り注いだ。


 ほんとうにどうなっているんだ!?あの攻撃、確かに星詠たちの魔術にそっくりだ。


「どわっ!?」

 俺が驚いていると、すぐさま四元の影?から攻撃が飛んでくる。

 俺は、どうにか攻撃を避けながら思案する。


 少なくとも、星詠の死亡は確認されている。四元と呪禍も、ほとんど死んだことは確かだろう。


 そうなれば、あの影たちは、やはり、死人を真似ていることになる。


 黒百合は分身を作り出す能力があった。もしかしたら、その能力で、取り込んだ星詠たちを再現した分身を作ったのかもしれない。


 ほんとうに星詠たちの能力を全て再現できているのならかなりまずいぞ……!


「いや、待てよ」

 そこで俺は気づく。もし、もしもあの影が、黒百合が魔術で作った分身なら、俺がその魔術ごと切れば即座に倒せるんじゃないか?


「よし、そうと決まれば!」

 俺は、一旦逃げるのを止め、こちらを狙っていた四元の影に向き直る。


「刀也!?何を!?」

 俺の動きを見て、薔薇が叫ぶ。


 薔薇の叫ぶは気にせず、俺は優奈さんに向かって叫ぶ。

「魔使さん!強化を!」

「!……わかったわ!【瞬間強化】!」

 優奈さんの魔術により、俺の身体能力がさらに強化される。


「いくぞ!」

 俺は眼鏡を外しながら、四元の影へ向かって走り出す。


 四元の影は何も言葉を発さず、ただこちらに右の手のひらを向ける。


 四元の影の背後に、百を超える火の矢が生み出される。

 そして、全ての火矢が、列をなしてこちらに襲いかかる。


「はぁぁぁっ!」

 飛んでくる火矢をはたき落としながら四元へと近づいていく。


 そして、とうとう四元の影の正面まで辿り着いた。

「ここで決める!【(マジック)……っ!」


 しかし、俺が四元の影を【魔切断(マジック・ディバイド)】で切ろうとした瞬間、左右からスペースデブリといくつかの黒い小さなかたまりが飛んできた。


 まずい!避け切れるか!?

 俺が死を覚悟した瞬間、体が、強く後ろに引き寄せられた。


「無理は禁物だよ、刀也」

「薔薇!」

 薔薇がすんでのところで、俺を触手で絡め取ってくれたらしい。


 薔薇が俺に耳打ちする。

()()が死ぬのはどうでもいいけど、刀也の体を傷つけたら絶対に許さないからな」

 怖いよ!一応味方だろ!


「なんか、すまんな。うちの薔薇が……」

 刀也も少々呆れているようだった。


 一連の流れを見ていた操蛇さんが呟く。

「それにしても厄介だな。一人を狙おうとすれば、他の二人が狙ってくる。となると奴らを倒すには……」


 薔薇が操蛇さんの言葉を繋げる。

「全員同時攻撃、だね」


 それは、こちらが完全に息を合わせなければならない作戦だ。二人までならともかく、三人となると非常に難しいだろう。


 それでも、それしか方法は無さそうだ。

「じゃあ、いくか」

「そうだね」

 俺と薔薇は一瞬視線を合わせた後、別の方向に走り出す。


「流石に当主相手なら出し惜しみはできないね」

 薔薇の体が変化し、背中に翼が生える。

 いつか見た、(ドラゴン)の力を宿した姿だ。


 またも、星詠たちの攻撃を避け続けるターンに入る。

 攻撃を避けて避けて、避け続けながら、機を狙う。


 数分ほど、攻撃を避けた後、とうとう、機会がきた。

 操蛇さんが叫ぶ。

「全員、攻撃!」

「Gyau!」「はい!」「ああ!」

 水蛇が、俺が、薔薇が、一斉に攻撃を仕掛ける。


 操蛇さんによって強化された水蛇、優奈さんによって強化された俺と薔薇。みんなの攻撃が星詠たちに刺さる……かのようの思われた。


 星詠たち全員から、黒い魔力が爆発する。

「ぐっ!」「がはっ!?」

 近接攻撃を仕掛けた俺と薔薇は魔力の爆発によって吹き飛ばされる。


「ぬぅ!」

 水蛇の攻撃も、魔力の爆発によって防がれたようだった。


 あぁ……くそっ!すっかり忘れていた!こいつらは結局のところ星詠たち本人じゃない!


 黒百合の分身なんだ!どこまで魔力を分け与えられているかは知らないが、星詠たちが使っていた魔術以外を使ってきたって何もおかしくない!


「しかしどうする?そう何度も使えるとは思わないが、あの魔力の爆発は厄介だぞ」

刀也の言葉は最もだ。魔力が尽きるまで戦い続ける?いや、それは流石に悪手だろう。


 先程はあまり手酷い被害は受けなかったが、もう一歩踏み込んでいれば、かなりのダメージを負ったはずだ。


 次そうならないとは限らない。何か、何か作戦を立てる必要がある。


 そこまで考えた時、俺は星詠たちの様子がおかしいことに気づく。


「どこ見てるんだ……?」

 薔薇も、星詠たちの様子がおかしいことに気づいたようだ。


 星詠たちは全身が真っ黒で、その表情などはわからない。しかし、なんとなくではあるものの、どこを見ているのかがわかるようになってきた。


 そして、その先に居るのは——

「魔使さん?」


 星詠たちが、一斉に優奈さんに向かって右手を向けた。

「「「っ!」」」

 その場にいる全員が、理解した。星詠たちが、唐突に、優奈さんに標的を変えたことを。


「全員、優奈を守れ!」

 操蛇さんが叫ぶ頃には、すでに俺も薔薇も駆け出していた。


 星詠たちが一斉に攻撃を飛ばす。

「はぁっ!」「せやぁっ!」

 俺と薔薇で、どうにか攻撃を防ぐ。しかし、星詠が放ったデブリが、一つ、抜け出てしまった。


 まずい!間に合わ——

「【氷白盾】!」

 優奈さんの前に、氷の盾が生み出され、間一髪、攻撃を防ぐ。


「どうにか、間に合ったか」

「お父様!」

 よかった、どうにか操蛇さんが防いでくれたか。


「でも、どうして急に……?」

 優奈さんが、唐突に自分が狙われたことを疑問に思い呟く。


 そうだ。先程までは、それぞれが俺たちを狙っていたはずだ。

 それなのになぜ急に優奈さんを?


 すると薔薇が呟く。

「消費魔力……かな?」

「何だって?」

 俺は薔薇に尋ねる。


「魔使優奈が今までとさっきで変わったもの……っと!」

 薔薇が、攻撃を凌ぎながら説明する。


「それは、消費魔力くらいでしょ」

「はっ!……まぁそうだな」

 消費魔力。つまりは優奈さんが、俺たちを強化したことで、大量に魔力を消費した。


 それにより、星詠たちの標的順位が入れ替わったってことか。


「使い魔の強化にはそれなりの魔力を使う。それが二人分となれば尚更だ」

 操蛇さんが説明を補足する。なるほど、確かに毎度、使い魔を強化する時、それなりの魔力を消費していたように思う。


 それで、優奈さんが狙われたのか。

「だがどうする?優奈さんが狙われたままじゃ、結局星詠たちを攻撃できないだろう」

 そうだよなぁ。刀也の言う通り、このままじゃ星詠たちに攻撃できない。


 現に、今は攻撃を防ぐことしかできない。

「刀也、魔使殿、少しだけ防御を任せてもいいかい?」

 薔薇が、そう提案する。


「あの【龍の咆哮(ドラゴン・ブレス)】とかいう技を使う気か?」

 操蛇さんが薔薇に尋ねる。


「えぇ、あの技の消費魔力なら、こちらに標的を移せるはずだ。そうしたら、まだ攻撃しやすいだろう?」

 それは確かにそうかもしれないが……。


「いいのか?それはつまり、お前が囮になるってことだけど……」

 俺は思わず薔薇に尋ねる。


「いいんだよ、なんせ今の僕は、魔使優奈の使い魔だからね」

「そうか。じゃあもう何も言わないよ。頼んだ」

「あぁ、任せてくれ」


 そう言って、薔薇は魔力を溜め始める。

そこに、星詠たちの攻撃が飛んでくる。


「っ、はぁっ!」

 俺は薔薇にも優奈さんにも攻撃が飛んでいかないように防ぐ。


「させるものか!」

 操蛇さんも二人を守るために全力を賭す。


 そして、とうとう、薔薇が魔力を溜め終える。


「さぁ、いくよ、【龍の咆哮(ドラゴン・ブレス)】!」

 薔薇から熱線が放たれる。


 同時に、俺たちは散開して星詠たちを狙う。


 星詠たちは迫る熱線を前に魔術を展開し、相殺しようとする。

 熱線と、デブリと、火矢と、小黒物体が衝突し、爆発が起こった。


 しかし、俺たちは気づいていなかった。いや、気付けるはずもなかった。

 この、重大な見落としに。

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