第八十話 ボスラッシュ
黒百合の宣戦布告を受け、俺たちは再び作戦会議をすることになった。
全員が席についたことを確認し、操蛇さんが会議を始める。
「黒百合が宣戦布告……というよりは犯罪予告だな。をしてきたわけだが、どうにも腑に落ちん。狙いは何だ?」
そう。それは、黒百合の宣戦布告を聞いた全員が思ったことであろう。
はっきり言って、今の黒百合は最強と言っても過言ではないだろう。
そんな奴が、わざわざ刺客を用意して、俺たちが指定の場所に来なければ一般人を殺すと脅してきた。
それになんの意味があるのか不明なのだ。
すると、刻が口を開く。
「あるとすれば、時間稼ぎか陽動。もしくは両方かな?」
「お前もそう思うか」
操蛇さんが刻の言葉に同意する。
黒百合は、わざわざ三日後を指定した。これは時間稼ぎの可能性がある。
そして、用意したという刺客。黒百合本人ではなく刺客を用意したというのは陽動の可能性がある。
二人はそう言いたいのだろう。
そこへ薔薇が疑問を呈する。
「けど、その予想が当たっていたとして、結局狙いがわからなくない?今の百合ならそんな小細工する必要が無いんだからさ」
薔薇の言葉により、またもや全員が黙り込んでしまう。
時間稼ぎも陽動も、結局は本来の目的のために行う行動だ。
ならば、その行いの先には別の目的がある、はずなのだが……、それが何かわからない。
全員が考え込む中、祈闘さんが口を開いた。
「黒百合は魂を取り込み、魔力を、自身を強化するのが主目的なのよね?」
「うん。そのはずだよ。今の百合は、ほとんど不死と言ってもいい。あとは、自身を強化していくだけで最強になれるだろうからね」
祈闘さんの疑問に薔薇が答えた。
「それなら、大きな魔力を取り込むことが、狙いなんじゃないですか?」
祈闘さんの言葉に、操蛇さんと刻さんがハッとした表情をする。
大きな魔力?——まさか!
一瞬遅れて、俺も祈闘さんの言葉の意味に気づく。
「大きな魔力?何のこと?」
優奈さんは祈闘さんの言葉の意味がわからず、質問する。
操蛇さんが、優奈さんの質問に答えるように呟いた。
「決議優勝の褒美、魔道具に貯蔵された魔力か」
「「っ!?」」
操蛇さんの言葉を聞き、薔薇と優奈さんが驚く。
「魔道具に貯蔵された魔力!?そんなのがあるの!?」
優奈さんは声を大にして尋ねる。
それが知らされているのは決議に参加した者、正確には七大魔家の当主だけであるため、優奈さんと薔薇には驚愕の情報だろう。
しかし、そうか、確かに魔道具には大量の魔力が貯蔵されている。
それを黒百合が取り込めば、ただでさえ強い黒百合が、さらに強化されることだろう。
であれば、今回の宣戦布告は、魔道具を狙うための用意をするための時間稼ぎであり、魔道具を狙うことを察知されないための陽動なのだろう。
そこまで考えた時、俺はふと疑問が湧く。
そして、俺と同じことを考えたのか、刻が疑問を尋ねる。
「だが、それは決議の優勝者への特典だろう?決議の参加者ではない黒百合が取り込めるのかい?」
そうだ。俺も同じことを考えた。魔力は魔道具に貯蔵されているとはいえ、何も、コップに注がれているジュースではないのだ。
決議に優勝せずに、無理やり取り込もうとしても、魔道具が壊れたりするだけなのではないか?
「確かにそうだな。結局はこれもただの憶測だ。案外、奴は遊んであるだけかもしれんしなぁ……」
憶測。推測。証拠も何も無い、ただの当てずっぽう。
現状確かなのは、三日後に、誰も指定場所まで行かなければ、一般人が巻き込まれるということだ。
操蛇さんが唸りながら言う。
「むぅ……。仕方あるまい。奴らの目的を考えるのはひとまず辞めだ。黒百合が放つという刺客について考えなければ」
黒百合の刺客。一筋縄ではいかない相手だろう。
相応の実力者が行くべきであろうが、どうするか……。
「ひとまず、指定の場所には私が行こうと思う」
操蛇さんがそう打ち明ける。
そこに、優奈さんが反論する。
「まさか一人で行く気ですか!?危険です!」
「しかし、黒百合の狙いを探ることも大切だろう?あまりこっちには人手を割けんぞ」
「っ……!」
優奈さんの反論を、操蛇さんはさらに正論で返す。
それにより、優奈さんは言葉に詰まってしまう。
「だったら!」
と、優奈さんはさらに言葉を捻り出す。
「私達も一緒に行きます」
「っ!それこそ危険だ!」
優奈さんの言葉に、操蛇さんが強く反応する。
「私は、私達は、魔術師です。お父様も、それは認めたはずでしょう?」
「しかしだな……」
操蛇さんは言葉を濁す。
ここは助け舟を出すとするか。
「俺も、俺たちがついていくことは賛成です」
「黒峰刀也……!」
「黒百合が放つ刺客の強さは未知数です。ここであなたを失うことはかなりの痛手になります。多少人手を割いてでもここはみんなで向かうべきです」
俺がそう言うと、薔薇も追随する。
「刀也が行くなら僕も行くよ。それに、僕らのご主人様は行く気のようだからね」
操蛇さんは再び優奈さんを見て、ため息をつく。
「はぁ……。そうだな。ここは確実に刺客を倒すべきだな」
「じゃあ!」
優奈さんが操蛇さんの言葉を聞いて笑みをこぼす。
「あぁ、お前達、力を貸してくれ」
こちらの話がまとまったと見て、祈闘さんが割って入る。
「では、こちらは黒百合の目的を探るとしましょう」
「やれやれ、重傷だってのに、休めそうにないね」
こうして、俺たちの作戦が決まった。
三日後
あの後、俺たちは一旦家に戻り、間界の東神高校を目指すことにした。
間界とはいえ、東神高校のある場所なので、家からすぐそこだ。
時刻は午後一時。すでに刺客は高校にいることだろう。
俺たちは現実世界の東神高校前で操蛇さんと合流し、間界へと入る。
間界 東神高校
少しばかり広めのグラウンド。その中心には三つの影が存在していた。
影とは文字通りの影であり。かろうじて人の形はしているとわかるが、全身が真っ黒で、影としか形容できない存在だった。
「あれが黒百合の放った刺客……!」
俺はその影を見て言葉を漏らす。
「あの人影、妙に見覚えがあるような……?」
操蛇さんが刺客を見た感想を漏らす。
確かに、言われてみれば、見覚えがある。
誰だ?俺にはあんな真っ黒な知り合いはいないはずだが……。
「ひとまず近づいてみようか」
薔薇の言葉により、俺たちは刺客に近づいていく。
俺たちと刺客の距離が二十メートルほどになった時、刺客が突然動きだした。
刺客のうち、真ん中の奴が右手をこちらにかざす。
すると、刺客の背後に窓が現れ、そこから、隕石が飛び出した。
「「「っ!」」」
俺たちは咄嗟にそこから飛び退き、回避をする。
幸い、回避に成功し、俺たちは無傷だった。
しかし、今の攻撃はあまりにも見覚えがあった。
「今のは……星詠の……!?」
操蛇さんが、驚愕する。
そう。それは、間違いなく星詠の使っていた【星見】の魔術であった。
刺客の一つは再び窓を展開する。
星詠のような影の右の刺客が炎の矢を展開する。
「今度は四元の……!」
次は、左の刺客が小さな黒い物体を複数展開する。
「ならばあれは、まさか呪禍の……!」
黒百合の放った刺客。それは、黒百合に挑み破れた七大魔家の当主たちであった。




