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第七十九話 宣戦布告

翌日

 術木家別邸で一夜を過ごした俺たちは、改めて集まり、作戦を練ることにした。


 全員が席に着いたことを確認した操蛇さんが、会議を始める。

「それでは、改めて作戦会議をしようと思う。まずは、術木薔薇、貴様は何やら案があるようだったが、刻の話を聞いてもそれは可能そうか?」


 その場の全員が薔薇の方を見る。僅かな沈黙。そして、とうとう薔薇が口を開いた。


「可能がどうかで言えば、まぁ、可能だよ」

 薔薇以外の全員がどよめく。本当に可能なのか!

 正直、刻の話を聞いた時は、もう無理なんじゃないかと思ったが、どうやらまだ希望はあるらしい。


 けど、薔薇は加える。

「けど、はっきり言って、難易度はかなり上がっているよ。なんせ、僕の妹は今、かなりの化け物になっているようだからね」

 かなり上がっているのか……。しかしまぁ、それはしょうがないことだろう。

 それに、言ってしまえば、ハードモードがベリーハードモードになっただけども言える。


 やらないという選択肢は無いのだから、後はどうこなすかというだけだ。


 俺がそんなことを考えていると、操蛇さんが、薔薇に質問する。

「それで、貴様が考えている作戦はどのようなものなのだ?」

「うん。それはだね……」

 薔薇が、一瞬こちらをちらりと見る。なんだ?俺がどうかしたのだろうか。


 そして、薔薇は衝撃の作戦を話す。

「百合の体に宿っている禁忌の魔物を刀也に吸い取らせる。それが、僕の考えた作戦だよ」

「「「…………は?」」」

その場のいる、薔薇を除いた全員の声が重なった。


 禁忌の魔物を、俺に吸い取らせる?何を言っているんだこいつは?


「禁忌の魔物は確か、術木家が秘奥によって呼び出す魔獣の呼称だったか。それを黒峰刀也に吸い取らせる!?何を言っているのだ貴様は!?」

 操蛇さんも、俺と同じことを思ったらしい。いや、薔薇以外、全員が同じことを思ったであろう。

 それほどに、薔薇の言い放った作戦は意味のわからないものであった。


 薔薇が、改めて作戦の詳細を話し始める。

「はっきり言ってね、今の百合を、黒百合を正面から倒す方法は無いと言っていい」

 誰もその言葉には反論しない。それほどまでに、今の黒百合は強大だった。


「でも、倒すのではなく、無力化する。百合を元に戻すことであれば、可能なはずだ」

 倒すのではなく無力化?いや待て、確か薔薇は、俺に禁忌の魔物を吸い取らせると言った。まさか……!


「どうやらみんな気づいたようだね。そうだ。刀也には黒百合と接触し、禁忌の魔物を取り込んでもらう。そうすれば、百合を元に戻せるはずだ」

「いやいやちょっと待ってくれ!」

 俺は、薔薇の言葉を聞いて反論する。


「なんか俺が禁忌の魔物を取り込めるみたいな前提で話しているけど、そんなこと、したことないぞ!?」

 確かに俺の体は、黒峰刀也の体は、禁忌の魔物、その残滓が入り込んだことで、擬似的な命を宿しているが、だからといって、そんな芸当できるはずがない。


「刀也」

 薔薇が、冷静で、嗜めるかのような声でこちらを呼ぶ。


「できるできないじゃない。やるんだよ。できると思えば、案外、魔術ってのはどうにかなるもんだよ」

 そんな適当な……!


 俺が戸惑っていると、祈闘さんが薔薇に尋ねる。

「先程、黒峰さんにやってもらうと言いましたが、それは黒峰さんにしかできないことなのですか?」

 祈闘さんの疑問は当然だ。しかし、この中で誰ができるかと言えば、やっぱり俺なのだろう。

 それを、薔薇が説明する。


「それはだね。刀也の肉体の秘密が関わっているんだ。……話してもいいかい?」

 薔薇がが俺の方を見て尋ねる。まぁ、ここは話すしかないだろう。俺は、こくりと頷いた。


「前回の決議に参加した、魔使操蛇と刻 印ならわかると思うけど、前回の決議の時、術木家が禁忌の魔物を呼び出し、決議を荒らした」

「そうだな」「覚えているよ」


 薔薇の言葉に、操蛇さんと刻が答える。


「その時に、刀也は近くにいたらしくて、一度死んだんだろう?」

「「「っ!?」」」


 薔薇がこちらに尋ねた質問に、みんなが驚く。そう言えば、別に薔薇に話したわけでもないのに、普通に話し始めていたな。

 あまりにも自然で違和感すら覚えなかったが、薔薇自身、推測だったのか。


「で、でも、黒峰くんは生きてるじゃない!?」

 優奈さんが反論しつつ尋ねる。


 今度は、俺が答える。

「いえ、戦いの余波で、俺は一度死にました。けれど、そこで終わりじゃなかった。倒された禁忌の魔物の肉片が、間界中に飛び散り、その一つが、俺の死体と合わさって、擬似的な命になったんです」

「「「…………!」」」

 薔薇以外の全員が、言葉を失う。


 この話をすると、決まってみんな言葉を失うからなぁ。

 まぁ、死んだ人間が蘇るなどという、とんでもない話なのだから、仕方がないことだが。


 操蛇さんが呟く。

「なる……ほど。つまり、一度禁忌の魔物を取り込んだ黒峰刀也であれば、黒木百合に宿る禁忌の魔物を取り込めると考えたわけだな」

「そういうこと」

 薔薇がやや得意気に答える。


 しかし、すぐに顔を曇らせる。

「でも、できるとしたら、刀也が黒百合に接触する必要があるんだよねぇ。正直、大人しく接触させてくれるとは思わないけど」

 確かに……、まだ可能かどうかも定まっていないが、薔薇の言うように、できると思えば、できるとしよう。

 その上で、黒百合にそう簡単に接触できるかと言えば、難しいだろう。


 俺たちが悩んでいると、操蛇さんが呟く。

「となると、まずは奴らの居場所を突き止めるところからだな……」

 結局のところ、なるようにしかならないのだ。だから、まずは行動に移すべきか。


 その時であった。

「「「っ!?」」」

 早速、俺たちが行動に移そうとした時、膨大な魔力が感じ取れた。


「なんだ、この魔力は!」

「まさか、この魔力は……!」

 刻が魔力の持ち主に気づき慄く。俺もこの魔力のは覚えがある。


「外へ出ましょう!」

 祈闘さんの呼びかけで、俺たちは外へと出た。


 俺たちは扉を開け、外へと出る。

 その時、先頭にいた祈闘さんの横を何かが通りすぎた。


 その何かは壁へと衝突し、地面に落ちる。

 そして、俺たちはその何かの正体を知り、言葉を失う。


「がふっ!……旦那……様。申し……訳、ありません」

「侍郎!」

 それは、魔使家の執事、魔使侍郎であった。使い魔のシャドーごと、壁に叩きつけられ、重傷を負っていた。


「誰がこんなことを……!」

 優奈さんが呟く。誰が?そんなことは決まっている。


 俺は、庭に佇む下手人に向かって叫ぶ。

「黒百合ぃ!」

「黒百合?それって私のこと?……まぁ、いいわ。会いに来たわ、先輩」


 会いに来た……だと?今?いや、おそらく狙いはこの場にいる者たちの魂。それらを喰らうことで、己をさらに強化するつもりか!


「戦いに来たのか?」

 俺は、黒百合に質問する。


()()は違うわ。今回は、()()()()に来たの」

「宣、戦……、布告?」

 俺は、黒百合の言葉をオウム返しにする。


「えぇ、今日から三日後、間界の東神高校に、刺客を放つ。午後三時まで誰も来なければ、刺客は間界を出て、一般人を殺戮する。先輩たちならもちろん来ますよね?」

「ふざけるな!そんなこと、させるわけがないだろう!」

 俺は、全身に魔力を漲らせる。


「魔使さん!強化を!」

「!【身体強化】!」

 優奈さんの強化により、俺の身体能力はさらに強化される。


 今、ここが、絶好のチャンス!ここで止めれば終いだ!

 俺は、風のような速度で走る。


 黒百合との距離など、一瞬で詰め切る。

 その時、黒百合が呟いた。


「言い忘れてたけど、()()、分身なの」

「っ!」

 俺が黒百合に触れようとした瞬間、黒百合が消える。

 まるで、影に沈み込んだかのように消えてしまった。


「くそっ!逃げられた!」

 俺は強く拳を握りしめる。そう簡単にはいかないか……!


 操蛇さんが俺に声をかける。

「黒峰刀也。一旦戻れ、また作戦を練らなければならない」

「はい。わかりました」

 俺はみんなの元へと戻っていく。


 一般人の殺戮?そんなこと、絶対にさせるものか。

 俺は強く決意した。

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