第七十八話 君が信じると言うのなら
「…………え?」
薔薇の衝撃の一言により、俺は言葉を失う。
気づいた!?どうやって!?いつ!?
駆け巡る思考。刹那の混乱。
しかし、数秒が経過した時、俺は冷静になる。
そうだ。そもそも、今まで気づかれなかったのがおかしかったんだ。
父さんも姉さんも俺が黒峰刀也ではないと気づかなかった。
……少なくとも、指摘することは無かった。
それがおかしい状況だったのだ。交友の無かった優奈さんや祈闘さんなら兎も角、黒峰刀也をよく知る人が、気づかないはずがないのだから。
そして、とうとう、黒峰刀也と交友のある人——術木薔薇に気づかれたというわけだ。
「なんで……、わかった?」
ひとまず俺は、なぜ気づいたのかと薔薇に問う。
「そう答えるってことは、やっぱり君は刀也じゃないんだね」
「っ!?」
しまった!まだ確信は持っていなかったのか!?
……いや、ここで聞かれたのならば、いつかは確信を持たれていただろう。
だから、それが早いか遅いというだけの話。なので、俺は素直に認めることにする。
「あぁ、俺は……、……っ!?」
俺は自分は黒峰刀也ではないと答えようとする。
しかし、その言葉が声になることはない。
「声が……!?」
なんだ!?喋れなくなったんじゃない!俺が炎上寺心也だと、黒峰刀也ではないと声にすることができない!
「?急にどうしたんだい?」
突然挙動不審になった俺を訝しむ薔薇。
「はぁ、はぁ……。何かが、俺の正体を伝えるのを邪魔してるみたいだ。声に出そうとすると喋れなくなる」
俺は今起こったことを薔薇に伝える。しかし、こんなことを信じてくれるだろうか?
正直、逆の立場なら絶対に信じたりしないのだが……。
すると、喉元にナイフが突きつけられる。
——否。それは、喉元にナイフが突きつけられたと勘違いするほどに鋭利な殺気。
薔薇が、今まで聞いたことが無いほどに、冷たく、低い声で言う。
「そんな、言葉を、信じるとでも?」
薔薇の手は鱗で覆われて、すぐにでも俺に攻撃できるように準備していた。
俺は必死になって叫ぶ。
「待て!本当に喋れなくなっているんだ!信じてくれ!」
「話す気が無いなら、話す気になるまで君を痛めつけるまでだ」
一歩、一歩と、ゆっくりと俺に近づく薔薇。
今にも戦いが始まりそうなほどに剣呑な雰囲気であった。
まずい……!このままじゃあまた薔薇と戦うことになる。
それは避けたいけれど……。が、どうする!?
どうすれば薔薇に信じてもらえるか、俺が全力で頭を回転させて考えていると、刀也が提案する。
「少し代わってくれるか?」
そうか、刀也に代われば薔薇も……。て、いやいやいや!そんなわけがないだろう!?
薔薇は刀也の体の中に心也と刀也の精神が入っていて、主導権は俺にあるだなんて知りもしないんだから、たとえ刀也に代わっても、信じてもらえないんじゃないか!?
「いいから代われ!」
俺が刀也に反論すると、刀也に無理やり代わられる。
刀也が無理やり体の主導権を奪えるようになってる!?
俺は、刀也の成長(?)に驚く。
体の操作権を取り戻した刀也は、薔薇に話しかける。
「薔薇、俺だ。本物の黒峰刀也だ」
いや、それで信じてもらえれば誰も苦労は——
俺は、刀也の薔薇との戦闘も覚悟する。
しかし、その覚悟は杞憂に終わる。
「そんな……。本当に刀也なのかい?」
信じたぁ!?うっそだろ!?こんな簡単に!?
まさかの展開に、俺は混乱する。
そして、薔薇が、信じたわけを話す。
「声音が20Hzほど下がって、刀也の声音になってる。腕の角度もいつもの刀也だ……!」
「…………」
……俺はドン引きしていた。人の声音をHzで判断して、腕の角度とかも覚えているのか……!?
怖い。正直言って、今まで出会った誰よりも怖い。
薔薇のことは知っているつもりだったが、どうやらそれは、深淵のほんの浅瀬だったようだ。
「そ、そうか。信じてもらえたならよかった」
刀也本人ですら少し引いてるぞ!?お前はこれを予想してたから代わったんじゃないのかよ!?
「い、いや。薔薇ならわかってくれるって信じてたから代わったんだけど、まさかここまでとは……」
刀也が俺の疑問に答える。
ま、まぁ。信じてくれたならよしということで……。
「それで、どうして君の体を君以外の奴が動かしていたんだい?」
薔薇が、ひとまず落ち着いたのか。次の質問をする。
まぁ、そりゃあ聞くよな。さて、どう答えたものか……。
俺が、この世界はゲームの世界だということや、リスポーンのことなどを、伝えるか否か、伝えるなら、どう伝えるのかを考える。
すると、刀也が口を開いた。
「この世界は……っ!だめだ……、やはり話すことができない……!」
この世界がゲームの世界であることを薔薇に伝えようとしたようだが、刀也も一部の話題を声に出せないようだ。
刀也ならもしかすると……。と、思っていたのだが、だめだったか……。
「僕じゃあ、君に全てを打ち明けてもらえないのかい?」
薔薇が、俺の時とは打って変わってしおらしくなる。
こいつは本当に、刀也が相手かそうじゃないかで態度が変わるな……。
俺が、そんな薔薇の態度に呆れていると、刀也がフォローを入れる。
「いいや違う。お前は信頼できる奴だ。でも、誰かが俺に、今の俺の状態を話せないようにしているみたいだ。兎も角、今俺はそう長くは自分で自分の体を動かせない。普段俺の体を動かしている奴は仲間だから、助けてやってくれ」
どうやら、この程度であれば、喋れるらしい。
刀也の言葉を聞いた薔薇は、様々な感情を混ぜたような顔をした。
「〜っ!〜!……刀也が、信じるって言うのなら、……わかったよ、僕もあいつを信じるよ」
「そうか。ありがとう」
はぁー!よかった。どうやら信じてくれるらしい。
これでなんとか、攻略を進められそうだ。
「心也、代わるぞ」
刀也がそう言うと、肉体の主導権が入れ替わる。
俺は、薔薇に手を差し出す。
「改めてよろしく、薔薇」
「言っておくけど、まだ君を完全に信頼したわけじゃないから、偽刀也」
ははは……、偽刀也、か。まぁ、殺されそうなほどの状態よりは一歩前進……かな?
こうして、俺と薔薇は、改めて仲間となったのであった。




