第六十九話 星の瞬き
星詠と黒百合の間に、一触即発の空気が流れる。
今にも戦いが始まるかと思われたが、星詠がある提案をする。
「……ここは人が多い。間界に移るぞ。貴様たちとて、街を破壊する趣味は無いだろう?」
星詠の提案を聞き、黒百合は目をぱちくりとさせる。
「……って、言ってるけど、どうする?お父さん」
萄越は僅かに考え込んだ後、答える。
「まさか君からそのような提案を聞くとは思わなんだが、……いいだろう。間界へと場所を移そう」
間界
赤黒い空、完全に人気の無い世界。星詠たちは、近くの路地裏から、間界へと入った。
「さて、ここであれば存分にやれる。始めようか」
星詠から魔力が噴き出す。
「えぇ、存分に」
黒百合からもまた、膨大な魔力が噴き出す。
その魔力量は、星詠の倍は軽く超えていた。
「では」
星詠が片手を上げる。すると、背後にいくつもの窓が現れる。
「死ね」
手を振り下ろす。それと同時に、三十を超える閃光が瞬く。
音速を超えて迫り来る死。しかし、黒百合は、絶大な暴力を前にしながらも、冷静に呟く。
「影槍多林」
黒百合の影が蠢く。すると、槍のような形になって、星詠が放ったスペースデブリや、隕石に衝突していく。
黒百合の目の前で爆発が起き、周囲が一時的に見えなくなる。
「っ!」
視界が奪われたために警戒をしていた黒百合が、煙の奥から何かが迫って来ることに気づく。
咄嗟に跳躍し、避ける黒百合。黒百合がその場を離れた次の瞬間、一秒前までいた場所に、星詠の放ったデブリが着弾する。
跳躍したことで、煙の範囲から逃れ、星詠の居場所も視認する。
しかし、星詠が放った言葉によって、黒百合は自身の失敗を知る。
「それも、見えているぞ」
「っ!?」
空中で停滞する黒百合。その背後には、窓が現れていた。
「終わりだ」
爆発。轟音。至近距離で音速を超える物体にぶつかったことからも、即死であることが伺える。
「……」
「……ちっ!」
しかし、萄越は何も反応せず。星詠は舌打ちをした。
空中に生まれた煙から、影が落ちて来る。
黒い塊。何かしらの物体であることはわかるものの。それが何かまではわからなかった。
その物体が蠢きだす。物体は、どんどんと盛り上がっていき、一つの形を成す。
「させるか!」
星詠が物体に向かって追加の攻撃を放つ。
しかし、物体の近くから影の槍が飛び出て、防御する。
物体はとうとう人の形となり。元の姿へと戻る。
「もう。痛ったいわねぇ。女の子の体はもっと丁寧に扱いなさいよ!」
体を再生し切った黒百合は、星詠へと文句を飛ばす。
「は!化け物風情が、人間を騙るか!」
「酷い!これでもちゃんと、人間ですよ?」
黒百合は、星詠の返しを聞き、大げさなポーズをとる。
「でも、これでわかったでしょう?あなたでは私に勝てない。あなたがどれだけ私を殺そうと、全部無かったことになるんだから」
「……」
星詠を煽る黒百合。星詠は何も言うことは無い。木っ端微塵になろうとも、再生する体。
その上、魔力量まで自身よりも上。星詠よりも格上であることは、明白だった。
それでも、笑う。
「なるほど、驚異の再生力だ。そう簡単には殺せなさそうだな」
再生力があり、スペックでもこちらより格上。ならば勝つことはできないのか?本当に?
星詠は自身に問う。奴はまだ、未来視の範疇にいる。
であれば、だ。勝つ方法など、いくらでもある!
「本当に死なないのか試してやろう!」
窓が現れる。今度はさらに数を増やし、五十ほどの窓が現れる。
飛んでくるデブリ。黒百合は、またも同じ手段で迎撃する。
「だから無駄だって言ってるでしょ!」
再び周囲が煙に包まれる。
黒百合は周囲を警戒する。今度は跳躍せずに、防ぎ切る構えをとる。
煙から、何かが飛び出る。
「なっ!?」
驚く黒百合。なぜなら、煙から飛び出してきたのは、星詠未来本人だったからだ。
「はぁっ!」
星詠が至近距離まで近づき、攻撃を仕掛ける。
「くっ!」
黒百合は迎撃しようと伸ばした手のひらから、魔力を放出させる。
しかし、その攻撃は掠りすらしない。
当然だ。未来が見える星詠には、生半可な攻撃など、当たりはしない。
攻撃を見事すり抜けた星詠は、黒百合の顎に掌底を喰らわせる。
「がっ!?」
いかに再生能力を持っていようとも、人体と同じ構造をしているため、脳を揺らされた黒百合は、僅かだが動きが止まる。
そして、その僅かな隙は、星詠相手では致命的であった。
「塵一つ残さん!」
黒百合の体に沿うように窓が展開される。
「消し飛べ」
星詠が呟くと同時に、窓から隕石やスペースデブリが飛び出し、黒百合を破壊する。
「百合!」
流石に萄越も、この状況には、声を上げざるを得なかった。
「……これでも再生するか。……つくづく、化け物だな」
星詠は未来を見て呟く。
黒い物体が爆心地から現れ、再生を始める。
「死ね」
体が再生し切る前に、星詠は追撃する。
星詠の考えた作戦は、非常にシンプル。それは、再生できなくなるまで殺す。ただそれだけ。
再生には魔力を使う。ならば、魔力が底をつくまで殺せばいい。
至極当然の論理だった。しかし、未来視によって相手の動きを完璧に把握し、敵を一瞬で殺すことのできる火力を持つ星詠でなければ難しい作戦だろう。
「百合……!」
萄越は自身の娘がこのままでは殺されることを理解し、救助しようとする。
そのすぐ横を、デブリが通り過ぎた。
「動くなよ術木。貴様も殺すつもりだが、今ではない」
「っ……!」
星詠に睨まれ、萄越は動くことができない。
すでに十度は黒百合を殺した。このまま殺し切れるかと、星詠が考え始めた時、黒百合が反撃に出る。
「っ!」
最初に、星詠が未来視によって、黒百合の発動する魔術を知る。
すぐさまに飛び退る星詠。次の瞬間、龍の顎を模した魔力が、星詠が居た場所を飲み込んだ。
黒百合は再生しつつ、笑う。
「さすがに今のは効ききました。でも、今度はこっちの番です」
またも黒百合の影が蠢き、一つの形を成す。
それは先程、あわや星詠を飲み込みかけた、龍の魔力。
「影龍怒涛」
八匹の影の龍が、星詠に向かってその顎を大きく開けて、襲いかかる。
「舐めるなぁ!」
星詠は全ての影龍に照準を合わせてデブリを発射する。
弾け飛ぶ影龍。しかし、影龍は即座に再生し、再び星詠に襲いかかる。
次々と襲いかかる影龍を星詠は迎撃しつつ避けていく。
「この影龍は何度だって再生する!抵抗は無駄ですよ!」
勝利を確信し、勢いに乗る黒百合。しかし、星詠は冷静に言い放つ。
「何度だって?限度があるようだが?」
星が瞬いた。まず、最も星詠に近いていた影龍に五十ほどのデブリが放たれる。
跡形も無く消し飛ばされる影龍。二度と再生することは無かった。
「まず一匹」
星詠は、冷静に、そう告げる。
「っ!まだ影龍はいます!」
残りの影龍が再び星詠に襲いかかる。
しかし、星詠は次の影龍を消し飛ばす。
「二匹目」
「まだっ!」
焦る黒百合。勝利の確信が揺らいでいく。
「三匹目、四匹目」
続け様に二匹の影龍が消し飛ばされる。
「……だったら!」
残りの影龍全てが一つに固まる。
消し飛ばされぬほどの大きさになれば、星詠を殺せると踏んだ黒百合。
しかし、その考えはすぐに間違いだったと知らされる。
「うつけが。俺の火力はこれが限界だとでも?」
星詠の前に、一際大きな窓が現れる。
「辺り一帯ごと、消え去るがいい!」
窓から隕石が飛び出てくる。その大きさはちょっとした家ほどの大きさであった。
窓から出た瞬間、隕石は摩擦によって発火。紅蓮を纏った壁は、全てを薙ぎ倒しながら進んでいく。
当然、四匹の影龍をまとめた大影龍であろうと、抵抗虚しく消し飛んでいく。
「こっ、のぉ!!」
黒百合は全力で影を展開し、隕石を受け止める。
それは、星詠からすれば、あまりにも致命的な隙であった。
「さて、戦いを終わらせようか」
「っ!?」
いつの間にか側面に周っていた星詠。星詠から、大きな魔力が迸っていた。
星詠は行使する。己が持つ、最大の魔術を。
「星詠家秘奥。【操命術・致命】」
「ぐっ!?」
黒百合は突如として怖気を感じる。
それは、命を握られたという本能の警告。
そして、もう逃げられないという死の宣告でもあった。
「百合!」
「死ね」
萄越が叫ぶ。それと同時に星詠がデブリを放った。
「あっ」
連続して響く轟音。すでに放たれていた隕石も衝突し、黒百合は、何かを言い残すことすらできず、消し飛んだ。
星詠が間界に移ることを提案したのは気分です。
彼とて、町を破壊する趣味は無いということですね




