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第六十六話 連続失踪事件

朝が来た。よく晴れた空で、鳥が爽やかに鳴いている。

 しかし俺は、ふと視線を感じ、横を見る。


 一人用のベットであるはずなのに、何故か薔薇が横に寝ていた。

「なんでここに薔薇が……!?」

 お前床で寝てただろ!

 

「んんっ……」

 すると、俺の声がうるさかったのか、薔薇が目覚める。

 

「おはよう、刀也。昨日はよくごはっ!」

 はっ、しまった!つい反射で手が出てしまった。


「ううん……。朝から強烈だね。さすが刀也だ」

 まぁまぁ本気で殴ったし、普通に壁まで飛んでいったのになんともない、だと……!?

 こいつ、無敵か!?


「さ、朝ごはん食べようか」

 薔薇は立ち上がり、何も無かったかのように言った。




 下に降りて朝ごはんの用意をする。

 刀也曰く、黒峰家の朝ごはんはおにぎりと決まっているらしい。

 なので、今日もおにぎりを食べる。


 俺、薔薇、優奈さんが朝ごはんを食べている様子を見て呟く。


「二人も増えるとお米の消費が早くなるわねぇ」

 食卓に一瞬緊張が走り、優奈さんの食べる手が止まる。


「いつか、このお礼は必ずしますので……」

 かなり申し訳なさそうだ。

 まぁ、今の優奈さんは完全に居場所が無いしなぁ。


 申し訳なさそうにする優奈さんの横で食べ続けていた薔薇が話す。

「だったら、僕は魔獣を倒して稼げるので、自分の生活費くらいは払いますよ」


 魔獣を倒して得られる魔石は、魔術組合が運営する換金所に持って行くことで換金してもらえる。

 俺たちも今まで何度もやってきたことだ。


 薔薇の実力であれば、確かに生活費くらいは稼いでこられるだろう。


 そんな薔薇の横で、さらに優奈さんが縮こまってしまう。

 ううむ……。優奈さんはこちらが巻き込んだようなものなので、あまりそういうのは気にせずに過ごしてほしいのだが……。


 俺がそんな風に悩んでいると、つけていたテレビから、あるニュースが流れる。

「続いてのニュースです。本日未明、東神市在住の女子高校生が失踪した事件が発生しました。警察はここ数年の連続失踪事件が関与していると考えて——」


「は?」

 俺は事件の被害者を見て目を見開く。

 ありえない。こんなことはありえない。だって彼女は、何も関係無かったはずだ。


「なぜ、この子が……」

 刀也もかなりのショックを受けている。

 

 俺は改めて事件の被害者の姿を見る。

 青背景のなんてことのない写真に写っていたのは、最初のルート、優奈さんとのルートで出会った、百合の友達であった。


「どうしたの刀也?」

 薔薇が俺に質問する。


「い、いや。なんでもない……」

 俺は平静を取り繕う。しかし、おにぎりの味がわからぬほどに、俺は動揺していた。





 午前の授業が終わったことを告げるチャイムが鳴る。

「刀也ー!約束通り一緒にご飯食べよー!」

 午前の授業が終わるやいなや、薔薇が俺のいる教室に突っ込んでくる。


 そんな薔薇に俺は近き、囁く。

「薔薇、ちょっといいか?」

「うん?」





 薔薇を連れて俺は屋上に来た。

 優奈さんはまだ来ていない。良かった。これなら話ができるな。


 今から俺は最低の質問を行う。しかし、俺の中には唯一の心当たりであった。


「なぁ、薔薇。お前、昨日家を抜け出したりしたか?」

 連続失踪事件のニュース。それ自体は最初のルートでも見た。

 二回目のルートなどは色々積み重なって見れていなかったが、他のルート同様に、起こっていたはずだ。


 そして、俺はこの失踪事件の犯人が薔薇なのではないかと疑っている。

 薔薇は百合を始め、様々な人を殺しているはずだ。


 間界に連れ込んでから殺せば表向きは失踪になる。

 だから俺は薔薇を怪しんでいた。


 俺の質問を聞いた薔薇がとうとう口を開く。

「いや?特に抜け出したりしていないけど……」

「何……?」


 予想とは大きく外れた答えを聞いて、俺は肩透かしをくらったような気分になる。


 嘘を吐いている気配は無い。しかし、それなら一体誰が百合の友達を?


 たんなる偶然?だがどうしてこのルートでは被害者が変わった?


「心也、ここは薔薇にも協力を頼んだらどうだ?」

 刀也が俺に提案する。


 そう、だな。疑っておいて申し訳ないが、薔薇にも協力を仰ぐとしよう。


「薔薇、実はだな——」

 その後俺は、連続失踪事件の被害者が百合の友達であること、薔薇がその犯人なのではないかと疑ったこと、そして、事件の謎を解くために協力してくれないかということを話した。


「……なるほどねぇ。あまり信頼されているつもりは無かったけど、まさか連続失踪事件の犯人と疑われるだなんてねぇ」

「うっ!それは悪かったよ……。謝るからさ……」


 薔薇の視線に射すくめられ、俺は言葉に詰まる。

 いや本当に、それについては申し訳なかったと思っている。


 俺の謝罪の言葉を聞いて薔薇は、一応溜飲を下げてくれた。

「まったく、確かに僕は百合を殺そうとしたけど、それまで、犯罪なんで一度もしたことないっていうのにさ!」

「え?」


 薔薇の言葉に再び俺は動揺する。

 嘘を吐いている様子は無い。つまりは、他のルートでも薔薇は百合を殺すまで何も犯罪をしたことが無いはずだ。


 そういえば、薔薇との戦いの後にあのニュースを見なかったために、俺は勝手に薔薇を事件の犯人と結びつけていたが、あれ以来まともにニュースを見ていたか?


 なんだ?何かが致命的に間違っている気がする……。


「ちょっと、先に屋上に行っているなら連絡してよ!無駄足だったじゃない!」

 俺が思考の渦にはまっていると、優奈さんが屋上に到着する。


 そういえばお昼がまだだった。

 お昼を食べるついでに、優奈さんにも協力を仰ごう。






 午後の授業が終わった。

 優奈さんにも協力をお願いして了承してもらったので、今から事件の捜査を行うことにする。


「それにしたって、その子は黒木百合の友達かもしれないけど、一般人なんでしょ?黒木百合自身もほとんど一般人だし、流石に普通の犯罪なんじゃないの?」

 優奈さんの言葉はもっとだ。正直、俺もその可能性は疑っている。


 しかし——

「これは勘なんですけど、この事件には魔術が関わっているような気がして……」

 そう、あくまでも勘だ。なのに、この事件に魔術が関わっているという意見が頭から離れない。


「ま、僕は刀也のお願いだからどこまでだって協力するよ」

「ありがとう薔薇」

 一度は疑ってしまったのがより申し訳なくなるほどに薔薇は協力的だ。


「一応、被害者が百合の友達だということもあるのだろう。基本的には薔薇は妹思いだからな」

 本編、というよりも、刀也絡みが例外なだけで、薔薇は案外まともな奴なのかもしれない。


「まずは当然、百合に聞き込みするとしよう」

「えぇ」「だね」

 俺たちは百合のいる教室へと向かった。




 百合のいる教室の扉を開ける。

「百合!黒木百合はいるか?」


 教室に俺の声が響き渡り、一人の女子生徒が反応した。

「先輩、それに、兄さんも……」


 百合がこちらに近いてくる。

 普段の彼女ほど活発な気配が無い。

 おそらく、友達が失踪したからであろう。


「百合、お前の友達が失踪したけど、大丈夫か?」

「あ、待て」

「え?」


 百合に事件のことを尋ねようとすると、刀也が慌てて止めようとした。


「先輩、編ちゃん……、編笠さんを知ってるんですか?」

しまった、薔薇ですら知らない子だから、俺が知っているのは不自然か!


「あぁ、いや。今朝のニュースで見た写真が、前に百合と一緒にいた子と同じ顔だったから、友達が事件に巻き込まれたんじゃないかって思って……」

「そうだったんですね……。はい。編ちゃんは私の友達で、昨日から連絡がつかなくて……」


 俺は小声で百合に囁く。

「もしかしたら、この事件は魔術が関わっているかもしれない。百合にも協力してほしいんだ」

「!……はい。私も編ちゃんを助けるためならなんだってします」


 俺たちは、百合が普段、編笠さんと共に帰るという道を探っていくことにした。






 俺たちは何の変哲も無い住宅街を通って行く。

 ううむ……。特に変わったことは見当たらない……か?


 いやまぁ、そんなすぐに犯人につながる証拠が見つかれば苦労はしないが、それにしたって何も無い。


 道すがら、百合からさらに話を聞いていく。

「昨日は編ちゃんと一緒に帰らなかったから何も無もわからないですけど、家には帰っていないらしくて」


 昨日は百合と薔薇が共に帰り、薔薇と戦った日だからな。


 だがしかし、いったい何故犯人は百合の友達を狙った?

 やはり一般の犯罪で、狙いに理由など無いのか?


 そこも妙だが、さらに気掛かりなのは、薔薇との戦い以降この失踪事件のニュースを聞かなかったことだ。


 薔薇との戦いから数日は、あまり見れていなかったが、かと言って、犯人が捕まったわけではなかったはずだが……。


 もしも、もしも薔薇との戦いとこの事件に関連があるとしたらそれは何だ?

 薔薇が犯人という線はすでに消えた。


 ならば他には……。

 俺はとある思考に辿り着き、足が止まる。


 いや、そんなはずが無い。それこそ、薔薇が犯人である以上にありえない話だ。


 その時、優奈さんが声を上げる。

「ねぇ、何かやけに静かじゃない?」

 俺たちは辺りを見渡す。


 時間帯としては夕方五時頃。人っこ一人いないというのは確かに妙だ。


 まさ、か……。

「心也、後ろだ!」

 刀也が叫ぶと同時に俺は振り向く。


 百合が、目の前まで迫っていた。


「おやすみなさい。先輩♡」

俺たちの意識は暗闇へと落ちていった。


 

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