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第六十四話 黒峰刀也の本音

薔薇の凶行を止めるのに、どうにか間に合い、宣戦布告をした。


 そこで百合が声を上げる。

「あ、あの!どういうことですか先輩!?」

 前回と同じで、百合はまだ事態が飲み込めていないらしい。


「黒峰くん、その子は無事!?」

 そこへ、優奈さんが駆けつける。


「……なるほどねぇ……」

 優奈さんを見た薔薇が腕を再生しつつ、得心したような顔をする。


「魔使家の長女、魔使優奈。つまりは君が候補者で、僕と戦いに来たってわけだ」

 間違ってはいないので、俺は何も答えない。


「先輩、候補者ってなんですか!?戦いって、まさか、先輩と兄さんが今から戦うんですか!?」

 百合はかなり混乱している。

 

 まぁ無理も無い。彼女は最低限の魔術の知識があるとはいえ、ほとんど一般人のようなものだ。

 何が起きているのかさっぱりわからないのだろう。

「百合、説明は後で必ずするから、今は下がっていてくれ」

「は、はい……」

 百合は大人しく安全な場所まで下がる。


 よし、これで少しは安全だろう。

 

 改めて俺は薔薇に向き直る。

「薔薇、一応聞くが、これ以上誰かを傷つけるのを止める気はあるか?」

 それを聞くと薔薇は少し驚いたような表情をした。


「てっきり、僕を倒しにきただけだと思ってたけど、刀也は僕を止める目的もあるんだね」

 

 そう言って薔薇は片手を顎に当てて僅かに考える。


「うん、それは無理かな。君に近づく奴らはやっぱり消さなくちゃ」


 止まる気は無い……か。分かってはいたが、ままならないものだな。


 ここで止まってくれれば楽だったのだが、止まる気は無いと言うなら仕方がない。


 俺はナイフを持って構える。

「戦うしか……ないみたいだな」


「それじゃあ、やろうか!刀也!」

 薔薇の魔力が膨れ上がる。

 同時に俺も、体に魔力を漲らせる。


「行くぞっ!」

 俺は駆け出す。そこに遅れて、優奈さんが俺に身体強化を施す。


「まずは小手調べ、【触腕(テンタコル)】!」

 薔薇の体からいくつもの触手が飛び出し、こちらに襲いかかる。


 今回は最初から全力だ。

 俺はメガネを外し、魔眼の力を解放する。


 今の俺の目には薔薇の触手が全て止まっているかのように見える。


 ナイフを構え、型を繰り出す。

「黒峰流+祈闘神楽」


 薔薇の触手は俺にかすることすらできずすり抜ける。


 薔薇の目には、一瞬で俺が背後に現れたように見えただろう。


 そして俺は、型の名前を呟く。

「【木花(このはな)舞】」


「がっ、あっ……!?」

 全ての触手を切られ、自身の体にもいくつかの斬撃を喰らった薔薇は苦悶の表情を浮かべる。


「まだ、だっ!」

 薔薇は瞬時に触手を再生し、背後の俺に向かって一斉にけしかける。


「無駄だよ」

 ナイフを振るう。

 それだけで、薔薇の触手は俺に届くことなく地面に落ちる。


「そんな……!……だったら!」

 またも全て触手を切られ、薔薇は驚く。

 しかし、すぐに切り替え、触手を再生しながら次の一手に移る。


「【触腕】+【鱗甲(スケイル)】!【鱗甲腕(スネイク・ラッシュ)】!」

 鱗に覆われ、強化された触手が俺に襲いかかる。


 だがしかし、それは無意味な行動だ。

俺の魔術には、物体の硬度は関係ない!


 一歩、強く大地を踏みしめる。


 瞬時に、薔薇の目の前に俺が現れる。

「っ!?」

 薔薇は声を上げることなく驚く。


 俺の速度が上がった?否、黒峰流【身寄せ】、相手の呼吸や瞬きに合わせて移動する型だ。


 相手の目にはまるで瞬間移動したように映る。

 それゆえに、捉えることはできない。


 ナイフを振るう。

 殺す気は無いが、薔薇は再生能力を持っている。

 ゆえに、それなりに深く切る!


「ぐっ、う……!!」

「っ!」

 薔薇は俺がナイフを振おうとした瞬関に大きく後ろに跳ぶ。


 そのため、切ることはできたものの、浅くなってしまった。


「ハァ……、ハァ……。ははっ、すごいね刀也。とんでもない強さだよ。まともにやってちゃ、敵いそうにないや」

 傷を再生しながらも薔薇は笑う。


 言葉だけ聞けば諦めてくれそうだが、薔薇はこんなもので諦めたりはしない。

 それは俺も刀也もよく分かっている。


 だから、構えは解かず、集中を切らさずに備える。


「これでも少し、手数には自身があるんだ」

 薔薇は大きく息を吸い込む。


「あれはっ!」

「【煙幕(スモーク・カーテン)】!」

 黒い煙が辺りを包んだ。


「黒峰くん!」

 優奈さんの声が聞こえる。

 しかし、その姿が見えることは無い。


 突如、俺の背後に薔薇が現れる。

「【収束腕撃(ジャック・ハンマー)】!」

 触手を自身の腕に絡め、強化した攻撃、その威力は、たとえ俺であれ、まともにくらえば、かなりのダメージを負うほどだ。


 しかし——

 「まぁ、お前ならそうするよな」

 その攻撃は、すでに見切られている。


 ステップによって薔薇の攻撃を難なく避ける。

「っ!?」

 まさかこの攻撃が避けらると思わなかったのか、薔薇は目を見開いて驚く。


「終わりだ」

 俺は、ナイフを強く振るった。



 煙が晴れる。

「黒峰くん、無事!?」

 優奈さんが俺を心配する声を上げる。


「俺は大丈夫です」

 ひとまず、優奈さんには俺が無事なことを伝える。


 そして俺は、足元を見下ろす。

 俺によって、体を大きく切り裂かれた薔薇は前のめりに倒れ、悶えていた。


「ハァ……、ハァ……!まだ、だ。まだ……やれ、る!」

 滝汗を流し、薔薇は再生しつつ立ちあがろうとする。


「もう諦めろ薔薇。いくら再生できるからって、そろそろ限界だろう」

 俺は薔薇に諦めることを勧めるが、おそらく薔薇は諦めないだろう。


「嫌……だね!僕は、諦める……つもりなんか……無いよ!」

 薔薇はよろめきながらも立ち上がる。


 やはりか……。かくなる上は……。

 俺は優奈さんの方を見る。


 視線を受け取った優奈さんはこくりと頷く。

 右手を薔薇に向けた優奈さんは言葉を紡ぎ出す。


「私、魔使優奈は汝と契約を結び、汝の主となる。

 汝、我に従うか?」

「っ!?」


 薔薇の体に紋章が浮かび出す。

 まさか使役魔術の対象にされるとは思わなかったのか、薔薇もかなり驚いている。


「ぐっ!?なる……ほど、改造で体が魔獣に近づいた僕なら【使役】魔術の対象にできると踏んだわけだ」

 契約が始まり、薔薇が苦悶の声を上げる。

 抵抗しているのだろう。

 優奈さんも集中して、力を注いでいるようだ。


「悪いけど、この程度で止まる僕じゃないよ……!」

 薔薇は全力で抵抗する。

 しかし、優奈さんもまた、全力で契約を結ぼうとする。


「すまない、少し変わってくれるか?」

 刀也から体の主導権を変わってくれと頼まれる。

 おそらく、薔薇を説得するつもりなのだろう。


「分かった。頼んだ」

 俺の意識は奥に追いやられ、代わりに、刀也の意識が表に現れる。


 刀也が薔薇の説得を始める。

「薔薇、俺はお前に死んで欲しくない」

「そりゃあ、僕だって死にたくはないけどね、君が誰かのものになるのは死んでも嫌だね」


 薔薇は口を動かしはするが、動くことはない。

 それだけ抵抗が難しいということか。


「お前だって分かっているだろ、俺は、お前が思うほど特別じゃない」

「そんな……こと、分かってる!それでも……、僕にとって君は、特別なんだ……!」


 薔薇は顔を(しか)め、絞り出すように声を出す。

 これはきっと、薔薇の、心の底からの本音なのだろう。


「お前がこれ以上自由であるなら、きっといつかお前は誰かを傷つける。そうなれば、本当にお前を殺さなくちゃならなくなる!」

 刀也もまた、心の中の本音をぶつける。


「その時は君が殺せばいいだろう!君に殺されるならば、僕だって本望さ!」

「俺との約束はどうなるっ!!」

「っ!!」


 薔薇が大きく動揺する。

 水滴が、地面にぽつりと落ちた。


「また明日って、言ったじゃないか……!」

「刀……也……」


 誰だって、友達を殺したいわけがない。

 それが、親友と思えるような相手であれば尚更だ。

 それがたとえ、何人もの人の命を奪うような奴だとしても、だ。


 刀也が改めて説得を行う。

「薔薇、お前には死んで欲しくはない。でも、お前をそのまま野放しにするわけにはいかない」

 はっきり言って薔薇は危険人物だ。殺さずに無力化したところで、また問題を起こせば、今度こそ殺さなくてはならないかもしれない。


「だから、魔使さんの契約を受け入れろ。そうすれば、お前を殺さずに済む」

 故に、俺と刀也は、優奈さんに薔薇を使役してもらうことで首輪となるのではないかと考えた。


 もちろん、うまくいく保証は無い。それでも、薔薇を生かす方法があるなら、やってみる価値はあると考えた。


「……」

 薔薇は何も答えない。どうやら、かなり考え込んでいるらしい。


 そしてとうとう、薔薇が口を開いた。

「はっきり言って、嫌だね」

「「なっ……!?」」

 俺と刀也、優奈さんの声が重なる。


 いや、今のは完全に納得する流れだっただろ!?


「刀也は魔使の使い魔になっているんだよね?」

「あ、あぁ。なんというか、成り行きでな」


 薔薇が汚物でも近づけられたかのような顔をする。

「刀也を寝取った女の使い魔だなんて死んでもごめんだね!」

 寝てから言え!……くそっ!やっぱりこいつ、生きる気無いだろ!


「えと……、いや、でも、俺とお揃いになれるぞ?」

 刀也があまりにも困惑して、変な誘い方しちゃってるじゃねぇか!


 しかし、刀也の言葉を聞いた瞬間に薔薇は黙りこくる。

 あれ?どうしたんだ?


「……ならいいか」

 薔薇がそう言ったと同時に光が発生し、目が眩む。


 光が収まると、薔薇には刀也の体に刻まれているものと同じ、つまりは、使い魔の印が刻まれていた。


 こ、こいつ……!刀也とお揃いって言われた瞬間に契約しやがった……!


「えぇ……」

 優奈さんなんて、いきなり契約できたものだから、驚くを通り越して呆れてるよ!


 自由に動けるようになった薔薇が刀也に近づく。

「これからもよろしくね。刀也」

 満面の笑みで薔薇は言う。……まぁ、結果良ければ全てよし……なのか?


 俺たちは、困惑の中戦いを終えたのであった。

 

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