第六十二話 作戦会議
俺は、優奈さんと共に間界を出た。
すると、優奈さんが口を開いた。
「あの、助けてもらっておいて厚かましいとは思ってるんだけど、今晩、あなたの家に泊めてもらえないかしら?」
今までよりなんだか優奈さんが謙虚だが、流れは同じだな。
まぁ、特に反対する理由もないので応じるとしよう。
「そうですねぇ、家族の了解を得なければなんとも言えませんが、俺は良いですよ」
「本当に!?ありがとう……。私、七大魔家の一族なのに魔術が使えなくて、お父様と仲が悪かったの。それでこの間、大喧嘩しちゃって、家出してきたの。使い魔を得てお父様に認めさせてやろうって、思ってね。……まぁ、結果は失敗だったわけだけど」
優奈さんが一気に事情を話す。
……まぁ、俺たちは優奈さんの事情を全て知っているわけだが。
そんなわけで俺は優奈さんを連れて家に帰ることにした。
「ただいまぁ」
ひとまず優奈さんは外で待ってもらって、先に姉さんたちに事情を話す。
とはいえ、了承するのは分かり切っているので、ただの作業のようなものだ。
「あら、遅かったわね。おかえりなさい」
家に入った俺を姉さんが出迎える。
「あ〜、姉さん、ちょっといいか?」
「?なにかしら?」
もう三度目だ。正直、この先の展開は変わらないかもしれないと思っている。
だが、それでも!俺が諦める理由にはならない!
俺はそんな決意を胸に姉さんに事情を話す。
「さっきそこで知り合った人がいるんだけど、家出してきたらしくて、今晩だけでも泊めてくれないかって頼まれたんだけど、いいかな?」
姉さんは一瞬思考した後、答える。
「いいと思うけど……、どんな人?」
さて、ここが正念場だ。
「魔使さん、入ってきてくれ」
「えっと、魔使優奈って言います。先程はお宅の黒峰くんに助けられまして、厚かましいとは思うのですが、今晩だけでも泊めてくれませんか?」
姉さんが固まる。
こうなるのは分かっていた。
問題はここからどうするか!
「困っているようだったし、ほっとけなかったんだ。姉さんだってそうするかなって思って連れてきたんだ」
よし!これなら、あくまでも人助けは当然だから連れてきたよ感を出せるはず!
返答やいかに!?
俺はじっと姉さんを見つめる。姉さんの表情は口をあんぐりと開けた状態から変わっていない。
……あれ?なんだか嫌な予感がする……。
刀也がぽつりと呟く。
「無駄な足掻きだったな」
それと同時に姉さんが再起動した。
「お父さーん!!刀也が女の子連れ込んだー!!」
「くそっ!結局こうなるのかよ!!」
その後も、今までと同じように、父さんも出張ってきて、諸々の事情を話すことになった。
決議が始まったこと、優奈さんが魔使家の枠の候補者なこと、様々な事情が話された。
そして、話題は決議に参加するか否かとなった。
「やっぱり私はリタイアしようと思います」
優奈さんは基本的に初めはリタイアしようとする。
優奈さんはあまり他人を巻き込みたがらないし、他の候補者は七大魔家の当主ばかりなのだから当然と言えば当然だろう。
さて、問題は今回のルートでは決議に参加するべきかどうか、だ。
「どう思う、刀也?」
俺は刀也に尋ねる。
今回のルートでは、百合を攻略しなくてはならない。
あくまでも一般人である百合とのルートなのだから、決議に参加すれば、百合との交流が減り、攻略できないかもしれない。
そうなれば非常に困る。
だからここは、慎重に考えなくては……。
ひとまず、ルートの展開を予想しよう。
百合は親が離婚し、一般人となった。
薔薇曰く、百合には魔術師としての才能は無いらしい。
だから彼女は多少の魔術的知識があるものの、一般人である……はずなのだが。
何か引っかかる。ノクス・マギアにおいて、日魔長決議はかなり重要なピースだ。
いくら一般人である百合のルートだからと言って、決議が何も関わらないということはあり得るのか?
もし、もしも、だ。もしも、百合のルートに限り、ストーリーの筋が大きく変わるようなことあれば、そう、たとえば、こちらの行動によって百合のルートに分岐した時、決議の候補者が入れ替わるなんてことがあれば?
そんなことあり得ないかもしれないし、本当にあり得るかもしれない。
今はまだわからない。だが、七大魔家でもない俺たちが決議に参加するには、優奈さんの使い魔として参加するしかない。
「結論は出たな」
刀也が呟く。
あぁ、やはり優奈さんには決議に参加してもらう。
ならば——
「魔使さん、決議に参加してくれませんか」
「え?」
俺は突如、話を切り出す。
優奈さんはかなり驚いている。
ま、これは毎回そうだ。
というか、父さんや姉さんは俺が決議に参加すると言ってもあまり驚かないんだよな。
こういうところはやはり魔術師の家だということか……。
それはさておき、優奈さんを説得するとしよう。
一度目、二度目と同じように、優奈さんを助けたいと言うところから始め、やばい奴が候補者にいれば民間人が危ないからという理由で説得することに成功した。
これで、今回も決議に参加することができる。
優奈さんを利用するようで少々心苦しいが、この世界のリセットを止めるためにも、優奈さんには協力してもらう。
「今日はもう遅いから寝なさい」
父さんの鶴の一声で俺たちは寝る支度をして部屋に入る。
だがもう少しだけ寝ずに考え事をする。
「なぁ、刀也」
俺は頭の中で刀也に語りかける。
「なんだ?」
「優奈さんと共に決議に参加することは決まった。だけど、祈闘さんはどうしようか?」
本来、祈闘さんは薔薇を倒した一件から操蛇さんと一悶着あり、その後に仲間になる。
前回では、こちらから接触することで早くに仲間になってもらえた。
それを、今回もするかどうかを刀也に相談する。
「正直、祈闘さんは戦力としてかなり欲しい。早くに仲間になってもらえるなら、ありがたい」
だよなぁ、やっぱり祈闘さんとは早めに仲間になるべきか。
だが、と刀也は続ける。
「だが、祈闘さんがいる状態での薔薇との戦いがネックだ」
「どういうことだ?」
俺は刀也の言葉の意味がわからず尋ねる。
祈闘さんがいても秘奥を使われたら激闘にはなるが、それでもやはりいてくれた方が楽なのでは?
「そう、その秘奥が問題なんだ」
刀也は俺の疑問に反応する。
「今回は百合を攻略するルートだ。彼女は少なくとも、殺される直前までは薔薇に対して良い印象を持っている。
これは祈闘さんがいない場合でも同じ話だが、たとえ、兄の方が悪いと分かっていても、目の前で兄を殺されて良い印象を与えられるかと言えばNOだろう。少なくとも、複雑な心境になることは間違いない。誰かと仲良くなることが難しくなるほどに……な」
そこで俺は思い当たる。
「なるほど、それで秘奥を使われると厄介なのか」
薔薇の使う秘奥は不完全だ。
呼び出した魔獣は薔薇の命令を聞かず、真っ先に薔薇を殺そうとする。
さらに薔薇は自分が死ぬと分かりながらも秘奥を使おうとする。
たとえ祈闘さんがいる状態で秘奥の使用を阻止する方向でやろうとしても失敗する可能性が高い。
ならば、あくまで戦うのは俺一人で、何かしらの方法で薔薇を大人しくさせる必要があるな。
正直、俺だって、薔薇を殺したいわけじゃない。
呪禍や四元、星詠だってそうだ。
できることなら殺さずに事を収めたい。
「だから、薔薇を大人しくさせる方法を考える必要がある」
「そうだな。祈闘さんを勧誘するのはやめて、そちらを考えることにしよう」
夜が更けていく。
俺と刀也の作戦会議は深夜まで続いた。




